孫悟空の「西遊記」  第14話 紅瓢箪(あかひょうたん)

第14話 紅瓢箪 (あかひょうたん)

悟空は押し潰されたが、ただのサルではない。 いつかは金角・銀角の手下が様子を見にくると思い、押し潰している山の下から体を抜き、仙人に化けて待っていた。

やがて、金角・銀角の手下が紅瓢箪を持って通りかかった。悟空は如意棒を突き出して手下を転ばせた。

     「おい、何しやがるんだ!」
     「わしの国ではこれが挨拶じゃ。」
     「お前、どこから来たんだ?」
     「蓬莱の島からじゃ。」
     「と、いうことは仙人か?」
     「あたりまえじゃ。」
     「この様な無礼をお許し下さい。」
     「まぁ、楽にしなさい。わしは仙人になりたい者を探しているのだが、お前たちに
      その気は無いか?」
     「なりたいです。是非、お願いいたします。」
     「よろしい。で、お前たちは一体何者じゃ?」
     「はい、金角様、銀角様のいいつけで、これから孫悟空を捕らえに行く途中です。」
     「ほう...。わしもアイツには恨みがある。ところで、どうやって孫悟空を捕まえる
      つもりだ?」
     「はい、ここにあります紅瓢箪で...。」
     「どうやってじゃ?」
     「この紅瓢箪の口を天に向け『孫悟空!』と呼び、奴が『何だ。』と答えると、この中に
      吸い込まれます。そこへ太上老君様のお札を貼り付ければ、奴の体は紅瓢箪の中で
      水になって消えてしまいます。」
     「それはすごい。ちょっと見せてくれぬか?」
     「はい。この紅瓢箪はゆうに1000人は吸い込めます。」
     「しかし、わしにはもっとすごいものがあるぞ。」
     「何ですか?」
     「天をも吸い込む、この大瓢箪だ。」
     「まさか。」
     「じゃ、見せてやろう。」

実はこの大瓢箪。悟空の毛を一本抜いて、それを変えた物だった。だから、天を吸い込むことなんて出来ない。 悟空は心の中で、天の神々達にこの世の全ての光を消すよう、お願いしながら叫んだ。

     「天を吸い込め...えいっ!」
     「おおっ!」

すると辺りは真っ暗闇になった。金角・銀角の手下は腰を抜かし驚いた。

     「仙人様、どうか私達の紅瓢箪とこの大瓢箪を取り替えてもらえませんか?」
     「よかろう。大事にするんじゃぞ。」
     「はい。それと、この世の光をもとに戻してください。」

こうして、悟空は紅瓢箪を自分の物にしてしまった。

悟空は、天に上りながら金角・銀角の手下と別れると少しの間、空から様子を見ていた。 金角・銀角の手下は、仙人に化けた悟空が見えなくなると、早速、大瓢箪の魔力を試し始めた。 しかし、天に向かって叫べど、天は吸い込まれない。悟空は、空から金角・銀角の手下の手の中にある大瓢箪を体の毛に戻した。 ビックリした金角・銀角の手下は、大急ぎで金角・銀角のもとへ戻った。悟空は、ハエに化けると金角・銀角の手下のあとをつけて行った。

     「金角様、銀角様!」
     「何だ、何だ?。」
     「申し訳ありません。仙人と紅瓢箪とこの大瓢箪と交換したら...。」
     「どうした?」
     「これがとんだインチキで、どうやら悟空に騙されたようです。」
     「ばか者!」

金角は目の色を変えて怒り出した。銀角は手下達に悟空を誘き寄せ、「七星剣(しちせいけん)」や「芭蕉扇(ばしょうせん)」で戦えばまだ、勝ち目はあると金角をなだめた。

銀角は他の手下達を呼びつけると、「圧龍洞(あつりゅうどう」の金角・銀角の母親のところに行って、「黄金縄(おうごんなわ)」を借りてくるよう命じた。 悟空は圧龍洞へ行く他の手下をつけて行き、圧龍洞に着くと手下を倒し、手下に化けた。 悟空は、金角・銀角の母親に用件を伝えた。母親は黄金縄を持って籠に乗ろうとしたその時、悟空は金角・銀角の母親を倒した。 倒れた姿は「九尾の狐(きゅうびのきつね)」だった。悟空は次に金角・銀角の母親に化けると蓮華洞に向かった。

蓮華洞に着くと金角・銀角は母親に化けた悟空を座敷に案内した。しばらくすると、他の手下達が息を切らせてやって来た。

     「金角様、銀角様! 大変です。母上様が山道で倒れております。」
     「何だと!?」

金角は、目の前にいる母親が悟空であることを見極めると、七星剣で襲いかかった。 悟空は、手に入れた黄金縄を金角めがけて投げつけた。金角は締め付けられ身動きが出来なくなった。 しかし、金角は黄金縄を解く呪文を知っているため逆手に取り、今度は悟空の身動きが出来なくなった。 手に入れた紅瓢箪も金角・銀角に戻ってしまった。そして、三蔵の一行は全員囚われの身となった。

悟空は逃げる時をうかがった。金角・銀角が酒盛りを始めると、如意棒をヤスリに変え、黄金縄を切って抜け出した。 怪しまれないよう、自分の身代わりを置き、金角・銀角の手下に成りすました。

     「金角様、銀角様!悟空が黄金縄を柱に擦りつけ逃げ出そうとしています。」
     「そうか。じゃあ、この鉄帯と取り替えて来い。」
     「わかりました。」

手下に化けた悟空は金角の鉄帯を、自分の身代わりに巻きつけ、本物の黄金縄は自分の懐へ、自分の毛を化かした偽の黄金縄を金角へ返した。 そして、蓮花洞を抜け出した。

悟空はもとの姿に戻ると、今度は蓮花洞の門前に行った。

     「誰か、出て来い!」
     「誰だ、お前は?」
     「悟空孫だ。」
     「何? 悟・空・孫だと!? 捕まえた悟空にそっくりだな。」
     「俺は、孫悟空の弟だ。兄貴を返せ!」
     「ふざけるな、この紅瓢箪で吸い取ってくれるわ。」
     「全てお見通しよ。俺の名前を呼んで俺が返事すると、吸い込まれるって事だろ?
      俺は騙されないぜ。」
     「よく知ってるな。じゃあ、試してみようぜ。悟・空・孫!」
     「何だ...わぁーっ。」

悟空が返事をしたとたん、赤瓢箪に吸い込まれてしまった。金角はすぐ、紅瓢箪にお札を貼った。 紅瓢箪に吸い込まれた悟空は、またもや毛で身代わりを作り、底の方に落とすと自分は「ブヨ」に化け、蓋のほうでじっと待っていた。

少し時間が経ち、金角は悟空が溶けた頃だろうと思い、蓋を開け紅瓢箪の中を覗き込んだ。 底の方で悟空の溺れている姿が見えると、まだ溶けてないと思い、慌てて蓋を閉めてお札を貼った。 悟空はほんの少し蓋が開いた時に、紅瓢箪の中から逃げ出していた。そうとも知らず、金角・銀角はまた酒盛りを始めた。 逃げ出した悟空は手下に化けると、金角・銀角に近づき紅瓢箪の偽物を毛で作ると、本物の紅瓢箪とすり換えた。

悟空はまた、蓮花洞の門前に行った。

     「誰か、出て来い!」
     「誰だ、お前は?」
     「孫空悟だ。」
     「何? 孫・空・悟!? 今日は悟空に似た奴がよく来る日だな。」
     「俺は、金角・銀角のアホ面を見に来た。金角・銀角は何処だ?」

紅瓢箪を持った銀角が現れた。銀角は先程、悟空に紅瓢箪をすりかえられたことを知らず、紅瓢箪を悟空に向けて呼びかけた。

     「おい、孫空悟!」
     「何だ?」
     「おや? なぜ悟空を吸い込まない。おかしいなぁ...おい、孫空悟!」
     「だから、何だと答えているだろう。」

悟空は何回か呼ばれて返事をしたが、隙をついて本物の紅瓢箪を銀角に向け呼びかけた。

     「おい、銀角!」
     「何だ...わぁーっ。」

銀角はつられて返事をしたとたん、赤瓢箪に吸い込まれてしまった。それを見ていた手下の門番は、慌てて金角のところへ知らせに行った。 金角は七星剣と芭蕉扇を持ち、手下達と一緒に悟空を襲った。悟空は「身外身(しんがいしん)の術」を使い、自分の分身と一緒に金角達と戦った。 戦いの末、金角は自分達に勝ち目がないことがわかると、蓮花洞一帯を炎の海にしてしまった。悟空はすぐに三蔵達を蓮花洞から助け出した。 それを見ていた、金角は七星剣を振り回しながら、悟空を追いかけた。悟空は三蔵達を安全な場所へ移すと、紅瓢箪を持って空に舞い上がり金角を誘き寄せた。

     「おい、金角!」
     「何だ?...しっ、しまった! わぁーっ。」

金角も赤瓢箪に吸い込まれてしまった。こうして、金角・銀角は紅瓢箪に吸い込まれて水になってしまった。 こうして、三蔵達は全員助かった。

実は、金角・銀角。もともと天界の太上老君の家来だったが、五つの宝(「紅瓢箪」「七星剣」「芭蕉扇」「玉瓶」「黄金縄」)を太上老君から奪い下界に逃げていた。 悟空は、五つの宝を太上老君に返し、再び長い長い、天竺への旅へ出発した。



首頁   第13話 金角と銀角 第15話 悟空、またも追放!

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