第3話 釈迦の手のひら
西王母の宴には「観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)(=観音)」も招待されていた。
観世音菩薩が来て見ると、蟠桃会は悟空のおかげで、滅茶苦茶になっていた。
玉帝は悟空を征伐するために、非常に苦労していることを観音に話した。
観音は「二郎真君(じろうしんくん)」に征伐してもらうほか無いと玉帝に話した。
二郎真君はこれまでに多くの魔王を退治した強い勇士だ。
二郎真君は6人の弟達を引き連れて、悟空の居場所である花果山水簾洞に殴り込んだ。
「おい、石ザル野郎。出て来い来やがれ!」
「しゃらくせぇ。泣きっ面を見られたくなかったら、さっさと消えうせろ!」
二郎真君は悟空が言った言葉に怒り狂い、身丈を大きくして、悟空に刃を振りかざした。悟空も負けじと身丈を大きくして、反撃に出た。
二郎真君の弟達は隙を見て、悟空の兵士達を攻め始めた。それを知った悟空は、とてもかなわないと思うと、水簾洞に逃げ込もうとした。
しかし、入口は二郎真君の弟達がすでに包囲しており、悟空は行き場を失った。
悟空はとっさに、「雀」に変身して藪の中に隠れようとした。空かさず、二郎真君は「鷹」になり悟空を追いかけた。
悟空が「鷲」になると二郎真君は「鷹」になり、悟空が「魚」になると二郎真君は「鵜(う)」になり...と戦いつづける。
しかし、なかなか決着がつかない。天界から見ている神の一人である「太上老君(たいじょうろうくん)」が「らち」があかないと見切ると、ひとつの「金剛輪(こんごうわ)」を投げ放った。
それは、キラキラと落ちていき、悟空の頭にすっぽりと、はまってしまった。悟空はやがて気を失い、縛り上げられ天界の処刑場へ連れて行かれた。
捕らわれた悟空を処刑しようと刀で首を打とうとするが、打てない。悟空は、すでに不死身の体になっているので、打つ手が無くなっていた。
困り果てた玉帝は、太上老君と相談し「八卦炉(はっけろ)」に入れて溶かしてしまおうと考えた。
炉の中に入れられた悟空は49日間、火を焚き続けられた。49日が経ち、そろそろ溶けてしまっただろうと炉の口を開けると、中から悟空が飛び出してきた。
発狂した悟空は誰にも止められることが出来なかった。玉帝はすべての手を尽くしてしまい、どうしようも出来なくなってしまった。
玉帝は、「釈迦(しゃか)」に相談した。釈迦はすぐさま悟空の所へ出向いた。
「悟空といいましたね。私が話を聞きましょう。」
「何だお前は。どこの坊主だ?」
「そんなことより、あなたはどのような生い立ちをしたのですか?」
悟空は生まれてから今までの生い立ちを話すと、釈迦は高笑いをしながらこう言った。
「玉帝は1億年以上も修行をして、今の地位を築き上げられたお方です。お前のような
サルから成り上がった者には、到底相手になりません。」
「俺様は、72変化(へんげ)の術をすべて会得した。その他に筋斗雲もある。乗れば
一瞬にして10万8000里飛べる。怖いものはない。恐れいったか。」
「ならば、悟空。ここでひとつ賭けをしないか?」
「何だ?」
「私の右の手のひらからあなたが飛び出すことができれば、私が玉帝に天界を譲り
渡すよう、話をつけましょう。どうですか?」
「そんな、簡単なのか?俺をバカにするな!一尺足らずの手のひらなんて朝飯前よ。
それっ。」
悟空は筋斗雲に飛び乗り、世界の端を目指した。しばらくすると、雲の間に5本の柱が立っていた。近くに寄ってみると...。
「ははぁ。これが世界の行き止まりだな。来た証拠に名前でも書いていくか。」
悟空は、自分の毛を1本抜いて筆に変えると、真中の柱に「斉天大聖」と記して、ついでに「オシッコ」までもひっかけていった。
「これで、よし。」
「悟空よ、いい加減にしなさい。」
「なんだよ。俺様は今、世界の端まで行って来たんだ。しかも、そこにあった柱に、
斉天大聖って書いてきたんだぜ。疑うなら、いっしょに見に行こう。」
「いくまでもありません。」
「何でだ。」
「私の手のひらを、よくご覧なさい。」
「・・・・・。これって、どういうこと?」
悟空は目を凝らしてよく見てみると、釈迦の手に中指には「斉天大聖」と書いてあり、しかも中指の根元には先ほど悟空がオシッコした後があり、まだ乾かず湯気が立っていた。
悔しい悟空はもう一度行こうと、筋斗雲に乗り込もうとする。しかし、それを見ていた釈迦は怒り、自分の5本の指を「五行山(ごぎょうざん)」という山脈に変え、悟空を山の下敷きにして閉じこめてしまった。
悟空はもがき出ようとするが、釈迦が山の頂にお札を貼ると、完全に動けなくなってしまった。そして、番人を呼びつけ、悟空の腹が減れば「鉄の玉」を食わせ、のどが渇けば「熔けた銅」を飲ませた。
こうして、悟空はここで、長い年月を暮らさなくてはならなくなった。
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