「フェアリー」  〜 幻想世界の物語 〜      第8章へ   Back   Home


第7章  〜 幻想世界の物語 〜                 2003.5.25


フェアリーが消えてから数日後の昼休み。冬美は昼食を終え、自分のデスクに戻ってきた。

(そう言えばフェアリーさん言っていたわね。ワタシが地球の病を治すんだって。
 一体、どうやってやればいいのだろう?)

「あれっ、秋穂先輩。どうしました?」


「あっ、冬美か。それがね、朝から頭が痛くて。
 しかも、今日は午後からは重要な会議が入っているし・・・」

「それは大変ですね。ワタシが変わってあげられればいいんですけど・・・」

「アンタじゃ絶対無理」

「先輩、そんなにハッキリ言わなくても・・・。
 そうだ、先輩。ワタシ特殊な能力を持っているんです。ちょっといいですか?」


冬美は右手の薬指を突き出し、先輩のひたいにつけた。

「先輩の頭痛が今すぐ治りますように。ピロ・リロ・リン」

「ピロ・リロ・リンって、アホかっ」

「どうです先輩。 痛みとれました?」

「・・・・・・・。アンタ一体何やってるの? 余計に頭が痛くなってきた・・・」

「あのですね。ワタシには地球の病を治す力があるから、頭痛を治すのなんて
 簡単・・・な、はずなんです」


「冬美・・・。また少し飛んでるの?」

「あはっ、冗談ですよ、冗談」 (あれっ、おかしいな・・・)

「大体、ワタシの頭痛を治したくらいでは、地球の病気とやらは治らないでしょ?」

「それはまあ、確かに・・・。でも、何もしないよりは・・・」

「地球の病気を治すのだったら、インターネットを使いなさい。世界につながっているんだから」

(あれ? 今の先輩の声。少し声が振るえていて、いつもの先輩の声じゃない。
 インターネットを使え、って言っていたわね。何だかインスピレーションを感じる。
 それに、インターネットならやってみる価値があるかも。
 取りあえずインターネットで何か始めてみようかな・・・)

「先輩。ありがとうございます」


「はぁ? どうしたの冬美」

「今先輩がインターネットを使いなさい、って教えてくれたでしょ?」

「何言ってるの。ワタシはそんなこと全然言ってないわよ」

「先輩。早期痴呆症ですか?」

「それはアンタでしょ・・・」 

「そ、そうですよね。やっぱりワタシ、どうかしてるかも。先輩、ごめんなさい」

(おかしいな? 確かに先輩の口からネットを使いなさい、って言葉を聞いたけど・・・。
 あっ、そう言えばこの前にも似たようなことが何回かあったわね。
 これって、もしかしてワタシを導いてくれているのかな?
 そう言えば最近、テレビやネットを見ていた時に、妙に胸騒ぎする映画の話題があったわね。
 今日の帰りに、その映画をレンタルビデオで借りて見てみようかな)

仕事の帰りがけ、冬美はレンタルビデオ店で気になっていた映画を探していた。

(えーと、マトリックスと、千と千尋の神隠し・・・。あった、これだわ。
 何だろう? あそこにある映画も凄く気になる・・・。えーと、コンタクトっていう映画か・・・。
 ワタシの趣味と少し違うわね。何だかつまらなそう。でも、いいか。ついでに借りちゃおっと)

家に戻り、1人で夕食を取りながら先ほど借りてきたビデオを見ることにした。
そして、1作を見終えたあとで、他の映画も気になり、結局全作品を見てしまい
時刻は深夜をまわっていた。 

(あっ、この映画のストーリーを考察したらホームページのコンテンツに使えそう。
 マトリックスとコンタクトは、ワタシの進む方向を導いているのかな?
 何だか預言めいた内容ね・・・?
 この映画を借りたくなったのは、ただの思いつきとか偶然で、ワタシが勝手に
 こじつけているだけ? でも、借りる前はとても気になったのは確かだし・・・)

 
冬美は、今までそれほど意識していなかったインスピレーションや直感が、何かとても重要な意味を
持っていると感じ始めていた。そして、これまでの経験を振り返ると、直感などがひらめいたときは、
間違いなく良い方向を選択できていたり、予想外の成果をもたらしていたことに気が付いた。

そして、5月下旬の ある日のこと。仕事に向かおうと準備をしていると、冬美の部屋に
再びフェアリーが現れた。

「はーい。おはよー」

(シュウー シュウー シュウー)

「キャッ、殺虫剤。もう、危ないなー。で、どう? 少しは慣れた?」

「殺虫剤で、妖精を撲滅する作戦・・・失敗。また、来たのね。って、ほとんど見えないよ?
 フェアリーさん、どこにいるの?」


「ここよ、ここ。と言っても見えないでしょ? 感じて、ワタシの存在を」

「感じて、と言われても・・・」

「いい、今から3次元の旅に連れて行くからね」

「ちょっと、待ってよ。そんな急に・・・。えいっ、ここだ。(シュウー)」

「残念でした。ワタシの存在は近くにはないのよ。もっと遠い場所から伝えているのよ」

「はぁ?」

「前に言ったでしょ。ワタシの存在が見えなくなるって。いずれコミュニケーションが取れなくなるって。
 冬美さんがワタシの意思を感じて受け取るしかないのよ。ワタシが知らせた映画とかも見たでしょ。
 これからは、そう言う方法でコンタクトをとるのよ」

「ワタシの殺虫剤妖精撲滅作戦を知って逃げてるんでしょ。根性なし」

「あのね・・・。まあ、いいや。それじゃ行くよ。3、2、1、それっ」

「うわっ、また胸が熱い・・・。フェアリーさん、また光の矢を射したのね。
 苦しい・・・。だけど、ああっ、神の愛を感じる・・・」


冬美は、突然こみ上げる胸の熱さに自然に涙が流れ神様の慈愛を感じていた。
この不思議な感覚は、これまでの様にほんの数十秒で終わり、すぐにまた普段の
正常な意識に戻っていた。

「それじゃ、準備が整ったし、しゅっぱーつ。今日もいつものとおり、普段の生活をすればいいからね」

「分かったわ。それでは取りあえず会社に行ってきます」





「清美先輩。おはようございます」

「あっ、冬美ちゃん、おはよう。相変わらず可愛いわね」

「えっ、先輩。どうしちゃったんですか? ワタシにおべっか使って。下心でもあるんですか」

「冬美ちゃん。何言ってるの? それより困ったことがあったらいつでも言ってね。相談に乗るから」

「はぁ、それじゃその時にはお願いいたします・・・」 (先輩、どうしちゃったんだろう?)

「あっ、優奈先輩。おはようございます」


「冬美ちゃん、おはよう。もう来る頃だと思ってお茶を入れておいたわよ」


「うそっ。朝のお茶入れは、ワタシの当番ですよね。っていうか全部ですけど・・・」


「なにを言ってるの。いつも、最初に気がついた人が入れてるでしょ?」

「そうでしたっけ? 先輩達、ワタシのこと騙して何か企んでいません?」

「アナタね・・・。人を騙したり、暴力で体や心を傷つけたり、モノを盗んだり、そんな悪いこと
 する訳ないでしょ」

「そ、そうですよね。先輩、お茶を入れていただき、ありがとうございます」

「冬美ちゃん、おはよう」

「秋穂先輩。おはようございます」 (秋穂先輩もワタシのことちゃん付けで呼んでいる)

「さーて、お仕事、お仕事」

「あの、先輩? 朝の特訓は今日はしないんですか?」

「えっ、なに朝の特訓って?」

「ほら、あのですね、ワタシの根性を鍛えるため、毎日やらされている1人ラジオ体操大会です」

「あのね・・・。誰がそんなイジメみたいなことを強要したの?
 それとも冬美ちゃん、そんな趣味があったの? 別にやりたいならお好きにどうぞ」

「あはっ、そうですよね。先輩がそんなイジメみたいなことさせる訳ないですよね・・・?」

「それじゃ、さっさと仕事を片づけて帰りましょ。今日は午前中までに帰れそうね」

「先輩。午後から休暇なんですか?」

「今日のアナタ少し変よ? 自分の仕事さえ終われば帰っていいことになってるじゃない。
 これ以上経済活動を優先させたら、地球環境に悪影響でしょ?」


「地球環境に悪影響ですか? 先輩の口からそんな言葉を聞くなんて・・・」

「アナタも自分の仕事をさっさと終わらせて、自分の大切な時間を楽しみなさい」

「はい。それでは冬美、先輩達と地球環境のために、一生懸命働かせて頂きまーす」

「冬美ちゃん。一生懸命働かなくてもいいのよ。適当にやってればいいの。解った?」

「はーい。冬美ちゃん、先輩達と地球環境のために、いい加減に働かせて頂きまーす」

「いい加減はダメよ・・・。適当よ。解った?」

「あっ、はいっ。そう言えばみなさん、風邪でもひいたんですか? いつもの声と違いますよ?」

「そう? 清美さん、ワタシの声かすれてる?」


「そんなことはないわよね。それよりも、冬美ちゃんの方が風邪声になってるわよ」

「えっ、そうなんですか?」

「うん、確かにね。風邪かも知れないから、早く仕事を終わらせて家に帰って安静に
 していた方がいいわよ」

「はい。そうさせて頂きます・・・?」 

(先輩達がとても優しい・・・? ここは地上の天国なのかな?)


今日の分として用意されていたほんの少しの仕事は午前中に終わり、先輩達も早々に仕事を
切り上げ家に帰ってしまった。
居場所がなくなった冬美も、とりあえず自宅に戻ってきた。

家で時間を持て余していた冬美は、夕方までこの不思議な体験を元にした童話を創り、
自分のサイトに公開することにした。 → まぼろし虹の物語

そして、ネット上に転送が終わると同時に、フェアリーの声がまたどこからともなく聞こえてきた。


「第7章」 終わり / 〜 カノン 〜  DREAMS COME TRUE


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