第2話 孫悟空、大暴れ!
やがて、長い月日が経ったある日...。
仙人が有難い説法を唱えているとき、退屈でしょうがない悟空は、よそ見をしたり、貧乏ゆすりをしていた。
「これ!悟空!!」
仙人は落ち着かない悟空を叱った。
「おまえは、ここにどのくらい居るのだ?」
「裏山の桃を7回、戴きました。」
「もう、7年になるか...。ところで悟空。おまえは何を勉強したいというのだ?」
「不老不死の術です。」
「無駄だ!」
「あぁ、そうですか。7年も苦労して修行してきたのに...。やめた、やめた。
もう、やめた!」
その途端、仙人は高座から駆け降りると、悟空をムチで3回叩いた。
そして、仙人は居間に入ったきリ、出てこようとしなかった。
しかし、悟空は仙人の取った行動が「なぞかけ」だと思った。
「夜中の3時に裏手から訪ねてこい」という意味に違いないだろうと...。
その夜、悟空は仙人の部屋へ裏手から忍びこんだ。
「石ザル、何をしに来た?」
「なぞかけの答えの通り、やって参りました。」
「さすがは、天の申し子だ。」
それから、仙人は東の空が白くなるまで、悟空に「不老不死の術」などの秘術を伝授した。
こうして、仙人の信用をものにした悟空は、仙人のもと修行に励み、数年で「72変化(へんげ)の術」すべてを得とくした。
悟空は日頃、仙人から「秘術とは、心に納めて、人に話すべきものではない」という教えを説いてもらっていたにもかかわらず、有頂天になって、兄弟弟子たちに秘術の数々を見せびらかした。
仙人は、
「バカものが!! 私が特別に説いた秘術を他人に見せびらかすとは、言語道断!」
「私の弟子だったことはもとより、今後一切、私の名を口にするな!」
「破門だ、出て行け!!」
仙人の言うことを聞き、悟空は仕方なく、修行の場をあとにして水簾洞に戻った。
行きは、海を渡り、山を越えて、十数年かかった道のりも、一瞬にして10万8000里を飛ぶ筋斗雲なら、すぐに着く。
さて、水簾洞に着いた悟空は、
「今、帰ったぞ!」
「美猴大王様、首を長くして待っておりました。」
「その様子では、何かあったのか?」
「はい。大王様が留守の間、北からやってきた「混世魔王(こんせいまおう)」という
妖怪が、水簾洞を襲いまして...。」
「物は盗む、おんな・子どもはさらわれる、火は付けられるで...。」
「俺に任せろ!」
頭にきた悟空は、筋斗雲で魔王のいる北の岩山の岩穴へ、殴りこみにいった。
「やいっ、魔王。出てこい!」
「なんだ、なんだ。へなちょこザルめ!」
悟空と魔王は戦い続けた。
あまりにも手強い相手に、苦戦した悟空は、「身外身(しんがいしん)の術(=分身の術)」を使い、魔王が怯んだすきに、首をはねた。
さて、魔王を退治した悟空は、二度と自分達の国を荒らされないよう、家来達を兵士にするための訓練をさせた。
また、反撃するには、武器が必要なため、傲来国へ4万7千の家来を連れて、国王の武器倉庫からすべての武器を盗み、持ち帰った。
しかし、それだけでは物足りず、海底に住む「龍王(りゅうおう)」のところへ行き、武器を差し出すように言った。
龍王の部下が持ってきた武器は、どれもろくでもない物ばかりだった。もっと、マシな物を出すように龍王を脅かすと、渋々と「如意棒(にょいぼう)」を差し出した。
さらに、悟空は龍王の弟王達の「西海龍王(さいかいりゅうおう)」、「南海龍王(なんかいりゅうおう)」、「北海龍王(ほっかいりゅうおう)」から、
それぞれが身に付けていた、「黄金の冠」、「黄金の鎧」、「鳳凰の羽の付いた飛行ぐつ」を差し出させた。
こうして、天下無敵で怖いものなしの悟空は、我がもの顔で世界中を飛び廻っていた。
そんなある日、悟空のところへ、天界の「玉帝(ぎょくてい)」のつかい、「太白金星(たいはくきんせい)」がやって来た。
それは、あばれ者の悟空に脅かされた龍王達が、天界に懲らしめてほしいと訴えたからだ。
悟空は天界に着くと玉帝の前に引き出され...。
「悟空とやら。」
「ハイ。」
「今日から、おまえに天の役人を申し付ける。」
「有難き、お言葉。」
「おまえの役目は「弼馬温(ひっぱおん)」であるぞ。」
「かしこまりました。」
と答えたものの、弼馬温とは「馬屋番」のことだとは思いも寄らなかった。
「馬鹿にするにもいいかげんにしろ!何でこの私が馬屋番をしなければいけないのか?
こんなところにいるもんか!」
捨てゼリフを残して、悟空は水簾洞に戻った。
天界では怒った神々が、悟空を征伐するため数々の大王を水簾洞に送り込んだ。
しかし、天下無敵で怖いものなしの悟空にかなうものはいない。
玉帝が弱り果てていると太白金星は...。
「これ以上の犠牲を出さないようにするには、やむをえません。」
「悟空に天の最高位を授けてやっては、どうでしょうか。」
「仕方あるまい。これ、悟空。おまえに天界最高位の「斉天大聖(せいてんたいせい)を
授ける。」
「これ以上の位はないのだから、二度とたてつくことのないように。」
こうして、天界に連れ戻された悟空。今度は「蟠桃園(ばんとうえん)」という桃畑の番をいいつけられた。
この、桃畑は、桃の木の数、3600本。桃の種類は3種類。それぞれ、3000年、6000年、9000年に一度しか実をつない貴重なもの。
これを食べると、不老不死になる「仙桃」だった。それに手をつけないわけはない。悟空は人の目を盗み、仙桃を食した。
ある日、西の女神「西王母(せいおうぼ)」が「蟠桃会(ばとうえ)」を催すことになり、仙女達が桃を取りにきた。
「やい、桃泥棒!征伐してやる。」
「ちがいます。私たちは西王母様の宴のために、摘みに...。」
「なに、宴だと?」
「はい。」
「その宴に、私も呼ばれておるか?」
「?...。あなたは、承っておりませんが...。」
「何だと、私を除け者にするとは、不届きが。思い知らせてやる。」
悟空は、仙女達に「足止めの術」をかけると、蟠桃会の宴席に飛んでいった。
しかし、宴席には誰一人来ていない。そこで、悟空は用意されているご馳走や仙酒、仙丹を食い散らかし、花果山へ戻った。
天界では大騒ぎ。悪事を働いた悟空に、さすがの玉帝も激怒した。
前回の征伐にまさる10万の兵士を繰り出し、花果山を攻め込んだ。
しかし、酒の力をかりた悟空は強かった。日暮れまでに5人の大王を倒してしまった。
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