第16話 悟空の偽者
またも、追放された悟空は、行き場を無くして筋斗雲に乗りながら、これからどうするか考えた。
天竺への旅を途中でやめて花果山に戻るのも格好がつかないし、かといっていまさら三蔵のもとに頭を下げて戻る気にもならない。
考えた末、補陀落山の観音に相談しに行った。
「観音様、俺はお師匠様を守るため、あいつを倒したんだ。それなのにおかしいと
思いません?」
「それはお前が間違っている。たとえ身を守るためでも、命あるものを殺しては
なりません。」
「チェッ、わかりましたよ。それより、この頭の輪っかをはずしてもらえませんかね?」
「それは出来ません。それが出来るのはお釈迦様だけです。今はあきらめて、頭を
冷やし、しばらく私のところにおりなさい。」
その頃、悟空のいない三蔵の一行は天竺に向かい、さらに西へと進む。里を過ぎ、山を越えて目に入ってきたものは、見渡す限りの荒野だった。
周りには、食べ物も水も見当たらない。八戒は、水だけでもと三蔵と沙悟浄を残し、泉を探しに出かけた。
しばらく待ってみたが、いつものように帰ってこない。仕方なく、沙悟浄が八戒を探しに行った。しかし、探しに行った沙悟浄もなかなか帰ってこない。
三蔵はひとり寂しく待っていると、そこへ悟空が現れた。
「お師匠様、俺がいないと色々困るでしょう。」
「そんなことはありません。」
「のどが渇いてますか? だったらこの水を飲んで下さい。」
「そなたの水などいりません。」
「そんなにムキにならなくてもいいのでは。そんなことじゃ天竺までいけませんよ。」
「余計なお世話です。あまりしつこいと緊箍呪を唱えますよ。」
「そうかい、かけられるものならかけてみやがれ!」
実はこの悟空、魔物が悟空に化けた者だった。
魔物は三蔵を殴り倒すと、三蔵の抱えていた青い包みを奪い、どこかへ消え去ってしまった。
その頃、八戒は一軒の家にたどり着き、やつれた坊主に化けて、茶碗に一杯のご飯を恵んでもらっていた。
そして、三蔵の所へ戻る途中、沙悟浄が泉で水を汲んでいるところに出会う。
八戒と沙悟浄は二人で、三蔵のところへ戻ってビックリ。三蔵が倒れていた。
「お師匠様!」
「.....。」
「畜生! 山賊どもの仕返しだな。」
「八戒、仕返しに行くのかよ?」
「あたりまえだ。」
「うっ...。」
「お師匠様、気がつかれましたか。」
「私を殴ったのは悟空です。そして、私の大事な青い包み奪い取っていきました。」
「何だって!?」
「いくら何でもひどいじゃないか。俺が水簾洞に殴りこんでやる。」
「待ちなさい、八戒。お前が行けばけんかになる。沙悟浄が行ってきなさい。」
「わかりました。」
沙悟浄は、三日三晩かかって、やっと水簾洞にたどり着いた。
悟空は岩の上でサル達を従えていた。沙悟浄は悟空に近づいていくと、サル達に取り押さえられてしまった。
「お前は何者だ?」
「悟空兄貴、いまさら何をとぼけてるんだ。何でもいいから、そこにある青い包みは
お師匠様の荷物だ。それを返してくれ。」
「やなこった。俺がお師匠様の代わりに天竺に行ってやる。」
「悟空兄貴がひとりで天竺に行っても、掛け合ってくれないぜ。」
「それはどうかな?」
悟空は、家来のサルに耳打ちした。しばらくすると水簾洞の奥から三蔵の一行が出てきた。
もちろん、その中には、沙悟浄もいる。沙悟浄は自分の持っている杖で、もうひとりの自分を叩いた。
すると、もうひとりの沙悟浄はサルの正体を現した。術がばれた悟空は毛を逆立てて怒り、沙悟浄に襲いかかった。
沙悟浄は、争いを避けるため空高く舞い上がると、そのまま補陀落山の観音の所へ逃げた。
補陀落山へたどり着いた沙悟浄は目を疑った。そこには、もうひとりの悟空が観音の側ですましている。
「こいつめ! 先回りして観音様を騙すつもりだな。これでもくらえ!」
「待て、沙悟浄。悟空は3日前からここにいるのだぞ。」
「何ですって!? じゃ、花果山にいる悟空兄貴は一体、誰なんだ?」
「なに!? もうひとり俺がいるってか。」
「そうだよ。」
「観音様、どうしたらよいでしょう?」
「悟空よ、花果山へ行くがよい。」
悟空と沙悟浄は筋斗雲に乗ると花果山へ急いだ。案の定、もうひとりの悟空がサル達と一緒に酒盛りをしていた。
悟空は如意棒を振り回し飛びかかった。もうひとりの悟空はひらりと身をかわす。
次の瞬間、悟空と悟空が大格闘を始めた。どっちが本当の悟空かもわからず、なかなか決着がつかない。
ついに二人は観音のところへ行って、どちらが本物か見極めてもらうことにした。
観音のところへ行っても二人は、どちらも本物だと言い張る。観音が悟空を呼ぶと、二人とも返事をする。
観音にも区別がつかない。仕方なく、観音は玉帝に見極めてもらうよう、二人の悟空に言った。
二人の悟空は、玉帝のところへ行った。
玉帝は「破魔の鏡(はまのかがみ)」でどちらが偽者か映してみたが、どちらも悟空だった為、玉帝にも区別がつかなかった。
玉帝は、三蔵のところへ行って見極めてもらうよう、二人の悟空に言った。
次に、二人の悟空は、三蔵のところへ行った。しかし、三蔵もどちらが本物の悟空か判らなかった。
二人の悟空を目の前に、緊箍呪を唱えてみた。しかし、二人とも頭を抱え転げまわった。
三蔵は仕方なく、釈迦にのところへ行って見極めてもらうよう、二人の悟空に言った。
二人の悟空は釈迦の住んでいる「雷音寺(らいおんじ)」へ行った。釈迦は、二人の悟空が来るなり、こう言った。
「この世には、神でも鬼でもなく、鳥でも獣でもなく、また、魚でも虫でもない生き物がいる。
その者は、人の言葉を知り、はるか彼方のことまでわかり、どんな生き物の姿にも変えることが出来る。
こちらにいる悟空がその生き物、六つ耳のヒヒです。」
釈迦が指差した方の悟空は、それを聞くなり蜂に化けて逃げ出した。本物の悟空が追いかけて捕まえようとする。しかし、その前に釈迦は金の鉢で蜂を捕まえた。
腹が立っている悟空は納得がいかず、釈迦が金の鉢を上げたとたん、蜂を叩きつぶした。
こうして、偽者の悟空はいなくなった。青い包みを取り返すと、三蔵は悟空を許し、再び天竺への旅を皆で始めた。
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