「フェアリー」  〜 幻想世界の物語 〜      第9章へ   Back   Home


第8章  〜 選択 〜                         2003.5.27


「どう、冬美さん。この世界は気に入った?」

「あの、これはどういうことかな?」

「この世界はね、3次元では頂点に近いポジションに位置する世界なの。
 現在の冬美さんの能力で移行可能な、一番高いステージよ。
 このステージに行ける、と言うことは、それだけ冬美さんの心が豊かだっていう 証なのよ。

 ここで食べる食事は何を食べても美味しく感じるし、道路や山、川などに全然ゴミが捨てられて
 いない美しい自然環境が整っているの。地球環境に十分配慮していて、自然をとても大切に
 しているから、鳥や魚、野生動物が安心して自然のまま暮らしているの。
 自動車の走行台数も少なかったでしょ」

「そう言われれば、そうね。何を食べても美味しく感じたし、街も緑豊かで綺麗に感じた。
 それに、太陽や電気が眩く輝いて、今朝は渋滞もなかったわ」


「アナタに対する言葉使いも、心を傷つけないように注意を払っていたでしょ。
 もちろん、ここでは争いも起こらないわ。この世界では、山にゴミを捨てる人がいないから、
 自然の緑や水がとても美しいの。

 この世界は、平和を第一の主義とする人達の集まりだからね。人につくすことと、自然を守ることが
 人生最大の栄誉である、といった考えを持つ人達の集まりなの」

「ワタシが理想と考えている社会ね」

「ここの世界に住んでいる人達は、見る人に心を和ませる絵を描く芸術家のルノワールとか、
 地球の未来のために科学を追求した科学者のアインシュタイン、心の病に取り組み精神医学に
 多大な功績を残した哲学者のフロイトの様な、人のために生涯を尽くせるような意識を持った
 人達が住んでいる世界なのよ。

 だから、とても穏やかで美しく、安らぎのある社会が形成されているの。もちろん競争もなく、
 どんなに能力や才能があってもそれを自慢することなく、人は誰でも平等であることを理解していて、
 助け合いの精神が確立されているの。個人や地域、社会、国、そして世界規模でも精神レベルが高く、
 社会が成熟していて、人の上に立つことを好まないハイレベルな社会構造が確立されているの」

「ふーん。そんな夢みたいな世界が本当にあったんだ・・・」

「でもね、この世界は途中までアナタの住んでいた現実世界と同じ歴史を歩んでいたのよ。
 戦争や地球環境の荒廃が進んでいた歴史は、途中までは同じだったけど、数十年前に
 アナタの暮らしている現実世界と派生し、分裂した兄弟の様な世界なの。

 ほら、以前教えたでしょ? 量子力学のパラレルワールド。
 量子論の原子の実験結果のように、1つの世界が2つに派生したとてもよく似た世界なの。

 この世界の歴史はね、数十年前に天から啓示を受けた人がいてね、それを聞いた世界の
 指導者達が科学的な根拠を元に議論した結果、このまま環境破壊行為を続けていけば、
 地球が崩壊する、という結論を導き出せたの。

 そして、世界的な規模で人間の意識や価値観に革命が起こり、新しい未来に向かって進みましょう、
 と新たな方向に転換することに成功したの。新たな方向性に、人々が素直に従がった結果、
 崩壊に進んでいた道が、現在では豊かな未来に向かって進行している、希望に満ちた物質的にも
 精神的にも豊かな世界が形成されたの」

「そうなんだ。だからみんな、地球環境に優しくて、争いを好まないんだ」

「そして、危機が訪れ派生したときに残ったもう一つの片割れ、絶望に向かっている世界があるの。
 その片割れが、アナタの住んでいる現実の世界なのよ」

「ワタシが住んでいる現実世界が絶望に向かっている、って言うの?」

「そう。地球が危険信号を出しているのに、未だに物的欲望に支配され環境を破壊し、地球の資源を
 奪い合い、戦争によって信頼関係や異国文化を破壊し、自然環境を無視した開発がルールなく
 行われ、この状態のままどんどん時間が経過していけば、世界大戦か自然環境の異変で、
 そんなに遠くない将来必ず崩壊する道を、みんなでスピードを上げて進んでいるのよ」

「うそっ・・・。ねえ、その話ってウソでしょ。ワタシ達の地球が崩壊するなんてウソよね」

「あのね・・・。今の世界情勢を見れば誰が考えたって解るでしょ?
 様々な分野の研究者が、地球環境の危機を指摘しているでしょ?
 私利私欲に取り憑かれている人は、全然聞き入れないけど・・・。

 アナタの現実世界は、これまでの地球の歴史上で、物質的には頂点に達しているの。
 でも、人間を中心とした豊かな地球の歴史は、臨界点ギリギリに達しているのよ」 

「確かに、ニュースや特集で地球の温暖化の問題などを聞いたことあるけど、
 そんなのワタシには関係ないと思っていた・・・」


「でもね。冬美さんには、この世界にこのまま残り、ここで暮らせる選択権が与えられているの。
 どうする? この世界にとどまるか? 崩壊に向かっている元の世界に戻るか?
 アナタには選べる権利があるのよ」

「どうする、って言われても、この世界で暮らしている先輩達は姿こそ先輩の形をしているけど、
 今までの先輩ではないし、でもみんな暖かくて、優しい人達ばかりでとても暮らしやすそう。
 街も美しくて、楽しくて、ワタシの理想とする世界だけど、やっぱりワタシは自分の生まれ
 育った世界がいい。
 だって、ここにはいつもの面白くて、楽しくて、ちょっとだけ優しい本当の先輩達がいないもの」


「アナタね・・・。元の世界に戻ると、またイジメられるわよ。本当にいいの?」

「うん。元の世界がいい」

「やっぱりね。そう言うと思ったわ。そうしてもらわないと困るしね。
 だってアナタが、アナタの現実世界を救う役目なのだから。
 アナタが、破壊に進む地球を、未来の希望のある方向転換させる役目なのだから」

「ワタシが、地球を希望に向けて方向転換させるの?」

「そうよ。でもね、最終的には決断するのはアナタではないわ。
 アナタの仕事はもうすぐ啓示される天からのメッセージを受け取り、それを人々に伝えるだけなの。
 そのメッセージを、現在地球を支配している人々が受け入れられるか? 受け入れられないか?
 みんなが天のメッセージを真剣に受け止められるか? 聞き入れられるか? にかかっているの。
 それで地球の未来が決まるの。
 未来へ向かっていく世界を派生させられるか? それとも、派生させられず崩壊していく道を
 選択してしまうのか? みんなが決めるのよ」

「新しい世界を派生させられないと、今のワタシ達の地球は崩壊するのね・・・」

「アナタは新たな世界を派生させる役目ではなく、ただのメッセンジャーなの。
 アナタには何の罪もないし、アナタが特別なことをする必要もなく、今までどおりに
 普通に暮らしていればいいの」

「今までのとおり暮らせばいい・・・」

「そう言うこと。そろそろ、現実の世界に戻ろうか・・・」

「何だか信じられない様な話だけど、とりあえずいいわ。自分の世界に戻る」

「それでは、3、2、1 ハイッ。・・・はい。アナタの絶望に向かっている現実世界に戻ってきたわよ」

「はぁ・・・。今の話し、本当なのかな?」

「いい、この話はとても重要よ。これまでアナタに2次元や3次元を見せ、体験させてきたのは、
 この現実世界を救う使命を授けるためだったの。大変だけど頑張ってね。
 冬美さん、お礼よ。こっち向いて。・・・ありがとう」

「あっ、光の弓」

(スッ・・・うわぁ、前のより凄い 熱いよ、苦しいよ。涙が止まらないよ・・・)

「それじゃ、またね」

「ちょっ、肝心なこと・・・教えてよ・・・。ワタシ、これから何をすればいいの?」

「全身で感じるの。感じれば全て解るわよ」

(ダメだ、熱くて全身が溶けそう。・・・はぁ、 ワタシが世界を救う?
 それって、救世主になるってこと? アホくさ。
 でも、今までヘンチクリンな体験をしてきたことだけは確かね、困ったわ。
 これから、どうなるのかしら? ワタシ、何をすればいいのかしら?
 感じればいいって言われても・・・ねぇ)


「第8章」 終わり / 〜 HAPPY NEW MILLENNIUM 〜  鈴木 あみ


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