1.ホンダ・ビートとは?

 

 1991年、ホンダが世に送り出した究極の“趣味車”。

 「軽」規格という実用性を重要視されがちな枠組みの中に、「オープン」「ミッドシップ」という、極めて非実用的なギミックを詰め込んだ非常識な車。 64ps のエンジンはパワフルとは言い難く、実際に最高速度は 160km/h がいいところだろう。 CDチェンジャーを搭載するとトランク内にはキャベツを一個入れるのがやっと、大根はそもそも入らないというくらいに荷物が積めず、幌の遮音性の悪さとエンジン配置上の問題から高速道路では助手席との会話にも難儀するほどだ。 他にも、雨漏りはするし、エアコンの効きも悪い、停止時のステアリングが重い上に後方視界が良くないから車庫入れがしづらい、などなど…

 そんな欠点だらけの車が発売後15年を越えた今でも、多くの人の心を掴んで離さない。

 それには色々な理由があるだろう。
 ビートの魅力については、すでに多くのホームページや雑誌で語られていることであり、今更ここで語る必要はないだろう。 Link で紹介するページを辿ってもらえれば、私よりふさわしい人がそれを語ってくれているからだ。 しかし、実のところビートにこだわっている理由は人それぞれで、百人のビート・オーナーがいれば、百通りのビートの愛し方が存在していたりする。 私のように手軽に乗れるオープンカーが欲しくてビートを手に入れた人もいれば、ミッドシップに乗りたくてビートを購入した人もいる。 かと思えば、そのスタイリングに一目惚れし、エンジンの場所なんて知らずに書類に判を押していたという人もいる。

 だから、ビートのここが素晴らしいからお勧めだ!なんてことは実は言えないのかもしれない。 ただ一つ、言えることがあるとすれば、それは ビートは代えの効かない車である ということくらいだろうか。 ビートに似ている車というのは無い訳ではない。 「オープン」で「ミッドシップ」ということであるならば、トヨタ・MR−S という選択肢もあるし、「軽」で「オープン」の ダイハツ・COPEN も新車で購入できる時代だ。 お金に糸目を付けないなら、ポルシェ・ボクスター や ロータス・エリーゼ もビートとよく似たキャラクターを持っているだろう。 だが、それでも私は確信している。 そうした車に乗り換えたとして、きっと何かが違う、そう感じずにはいられないだろうと。

 MR−S に試乗したことがある。 ビートよりずっとパワフルで走りやすい車だったし、二つ折りの幌も理にかなっていた。車内に収納スペースがあってビートより、ずっと荷物も運べるだろうし、どこかが壊れるかもしれないというストレスもビートと比べたら皆無に等しい。 でも、ビートに乗っている時に感じる“ワクワク感”はそこにはなかった。私にとってビートのコックピットは “手軽に行ける非日常” なのだ。 その中にいる時だけ、日常から遠ざかっているようなそんな錯覚を覚える場所。 
 独特のメーター・ナセル、タイトで低い着座位置、背後から聞こえるエンジン音、小気味よく精密なシフト・フィール、クイックなハンドリングとダイレクトなアクセレーション、そして、開放感あふれる頭上のパノラマ…。 すべてがそのために必要なものであるのに違いない。 MR−S も COPEN も良くできた車だが、それ故にそこは日常の延長線上でしかない。ボクスターではその高級感が、エリーゼではスパルタンな印象が、非日常へ行くのを邪魔してしまう。

 これは多分私だけのこだわりだろう。 だが、人それぞれにビートへの思い入れがあることは間違いない事実であると思う。 だから、きっと次の言葉に共感してくれる人は多いはずだ。

 


ビートは自動車でもオープンカーでもない。
ただ、ビートという乗り物なのだ。

 

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