住民の側を向いた行政

 たぶん住民の皆さんの行政に対する要望も、今お話したような、福祉や子育て支援や、教育とかではないかと思っておることを私が強く感じたのは、長野県で田中康夫さんと言う知事が当選した時から始まって、長野県である市で体育館を建設するって言った時に、反対運動を起こした住民運動があって、その体育館建設が凍結されたという事例が2年前くらいにでたんです。

 これはですね、大変な事なんでございます。皆さんは大変だとは思わないかもしれませんが、市町村の行政と言いますのは、市町村長が決めてですね、予算を提案して、議会が認めれば、手続き上何の問題もないんです。リコールとかなら話は別ですが。一般的ルールから言って、市町村長が提案して、議会がその予算を可決して、良いと言えば、手続き上なんのおかしい事もないんですよ、できるんですよ、その仕事は。ところがそれを駄目だと住民運動が起こって、それを凍結しなければならなかったという事態が起こった市があったんです。

 私ども、田中康夫さんが登場する時に、120市町村長が全員が、元副知事を応援してました。私も一緒になって、私の村なんか山村ですから、みんなでやるって言えば、7割くらいは固まりますから、7割くらいは前副知事を応援して(笑)。 ところが、圧倒的に前副知事が負けた、というときに、私はその時から何を思っているかと申しますと、どうもですね、私ども市町村長や議会議員含めて、本当に民意っていうのを感じて来たのか、民意と言うのを無視して来たのでは無いかと言う事を、その時から強く感じております。

 だから冒頭のような発言になるのです。施設を使うのは、別に松沢知事が使う訳じゃ無くて、皆さんが使うのですから。使っとる人が、県民の皆さんが、私は10時まで使いたい11時まで使いたい、というのを許せんというのは、そんな自治で良いのかと言う事を思えば、それはおかしいと考えるようになった。
 あの選挙は、私ども、今まで行政というのは、本当は住民から選ばれながら、どうも県や国の方を向いていたのではないかという事を本当に感じさせられたような出来事でした。そういう事が、わたしどもの長野県でもですね、いっぱい起きている。私はそこでもう一回、住民の方を向いてみる必要があるのではないか。

 私はですね、市町村長の仕事っていうのは(議会議員もそうなんですよ)、住民の皆様から選挙されたわけでございます。従って、誰のために行政をやるか、市町村民のため、住民のために、行政をやるというのが、当たり前だと思っている。これは当たり前の事で、顔を住民の方を向いてやらなければいかんということなんです。
 ところが、日本の統治システムからいきますと、国や県の意向を無視して出来んという思いがあって、少なくとも今まで、重心を測ればですね、51以上は国や県の方に体重が乗っておったのではないか、と言う事を私は思うんです。今も、たぶん多くはそうではないか。

 これは合併の話になるですが、私こう言う事を言った事がある。総務省の役人にも、小西砂千夫さんにも学者にも何人にも言った事がある。
「わかった、そこまで合併させたかったら、国で決めてくれと。こういうふうな合併をしろと。いいよそれで、聞くよ、言う事を。決めてくれと。どうせ恋愛結婚なんか出来ない地域なんで(笑)、見合い結婚の相手なんか国が選んでいい」と。すると向こうは、
「それは絶対にできん。絶対に出来ん」
と言う。衆議院も参議院の地方行政委員会の議論を聞いても、総務大臣も含めて、絶対に言いませんからね、「強制的に」なんてことは。「自主的合併」という。絶対に 「自主的合併」。これは絶対に譲らないと言う。
 総務省の、親しい方とも話しましたが、
「それは我々も、やれと言われればやるけども、本当にやるなら人口最低1万人で決めなければならないかなと思う。1万人とか3万人とか。どうせ決めるなら3万人と思うけども。それでも自主的合併だ」と。
綺麗ごとを言わないで決めてくれと言ったらそれは出来ないという。小西砂千夫さん、合併推進派とされている小西さんが私に、
「村長、そうい『とろくさいこと』を言ってはだめ」て、言う。
「だって良いじゃない、俺が良いって言ってるんだから」
「そういうもんじゃない、自治と言うものはそういうもんじゃない(笑)

 その時に私は思うんです。まあ、そうかと。そうであるならば、私たちが今まで、国や県のこっちの流れの方の、統治システムに軸足を置いて来た『51』を、住民の方に51の重心をかける、そういう時代でいいんじゃないか。私はだから、職員にも毎日のように住民の方を向いて仕事をするようにと言います。
 私、県によく思われよう、国によく思われようなんて考えない。田中康夫に任命されたわけじゃないし、小泉純一郎に任命されたわけじゃない。住民から選ばれた村長なんで、住民の皆さんが良いと言えば、やるんであって、それをもし悪いというならば、それは県知事でも総理大臣でも私を罰すればいい事だと。

 それくらいまで思わなければ、今回の市町村合併は、なかなか本当に、地域の事、住民のためを思って決断するなんてできない。


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