第5話 猪八戒
(ちょはっかい)
三蔵、悟空、玉龍は果てしない道のりを黙々と歩きつづけた。
幾日も野宿をし、やっと人里に着いた。そこは「高老荘(こうろうそう)」という村だった。
そこで出会ったのが村長の召使いの「高才(こうさい)」という老人。
高才は悟空達に悩みがあることを告げた。話によると、村長には二十歳になる美しい娘がいる。
しかし、3年前に魔物に気に入られて、無理やり婿入りされた。困り果てた村長は、魔物を退治してくれる僧侶を探しているとの事。
悟空達は、高才と共に村長の所へ行ったが、村長は余計に驚いてしまった。娘は魔物にとりつかれ、今度はサルの化け物が僧侶を連れてきた。
しかし、村長は解決できることを祈りつつ、三蔵と悟空を泊めることにした。
村長はその晩、魔物のことを語り始めた。
その魔物は「福陵山(ふくりょうざん)」出身の「猪(ちょ)」という者。
最初は、やさしくて働き者で力持ちの言うことなしの若者だった。しかし、やがて顔つきが変わり、口が長くとがる。
耳が広がり、鬣(たてがみ)のようなものが生えてきた。まるで「イノシシ」のよう。
しかも、大食漢。それだけでなく、妖術も使う。今では娘を部屋に閉じ込め、半年過ぎても村長に会わせてくれない。
悟空は少し考え、村長にその部屋を案内するよう、お願いした。
悟空が部屋の鍵をこじ開けると、中には怯えた娘がいた。どうやら魔物はいないようだ。
娘の話では、もう少し経てば戻ってくるという。娘を別の部屋に連れて行き、悟空は村長の娘に化けると魔物の帰りを待った。
しばらくすると、魔物は風と共に戻ってきた。
「おい、今帰ったぞ!」
「.....。」
「なんだ、なんだ?主人が帰ったのに言葉ぐらいかけたらどうだ。」
「あぁ、つらいわ。」
「何がつらい?こんな良い亭主をもらって幸せではないのか?」
「だって、あなたがあっちこっち荒らしまわるから、私の両親がお坊さんに征伐して
もらうと言ってますわ。」
「無駄だな。俺は天界にも顔がきくんだ。坊主に負けるとでも思っているのか?」
「何やら、天界に名の知れた孫とかいうサルにに頼んだとか...。」
「なに?孫悟空のことか?」
「そうよ。」
悟空は、ここぞとばかり本来の姿に戻った。
慌てた魔物は逃げ出した。悟空はあとを追いかけると魔物は福陵山の洞穴に逃げ込み、9本の歯がついた熊手で応戦した。
「お前はその昔、天界の宴を荒らしていた、猪だな? 俺は天竺に有難いお経を
取りに行く三蔵の一行だ。はむかうとバチが当たるぜ。」
「あなたは、孫悟空様で?」
「そうだ。」
「申し訳ありませんでした。私は観音様から申しつけで、三蔵法師様のお供をする
よう命ぜられております。」
猪はすぐさま、福陵山の洞穴を自分で壊し、悟空に縄をかけてもらい、高老荘へ戻った。
高老荘では村長も娘も、そして召使いも大喜びしていた。猪は村長達に謝り、自分のしたことを反省した。
三蔵は猪の縄を解いてやると、天竺への旅に連れて行くことを約束した。三蔵は猪に「猪八戒(ちょはっかい)」という、名前を授けた。
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