「自然派ブルゴーニュの旗手」
「マルセル ラピエールの甥であり、プリューレ ロックの醸造長を務めた人物」フィリップ パカレを紹介する際の常套句です。しかし今やフィリップ パカレの名前は、自然派ワインを代表する造り手の1人と同義になったのではないでしょうか。とはいえ彼のワインに対するアプローチは不変です。自然派ワインの祖ともいえるジュール
ショヴェに師事し、ショヴェの哲学やエスプリを引き継いでワイン造りに向かう1 人です。ジュール ショヴェと聞いてもあまりピンとこないのが正直なところでしょうが、彼の残した哲学を受け継いでいる生産者の系譜を見ると、その影響の大きさを感じざるを得ません。酸化防止剤や農薬に頼らないでワインを造り、しかも熟成によってえもいわれぬガメイを生み出したマルセル
ラピエール、ジュール シュヴェの弟子ジャック ネオポールからワイン造りを学んだヤン ロエル、その他にもフレドリック コサール、イヴォン メトラ、ジャン
フォイヤールなどジュール ショヴェの残した書物から学んだ生産者は多くいます。そのジュール ショヴェ最後の愛弟子がフィリップ パカレです。彼はジュール
ショヴェと6年間寝食を共に過ごし、その哲学を学びました。
その哲学とは
「自然酵母を用いて発酵させる」
「SO2を醸造中に用いない」
「農薬や除草剤は、畑に生きる自然酵母を殺してしまうため用いない」
「化学肥料を用いない」
「完熟した健全な果実を用いる」
これらの手法は近代的な醸造技術や栽培方法が発明されていなかった1950年代までは、誰もが行っていた手法です。しかし、より効率的で収益性の高い栽培
醸造法が開発されるとその技術は一気に広まり、古典的な技術を駆逐していきました。しかしながら近年、より自然な栽培 醸造方法で、その土地のテロワールを忠実に表現したいと考える生産者が少しずつですが見られるようになりました。ショヴェの想いを継ぐフィリップ
パカレも勿論その1人です。実際のワイン造りにおいては、ブルゴーニュの伝統品種ピノノワールやシャルドネにこだわり、単一の品種が様々な土壌や気候によって異なった表情を見せることを重要と考えています。画一的な手法で、ある決まりきった味わいを造り出すのではく、その年、その土地、その気候が生み出すコピーのできない味わいのワインこそが理想と言います。栽培においては、農薬や除草剤を使用せず、とにかく成熟して健全なブドウを得ることに注力します。除梗をせずに発酵させるため、果梗まで完全に熟した状態で収穫することを理想としています。醸造においてはSO2を用いず、ブドウに付いた天然酵母の力で発酵させます。ブドウ本来の風味を損なうと考えている作業も行いません(ルモンタージュなど)。同様の理由で新樽の使用にも慎重で、過剰な樽由来のロースト香を避けます。補酸や補糖といったことも行いません。このように今や自然派ワインで採用されている典型的な手法を実践しているフィリップ
パカレですが、彼のワインには一部の他の自然派ワインにみられるような酒質の緩さや揮発性の香味、還元的なニュアンスを感じることはありません。そこには、様々な醸造法を知り、多くの経験から得た知識を持つパカレ氏ならではの特徴といえます。パカレ氏は、緻密で多彩な科学的知識を背景に酸化と還元のバランスをとり、完成された味わいの自然派ワインを生み出しています。彼の師であるジュール
ショヴェも「ただの非科学的な理論のように思えるだろうが、科学的なことを十分に理解した上でなくてはこのようなことには取り組むことができない。この理論は、自然科学に基ずくものである。」と語ります。プリューレ
ロックでの経験と5年にわたる自らのワイン造りによってフィリップ パカレはさらなる進歩をとげ、より完成されたワインの道を歩んでいます。
フィリップ パカレのワインの熟成に関して
私たちは、父祖伝来の方法と、亜硫酸を使わずに発酵・醸造させるために、一部現代技術を取り入れて、本当のワインを造っています。亜硫酸は、ワインが空気に触れるビン詰めの時にだけ、ごく少量使います。
亜硫酸は保存料とは同義語ではありません。醸造および保存がきちんとした環境下であれば、ワインの熟成の長さは、タンニン、酸味、アルコール、二酸化炭素、澱の影響、これらの要素の大小に影響されるのです。
もしワインが若いうちに飲む場合は(ビン詰めから3年程度の期間)、ワイン中の二酸化炭素を抜いてから飲むよう、デキャンタすることをお勧めします。3-7年経つと、産地などワインが持つ特徴が一層鮮明になっていきます。古いワインを見れば、13‐15年は熟成しています。
それ以上になると、コルクなどの固体ごとの状態や熟成条件によって熟成カーブは違ってきます。ただ健全な環境であれば、寿命を過ぎたからといって、突然劣化するわけではありません。1992年の「ドメーヌ
プリューレ ロック BGO キュヴェ パカレ」をパリやジュネーヴで飲むと、ワインの熟成について興味深いものがあります。1992年は軽い作柄でした。しかしBGOであろうとも、ましてやオー
メジエールやクロ ヴージョであれば、若々しさを失う代わりに死んでしまったということはありません。 一つ大事なことは、色は本来の色調から若干黒っぽさを取り戻した(元々はレンガ色でしたが)ということです。これは奇妙に見えますが、果皮のアントシアン成分が少なかったので、果梗と澱からの抽出を強めたため、ビン熟成のゆっくりとした熟成によって、このような色の変化が起こるのです。
この色の変化についてもう一つ例を挙げるとすると、先日パリのビストロ”バラタン”で、(自分の)ジュヴレ シャンベルタン2001年をブラインドで飲んだ時、2005年かと思ったほどです。色がビン詰め直後と比べずっと濃くなっていたからです。(輸入元資料)
|