人口1万人以下の自治体で何が悪い?

 総務省の試算では、中学校は人口13200人程度の人口がないと、設置は望ましくないという事です。これぐらいの人口規模がないと、生徒の数が480人集められないからだそうです。何故480人かと言うと、1学級あたりの生徒数を40人として、12学級必要だと言うのです。
 1学年に4組ずつクラスがある計算ですね。

 他に、在宅介護支援センターは人口12500人程度に一ケ所設置するのが望ましい、といったことも言ってます。

 このようなもっともらしいデータを基に、『人口1万人以下の自治体は、自分自身で行政運営をするだけの能力が欠けているから合併するべきだ』という論理に結び付けられます。

 しかし、本当でしょうか。
 1学年に4組ではなく、2組ずつクラスがある中学校で何がいけないのでしょうか。私は1学年に1組だけの中学でも全然問題はないと思います。そういう学校は、例えば小学校と校舎を一緒にするのもいいでしょう。それだって立派な経費削減です。むしろ、小学生と中学生が日頃から接して刺激を受け合う関係をもった方が、人格の形成において望ましいかもしれません。
 もちろん、私だって、いくらでも小さくてもかまわないとは思いませんよ。
『学校の人数が少なくて、生徒たちが野球もサッカーも出来ない。』
こういう規模になってしまったら、生徒にとっても不幸だと思います。でもこういう極端な状況に陥っているのでなければ、市町村合併をして地元から学校を無くしてしまうよりも、極力地元に学校を残す方が、よほど愛情のある政策ではないでしょうか。

 実は、このような論法で合併を正当化するのは今回が始めてではありません。昭和の大合併でも、もっとも強く主張されたのは、「中学校の設置は人口8000人以上の町でないと相応しくない」というものでした。

 このような『人口○万人の規模がないと、○○の設置は望ましくない。だから合併して大きくすべきだ。』という論理には、あまり根拠がないと思います。
 というのも、仮に合併して人口1万人の町が5万人になったとしましょう。そうしたら今度は『人口10万人の規模がないと、○○の設置は望ましくない。だから合併して大きくすべきだ。』という意見が新たに突き付けられる可能性もあるのです。

 つまり、『人口○万人の規模がないと、○○の設置は望ましくない。だから合併して大きくすべきだ。』という論理には際限がないのです。

 行政の仕事には1000人に一つ必要なサービスや施設もあるでしょう。1万人に一つ必要なサービスや施設もあるでしょう。10万人、100万人に一つ必要なサービスもあるでしょう。その中で、市町村は市町村に相応しい仕事をすればいいし、市町村独力で出来ない仕事であれば、複数の市町村で広域組合を作って行えばいいし、それでも出来ない仕事は県がやればいいのです。

 更に、小さな単位でしかできない仕事というのもあります。市町村よりも小さな単位、自治会であるとか小学区であるとか、そういう単位でないと効果を発揮できない仕事もあるでしょう。私は、特に高齢者への支援政策になると、巨大な町のスケールメリットに期待するよりも、お互いに顔と名前が一致するような小さな単位の中で行うべきだと思っています。

 10万人の人口規模でないと出来ない仕事というのもある事でしょう。しかし、それは決して1万人規模、1000人規模、100人規模の単位が無用であるということではありません。それぞれ10万人規模の単位と同等に重要なのです。
 この辺りの事は『問題解決能力の学校・補完性の原理』でも書きましたのでそちらを参照して下さい。また、社会に自浄能力を保つ上で、小さな単位の重要性は『小さい町が好きな理由』でも触れました。

 現在行われている市町村合併は、下から民意を汲み上げて行われている政策ではなく、上からの、国から主導されている政策です。
 ですから、『自治体は大きくなければ今後はやっていけない』という論理を展開したがるのです。何しろ、一番大きな単位は「国」ですから、この論理の土俵に乗る限り、国に逆らえる自治体は存在しません。
 ですから私はこの論理の土俵には乗りません。
人口1万人以下の自治体で何が悪い?
と、堂々と言ってしまえばいいと思っています。

 最後に、これも随分酷いこじつけだなあと思わされた資料を紹介します。以下のグラフは、神奈川県発行の冊子『これからのまちづくりと市町村合併』からの引用です。

財政事情の国際比較
国及び地方の債務残高(対GDP比)

 この冊子では『国、地方の債務残高の対GDP比を見ても、他の主要先進国は着実に財政の健全化を進めた結果、横ばい又は減少する傾向にありますが、わが国については急速に悪化しており、主要先進国中最悪の水準となっています。』と説明し、市町村合併によるコスト削減を正当化しようとしています。
 しかし、このような結果になったのは、本当に市町村の単位が小さかったことが原因なのでしょうか。

 ちなみに、フランスには3万を超える自治体が存在していますが、その90%は人口5000人以下。アメリカは80%が5000人以下の自治体です。

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