第13話 金角と銀角
再び、悟空の加わった三蔵の一行は宝象国を出発した。果てしなく続く険しい山道を乗り越え、先を急いだ。
「おい、八戒。一足先に行って、様子をみてきてくれねぇか?」
「お易い御用よ。」
「頼んだぞ!.....プッ。」
「悟空、どうしたのですか?」
「お師匠様、八戒のことですよ。どうせ、どこかで道草をくっているに違いない。
ちょっと、様子を見てきましょう。」
悟空は、アブに変身すると八戒のあとをつけて行った。そうとは知らず八戒は、ひとり言を言いながら山道を歩いて行った。
案の定、少し行ったところの草むらで昼寝を始めた。悟空は、アブからキツツキに変身し、八戒の頭を突付いた。
八戒はビックリして目を覚ますが、キツツキだとわかると手で追い払い、また眠り込む。悟空は何回か八戒の頭を突付くと、八戒は仕方なくまた山道を歩き始めた。
少し行くと岩の前に立ち、なにやらボソボソと話し始めた。悟空は、またアブに変身すると八戒の近くに行き、ひとり言を聞いた。
どうやら、三蔵に報告する台詞を練習しているようだ。
やがて、八戒は三蔵達のもとに戻った。
「どうでしたか、八戒。」
「はい、この山は...えぇーと...。」
「八戒、いいかげんにしろ!」
「えっ?」
「如意棒で叩かれたくなかったら、もう一度ちゃんと行って来い!」
「ごめん、わかった...。」
八戒は、また同じ山道を歩き始めた。先程、悟空にすべてを見通されていたのでオチオチと道草も昼寝もできない。
何かが起きると悟空の仕業と思い込み、ひとり言をいいながら、山道を奥へ進んだ。
その頃、山奥では、「金角(きんかく)」と「銀角(ぎんかく)」が待ち構えていた。
そうとは知らず、八戒は先へ進むと金角と銀角の手下に捕まって、「蓮華洞(れんかどう)」に連れて行かれてしまった。
三蔵の一行は、八戒の帰りがあまりにも遅いので辺りをさまよい歩き、捜した。
それを見ていた銀角は、手下を蓮華洞に帰すと自分は道士に変身して、三蔵達に近づこうと道端に倒れこんだ。
「どうなさいましたか?」
「わたくしは、山の西にあるお寺の道士です。実はこの山道を通りかかったら虎に
襲われ、弟子は食われてしまい、私は岩に足を打ってこの様に...。」
「それはお気の毒に...。歩けますか?」
「いいえ。」
「では、この馬にお乗りください。お寺までお送りしましょう。」
「ありがとうございます。でも、立ち上がることもできません。」
「わかりました。沙悟浄、お前の荷物を馬に乗せ、道士様を背負って差し上げ
なさい。」
「失礼ですが、沙悟浄という方の目は、私を襲った虎にそっくりなので、恐ろしくて
近づくこともできません。」
「では悟空、お前が背負って差し上げなさい。」
悟空は三蔵の言葉を守り、道士を背負った。三蔵は気づいていないが悟空は、道士は銀角が化けた者とすぐにわかった。
三蔵の一行は山の西にあるお寺に向かって歩き始めた。悟空は三蔵の一行からわざと遅れるように、ゆっくりと歩いた。
そして時をうかがい、銀角を放り投げようとした。銀角は悟空の心の中を読み取り反撃に出た。
銀角は呪文を唱え、天竺の「須弥山(しゅみせん)」という山を呼び寄せ、悟空の左肩に落とした。
悟空が少しよろけると、次に四川(しせん)の「峨眉山(がびさん)」という山を呼び寄せ、悟空の右肩に落とした。
さすがの悟空もこの魔術にちょっとうろたえると、三蔵の一行のもとへ駆け出した。
銀角はしぶとい悟空にうなると、今度は山東(さんとん)の「泰山(たいざん)」という山を呼び寄せ、悟空の頭に落とした。
ついに悟空は、その場で押し潰されてしまった。銀角は正体を現すと三蔵の一行を捕まえ、蓮華洞に連れ帰った。
「おい、金角。例の坊主を捕まえたぞ!」
「サルはどうした?」
「安心しろ。須弥山、峨眉山、泰山で押し潰してやった。」
「そいつは良い。だが、山で押し潰しただけでは、ちょっと心配だな。」
「じゃ、この「紅瓢箪(あかひょうたん)」で退治しよう。」
銀角は手下を呼ぶと、紅瓢箪を使い悟空を捕らえるよう命じた。
|