第11話 牛頭夜叉
仏塔からうまく逃げられた三蔵と八戒と沙悟浄は、百花公主との約束を守るため宝象国へ急いだ。
やがて街並みが見え、宝象国へたどり着いた。
三蔵は早速、百花公主の父親である国王の元へ出向き、約束の手紙を渡した。
国王は娘からの手紙を読むと、血相を変え兵士を呼び集めた。
「だれか牛頭夜叉を退治する者はおらんか?」
「.....。」
だれも、歩み出る者はいなかった。そこへ家老が歩み出た。
「国王様、ここにおられる三蔵法師様なら牛頭夜叉を退治するぐらい、容易いものでは
ないでしょうか?」
「それもそうだな。」
「国王様、とんでもございません。わたくしを牛頭夜叉から救ったのは弟子達でござい
ます。」
「そこの二人。名を何と申す?」
「わたくしは八戒と申します。隣にいるのは沙悟浄でございます。」
「八戒、沙悟浄。そなた達なら牛頭夜叉を退治することが出来るかな?」
「はい、お任せください。」
八戒は、得意そうに言った。そして、牛頭夜叉を倒すため再び仏塔へ戻った。
その姿を見かけた牛頭夜叉の家来は大急ぎで、波月洞に知らせに行った。
やがて八戒達は、波月洞の門前まで来た。
「おい、夜叉!」
「誰だ、お前は?」
「俺様は八戒だ。お前が無理やりさらった百花公主をこちらに返せ。」
「うるせー!」
牛頭夜叉は太刀を振りかざし八戒を襲った。八戒も負けじと熊手で応戦した。
しかし、圧倒的に牛頭夜叉の方が強かった。八戒は勝ち目がないと思うと、草むらに逃げ込んだ。
驚いたのは沙悟浄。沙悟浄は八戒を追いかけて草むらに逃げ込んだが、沙悟浄だけ牛頭夜叉に捕らわれてしまった。
沙悟浄は縄で縛り上げられ、しょんぼりしていた。牛頭夜叉は八戒がなぜ、百花公主を返せと言ったのか気になった。
もしやあの時、百花公主が助けを求めたに違いないと思い、百花公主に問いただした。
「おい、お前。八戒達に何を頼んだ?」
「何のことですか?わたくしは何も知りません。」
「とぼけるな! あの時、奴らを逃がしたのも、お前の企みだな?」
「いいえ。そう思うなら、私を処刑してください。その代わり、あなたは罪の無い者を
処刑したことになるのよ。」
「うるせー!」
「おい、河童! この女に何を頼まれた?」
「何も頼まれてないぜ。」
「うそをつけ!」
「何で、百花公主がさらわれたのか知っているかと言うと、宝象国を通りかかったとき、
国王に会って百花公主を助けるよう頼まれたからさ。だから、俺は百花公主から
何も頼まれてないぜ。」
「そうか...。おい、お前。すまなかった。俺を許してくれ。」
「ねぇ、あなた。これでわかったでしょ。だから、沙悟浄を許してあげたらどうですか?」
「あぁ。縄は解いてやるが、こいつは大事な人質だ。逃げられないよう、気をつけろ。」
そう言うと家来に見張るよう命じた。
その夜、酒盛りを始めた牛頭夜叉は上機嫌になり、宝象国国王に正式な百花公主の夫であることを告げに行くと言い始めた。
しかし、今の身なり姿では国王が驚いてしまうと思った牛頭夜叉は、自分の姿を術で好青年に変身させた。
そして宝象国へ出かけると、国王に会おうと城を訪ねた。そこでは、三蔵と国王が天竺への旅の話に花を咲かせていた。
「国王様、百花公主様の夫と名乗る者がお出でですが、いかが致しましょう?」
「私はその様な者は知らぬが...。三蔵法師様、どう思われますか?」
「もしや、牛頭夜叉では...。」
「ともかく、ここに連れて参れ。」
「はい。」
好青年に化けた牛頭夜叉は家来に付き添われ、国王のもとに連れて来られた。
「そなたは、どのような縁で百花公主と結婚したのだ?」
「はい、あれは忘れもしない13年前。私が農作業の帰り道、虎に襲われそうな娘を
見かけ助けました。それからいっしょに暮らすようになり、結婚しました。しかし、妻が
王女だったとは今の今まで、存じ上げませんでした。」
「なるほど。」
「それよりも、国王様。ここにいる法師はその時の虎が化けた者です。お気を
つけを...。」
「どういうことだ?」
「はい...。そこの坊主! 正体を現せ!」
牛頭夜叉は術を使い、三蔵を虎に変えてしまった。三蔵は必死に言い訳をしようとするが、声ではなく雄叫びになってしまい、どうするすべも無かった。
家来達は、虎を捕らえると鉄の牢に閉じ込めた。国王は好青年に化けた牛頭夜叉をすっかり信じてしまい、その夜飲めや歌えの宴を開いた。
夜更けに国王が居なくなると、女たちに舞を踊らせては、一人づつ食べてしまった。
その頃、馬小屋で草を食べていた玉龍は、行き来する人々の話を聞いて、三蔵が虎にされて鉄の牢に入れられていることを知った。
玉龍は三蔵が心配になり、たづなを引きちぎり龍の姿に変身すると、空に昇り、城の上空から様子をうかがった。
すると、城の中では牛頭夜叉が女をむさぼり食っていた。玉龍は三蔵を助けようと、若く美しい女に化けると牛頭夜叉に近づいていった。
そして、牛頭夜叉の隙を見て襲いかかった。しかし、牛頭夜叉にかなうことなく、あっさりと逃げて身を隠した。
その頃、草むらの中に逃げ込んだ八戒は、牛頭夜叉が追って来ないことを確認すると、ホッとして眠りこけていた。
やがて目が覚め、急いで城に戻ろうとした時、玉龍と鉢合わせた。
「八戒! 今まで何してたんだ!」
「助けてくれ〜!」
玉龍は八戒を怒鳴りつけた。ビックリした八戒は、また逃げ出した。しかし、玉龍は服の裾に噛みつき引き止めた。
「八戒、お師匠様が一大事だ。虎にされて鉄の牢に入れられている。」
「本当か?」
「こうなったら、悟空兄貴に助けを求めに行くより他はないぞ。」
「でもなぁ。」
「どうして?」
「俺は、悟空兄貴とけんか別れしたままだから、今さらお願いに行っても...。」
「そんなこと、言っている場合じゃないだろう! 悟空兄貴なら、きっと解ってくれる。」
「わかったよ。じゃ、行ってくる。」
八戒は、耳を大きくしてそこに風を受けると空へ飛び立ち、悟空の所へ急いだ。
|