第6話 沙悟浄
(さごじょう)
八戒が加わった三蔵の一行は高老荘を離れ、再び、果てしない道のりを歩きつづけた。
「黄風嶺(こうふうれい)」を越え、やがて、大平原に行き当たった。そこには「流沙河(りゅうさが)」という石碑が建っていた。
どうやってここを渡るか三蔵の一行が考えていると、目の前の砂が渦巻き一匹の魔物が出てきた。
赤い髪に、青く気味の悪い顔色、首からドクロをぶる下げている河童のような魔物だった。
八戒が飛びかかり、魔物を倒そうとしたが八戒の熊手をかいくぐり、砂の奥深くに沈んでいった。
三蔵はため息をついた。けんか腰でなければ、この砂の大海を案内してもらうことができたはず。
しかし、八戒は三蔵に、「その昔、天の川で8万の水兵を従えていたこの俺様。河の中なら自由自在。」と言い残すと、自ら流沙河の中へ飛び込んでいった。
「やいやい!おまえは一体何者だ?」
「おれか...? おれはその昔、玉帝の下で宮殿で簾番(すだればん)をしてた者だ。」
「簾番?」
「そうだ。でも、西王母の宴で玉帝の大事な器を壊してしまい、流沙河に追放された。
それからは、ここで腹が減ったら河の外に出て旅人を食っている。」
八戒はそれを聞くと、魔物に襲いかかった。しばらく戦いつづけると勢いあまり、河の外へ出てしまった。
悟空は、待ってましたとばかり如意棒で襲いかかろうとしたが、気づいた魔物はまた、河底へ逃げ込んでしまった。
そんなことをいつまで続けていても、「らち」があかないと思った悟空は、観音に相談に行った。
「観音様!」
「これは悟空。また、三蔵から逃げ出してきたのか?」
「違いますってば!」
「何のようですか?」
「流沙河まで来たのですが、砂の中の魔物に手を焼いておりまして...。」
「その魔物におまえ達の旅の目的を教えてやったか?」
「それどころじゃありません。すぐに砂に中に潜ってしまうもので...。」
観音は悟空と話が終わると「恵岸(えがん)」を呼びつけ、赤いひょうたんを渡し、悟空と共に流沙河に行くよう命じた。流沙河に戻ると...。
「沙悟浄(さごじょう)よ...。」
「恵岸様。」
「天竺へお経を取りに行く三蔵法師様の一行が見えておるぞ。」
「恵岸様、あなた様ですか?」
「違う、こちらにおられる。」
「何だって!?このサルとブタですって。」
「いいや、この二人は三蔵法師様のお供です。」
「申し訳ありませんでした。」
「今頃、判るなんて、少しは考えろよ。」
「そっちこそ、何で先に言わなかったんだ?」
「おまえはすぐ潜るだろ。言いたくても言えないじゃないか。」
「三蔵法師様の一行と判っていれば、こっちからお供させてもらうよう言ったのに。」
実は、観音。沙悟浄に三蔵の一行がここを通りがかったら、天竺までお供して守るよう命じていた。
恵岸は流沙河を越える為の渡し舟を用意するよう、沙悟浄に言った。
沙悟浄は首からぶる下げているドクロの飾りを外しそれで輪を作った。
そして、恵岸の持ってきた赤ひょうたんをその輪の中に置くと、ひょうたん舟が現れた。
こうして、三蔵の一行は果てしなく続く、砂の海原を無事に渡ることができた。
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