第8話 人参果
(にんじんか)
三蔵達は屋敷のなくなった林をあとにして、天竺への道のりを続けた。途中、「万寿山(まんじゅざん)」にたどり着いた。
万寿山の山中に「五荘観(ごそうかん)」というお寺があり、そこには「鎮元仙人(ちんげんせんにん)」と48人の弟子が住んでいた。この五荘観には、世界に類を見ない奇妙な木が生えていた。
その木は3000年に一度だけ花が咲き、3000年に一度だけ30個の実をつけ、その実は3000年かかって熟し、さらに食べごろになるまで1万年も待たなければならない不思議な実だった。
その実は「人参果(にんじんか)」といった。形はまるで人間の赤ん坊そっくりで、匂いを嗅ぐだけで360年、ひとつ食べれば4万7000年も長生きできるそうだった。
五荘観の主である鎮元仙人は三蔵達がここを通ることを知ったが、天界へ出かける用事があり弟子に三蔵達が来たら、この人参果をふたつ差し上げるよう言って出かけた。
やがて、三蔵達は五荘観に着いた。弟子たちは、粗相のないよう手厚くもてなしいいつけどおり、人参果をふたつ、お盆にのせて三蔵のもとへ運んでいった。
ビックリしたのは三蔵。
「これは、赤ん坊ではありませんか!」
「いいえ、これは人参果と申します。果物ですので安心してお召し上がりください。」
「これが果物といえるのでしょうか?私には食べられません。」
弟子はやむを得ず人参果を引き下げた。弟子達は台所で三蔵が人参果を食べないことや人参果の効能を話していた。
それを聞いた八戒は悟空にその話をした。
「悟空兄貴!」
「なんだい、なんだい。」
「人参果って知ってるかい?」
「知らねぇなぁ...。それがどうした?」
「なんでもそれを食えば、寿命が延びるとか...。」
「それで?」
「この寺に実がなっているらしいんだ。」
「そいつは耳寄りな話だ。俺が行って盗ってくらぁ。」
悟空はそう言うと奥庭へ行った。そこにはバナナの樹のような植物があり、人参果がなっていた。
木のぼりが得意な悟空はよじ登り人参果を3つ盗って八戒の所へ戻ってきた。
「おい、八戒。これを見ろ。」
「3個も盗ってきたのか?」
「当たり前よ。俺とお前、それから沙悟浄の分だ。」
3人は人参果をペロリと食べてしまった。
一方、鎮元仙人の弟子は奥庭の雰囲気がいつもと違うので気になって行ってみた。
弟子は人参果の数を数えてみると減っていることに気づいた。弟子は悟空達が怪しいと思い、三蔵達の所へ行って問いただした。
しかし、悟空達はとぼけたが三蔵は正直に言うよう悟空達を叱った。悟空は嘘をつくのが後ろめたくなり、あっさりと罪を認めた。
「木の実の2個や3個ぐらいでガタガタ言うな!」
悟空はそう言って、人参果の木の側まで来ると、人参果をひとつ残らず叩き落とし、その木までも根こそぎ倒してしまった。
弟子達は木まで倒されて黙っていられなかったが、ここでは怒らずヒソヒソ話をして出てっていった。
その夜、食事の時間になり三蔵達のもとに、食事が運ばれてきた。弟子達はごゆっくりというと部屋の外へ出ていった。
三蔵達が食事をしていると、部屋の外で鍵を掛ける音が聞こえてきた。弟子達は人参果を盗んだ不届き者を外に出さないよう鍵を掛けたのだ。
しかし、悟空は鍵開けの術で部屋の鍵を開け、三蔵達と共に逃げようとした。弟子達に気づかれないよう、眠りの術をかけうまく逃げ出すことに成功した。
三蔵達はとにかく走りつづけたが、東の空が明るくなる頃には疲れきってしまい、林の陰に隠れて休んだ。
五荘観では鎮元仙人が天界から帰ってきたが、弟子達は眠り込んでいたので水をかけて起こすと、弟子達は悟空達が人参果を盗んで食べたことや人参果の木を根こそぎ倒してしまったことを話した。
さすがの鎮元仙人も怒り、弟子達を連れて悟空達を追いかけた。やがて鎮元仙人は悟空達を見つけると、風と共に衣のすそを広げ三蔵達を包み込み捕まえてしまった。
そして、五荘観に連れ戻した。鎮元仙人は三蔵達を征伐するため、革のムチを用意して、まずは三蔵から懲らしめようとしたが、悟空は鎮元仙人に自分が盗んで人参果の木も倒したので罰を受けると申し出た。
弟子達は容赦なく悟空の太ももを叩き始めた。悟空は何食わぬ顔でムチを受けている。なぜなら、術を使い自分の太ももを鉄に変えていたからだ。
ムチ打ちは夕刻まで続いた。鎮元仙人は残りの連中を明日ムチ打ちすると言い残し部屋に戻った。
弟子は悟空達に逃げられないように、お堂の柱に三蔵達を縛って部屋に戻った。
三蔵は困っていたが悟空にとっては縄は輪ゴムのようなも。縄抜けの術を使い縄を解いた。
そして悟空は、仲間の縄を次々に外していった。悟空は八戒に木を4本抜いてくるよう頼んだ。
八戒は訳がわからなかったが、とりあえず近くに生えていた木を根こそぎ抜いてきた。
悟空は、お堂の柱に4本の木をくくりつけると息を吹きかけた。すると4本の木は三蔵達に早変わりした。
そして、今度こそ本当に逃げようと言った。
次の日の朝、鎮元仙人と弟子はお堂に来て言った。
「よし、今日はイノシシ男の番だ!」
「はい」
弟子達は、八戒をムチ打ちし始めた。しかし、弟子達はどうしても悟空が許せなかったので、八戒を辞めてまた悟空を打ち始めた。
ところが、悟空は自分の身代わりには術をかけて来なかったので、ムチの痛さがそのまま悟空に伝わってくる。
悟空は痛みに耐え切れなくなり、身代わりの術を解き放った。すると、五荘観の身代わりはただの木になってしまった。
弟子達はただただ訳がわからず、唖然としていたが鎮元仙人は悟空の術を見破った。さらに怒った鎮元仙人は先日と同じように、三蔵達を追いかけ衣のすそを広げ三蔵達を包み込み捕まえた。
また、五荘観に戻された三蔵達は、今度こそ逃げられないように、白い布でグルグル巻きにしてその上から漆で塗り固められてしまった。
そして、煮えたぎった鍋の中に三蔵を入れようとした。
「ちょっと待った!サルは塩ゆでにするとうまいんだぜ。俺をゆでろ!」
「はははぁ。そうやってまた俺様を騙そうなんてそうはいかないぞ!」
「うそじゃないって!」
「人参果の木を元通り生き返さない限り、お前を生かしておくわけにはいかない。」
「なに? 人参果を元通りにすればいいのか? 」
「そうだ!」
「わかった、何とかする。その代わり、お師匠様達には指一本触れるんじゃねぇぞ。」
「わかっている。」
鎮元仙人は三蔵達の体から漆と白い布を取り払った。すると、悟空は筋斗雲に乗り「蓬莱国(ほうらいこく)」の方に飛んでいった。
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