第10話 悟空、旅から追放!
鎮元仙人と仲直りした三蔵達は、再び天竺へ急ぎ旅を始めた。
やがてとても険しい山道にさしかかった。
幾日も飲まず食わずで歩きつづけた三蔵は、とうとう座り込んでしまった。
悟空は三蔵を心配して何か食べ物を探そうと、あたりを眺めて見ると遠くの山に桃の林を見つけた。
そして桃を取りに行くことにした。その様子を岩陰から見ていた魔物がいた。
魔物は坊主を食べると長生きできると聞いていたので、三蔵を食べてしまおうと美しい娘に変身して三蔵達に近寄っていった。
八戒は警戒して三蔵の前に立った。
「何のようだ?」
「はい、こちらのお坊さまに食事をお持ちいたしました。」
「これはありがたい。お師匠様、せっかくですからいただきましょう。」
「娘さん、ありがとう。」
三蔵がその食事を食べようとした時、悟空は手にいっぱいの桃を持って帰ったきた。
悟空は娘を見るなり魔物とわかり、如意棒を振りかざした。娘は悲鳴を上げ倒れてしまった。
「悟空! なぜ、罪もない娘にそのような惨いことをする?」
「お師匠様、こいつは魔物ですぜ。死んだように見えるが、正体はどこかに隠れてる。」
「悟空兄貴、あまりにもひどいよ。」
「八戒、娘の持ってきた器を見てみろ。中身はこのとおり、ミミズでいっぱいだ。」
そうこう話していると、今度は杖をついたおばあさんが近寄ってきた。すぐに悟空は魔物と見抜き、如意棒を振りかざした。
三蔵は悟空の言い訳を聞かずに緊箍呪を唱え始めた。悟空の緊箍は頭を締め付けていった。
苦しむ悟空は、三蔵に謝り呪文を解いてもらった。
三蔵は悟空に説教していると、今度は老人が近寄ってきた。またもや悟空は魔物と見抜いて、今度もためらいもなく如意棒を振りかざした。
そして自分から話を切り出した。
「お師匠様、こいつも魔物です。もう骨だけになっている。そんなことがありますか?」
「悟空兄貴、嘘はいけねぇ。術を使って骨に変えたんじゃないの?」
「八戒、俺を信じろよ!」
「悟空! お前は罪のない人を3人も倒した。もう弟子でもなんでもない。立ち去れ!」
「でも、お師匠様...。」
「知らぬ!」
「わかりましたよ。」
悟空は、八戒と沙悟浄にあとを頼むと、とりあえず花果山に戻った。
花果山は悟空がいた頃と違い、とても荒れ果てていた。途方に暮れている悟空の所へ一匹の子ザルが来て、悟空に事情を説明した。
どうやら、狩人に荒らされたらしい。頭に来た悟空は狩人を一人残らず倒した。
そして、荒れ果てた花果山を立て直すため、龍王に雨を降らせるよう頼み、山をきれいに洗い流すと、そこへ色々な木や花を植え、元の花果山のようにした。
一方、悟空のいない三蔵達一行は、「白虎嶺(びゃっこれい)」にたどり着いた。
またもや、飲まず食わずの三蔵は座り込んでしまった。八戒は食べ物を探しに行った。
しかし、ここは人里離れた山の中。家一軒、畑ひとつ見当たらない。
八戒は食べ物を探すことを諦め、草むらで昼寝を始めた。
なかなか帰ってこない八戒を心配して三蔵は言った。
「八戒はどうしたことだろう?」
「どうせ何処かの家で、私達のことも忘れ食事でもしてるんじゃないんですかね。」
「沙悟浄、すまないが八戒を連れ戻してきてくれないか?」
「わかりました。」
沙悟浄は八戒の行った道を追いかけて歩き始めた。
三蔵はしばらく待ってみたが沙悟浄も道に迷ったのか、なかなか帰ってこない。
心細くなった三蔵はたまりかねて、沙悟浄が捜しにいった道を歩き始めた。
しばらく行くと、金の瓦葺の見事な「仏塔(ぶっとう)」が目に入った。
きっと誰かが住んでいるに違いないとそこへ入っていった。
三蔵は中へ入ってビックリ。そこには「牛頭夜叉(ぎゅうとうやしゃ)」が寝そべっていた。
気づかれないように後退りしたが、その気配に牛頭夜叉は目を開いた。
牛頭夜叉の掛け声と共に、牛頭夜叉の息子達は三蔵を捕らえた。
一方、沙悟浄はやっとの思いで八戒を見つけた。
八戒の耳を引っ張りながら三蔵のところへ戻るとそこには三蔵の姿はなかった。
近くを捜していると、沙悟浄達も仏塔の近くに来ていた。
八戒と沙悟浄は仏塔で三蔵を見かけなかったか聞こうと仏塔の中へ入っていった。
ところが声を出した途端、牛頭夜叉の息子達が襲いかかってきた。
八戒と沙悟浄は天界の神々に守られながら懸命に戦った。
その頃、三蔵は「波月洞(はげつどう)」に連れてこられ、柱に縛り付けられていた。
頼みの綱の八戒と沙悟浄は助けに来る様子もない。諦めているその時、三蔵の目の前に一人の美しい女性が現れた。
「どなたですか?」
「わたくしは、「宝象国(ほうぞうこく)」の王女、「百花公主(ひゃっかこうしゅ)」と
申します。」
「なぜ、ここに?」
「はい、13年前にここの牛頭夜叉にさらわれ、妻にされている身です。もし、あなたが
私の父への手紙を届けてくださるなら、あなたをお助けします。」
「本当ですか? わかりました。お届けしましょう。」
「ありがとうございます。」
百花公主は三蔵の縄を解くと、父への手紙を渡した。そして、見つからないよう、裏門の草の繁みに隠れるよう三蔵に言った。百花公主は牛頭夜叉の元へ行った。
「あなた、お願いがあるのですが...。」
「なんだ?」
「私は以前、神様にお願いしたことがあるのです。それはあなたと結婚したら、
お坊さまを一人助けるというものです。それで、先ほど外に出てみたらお坊さまが
柱に縛られているのを見ました。だから、私の願いどおり許してあげてもらえませんか?」
「そうか、そこまで言うなら許してやろう。息子ども、戦いを止めろ!」
「あなた。ありがとう。」
それを聞いた八戒と沙悟浄も戦いを止め、三蔵と共に解放された。こうして、何とか無事に牛頭夜叉から逃れられた三蔵達は百花公主との約束を守り、宝象国への旅を始めた。
|