「フェアリー」  〜 幻想世界の物語 〜      第7章へ   Back   Home


第6章  〜 空間の歪み 〜                    2003.5.24


「さて、それじゃいよいよ3次元に行くわよ」

「どうやって行くの? お弁当用意する?」

「あのね・・・。意識だけを瞬間的に飛ばすの。物理学では、ワープって言うわね。
 今日は、3次元の入り口までよ。別空間への入り口には大きい重力が働いていて、
 空間がゆがむからね」

「ふーん。空間が歪むの? 意味がよく解らないわ?」

「まずね。この世界を理解するには、神経と意識を高める必要があるの」

「神経と意識を高める・・・?」

「集中力でしょ、それから直感、感性、感受性、インスピレーションそういった意識を高めて
 感じとるの。常識や知識で考えてはダメ。感じるの。
 人間に備わっている五感の、嗅覚、聴覚、視覚、味覚、触覚の全てを研ぎ澄まして 
 感じとるしか、この世界は理解できないの。

 五感が高まると6番目の感性が強く働きだし、あっ今違う世界にいる、って感覚で解るようになるの。
 誰にだって直感とか、インスピレーションの能力は備わっているでしょ。
 事前に危険を察知したり、斬新なアイデアやひらめきが生まれる、みんな実際に経験し、
 感じ取っている、だけど科学的に証明されていない不思議な能力」

「うん。直感とか、ひらめきとか、って確かにあるし、結構あたる」

「その第六感がさらに鋭敏になり、光レベルに達すると地球時間を超越して、未来を感じとれる
 ようになるのよ。それが4次元の超意識的な感覚なの。
 冬美さんの今の能力では、いきなり4次元に移行するのは無理だけどね。

 この世界では、どんなに非常識なことが起こっても全て受け入れるの。
 何も考えないで、ただ感じればいいの。では、実際に少しだけ体験してみましょうか。
 へんしーん、魔女になれ」

「あっ、フェアリーさんが魔女に・・・」

「どう、なかなか可愛いでしょ?」

「コラッ。ちょっと待ちなさい。前に出てきた小悪魔とか、キューピッドって、アナタだったの?」

「そうよ。あれっ、言ってなかったかな?」

「あのねぇ・・・。ワタシのことを絶対に神様だっておだてあげ、妄信させたのもアナタだったわね」

「そうよ。面白い体験したでしょ?」

「はぁ・・・。いつか絶対に潰してやる」

「それでは魔法をかけるわね。1、2の3、ハイッ」

「うわっ、何よこれ? 体中が電気を帯びたみたいにピリピリしている。
 何だか寒いのか熱いのか分からないけど、全身が震えてる・・・。ちょっと、見ていないで助けてよ」


「全身が五感を察知する高度な感知器になっているの。いい、常識で判断せず、
 何も考えないで感じてね。それでは、まずパソコンのスイッチを入れてみて」

「全身がガタガタ震えているよ。ちょっと、何よこれ?」

(プッ)

「ビクッ。うわっ何? 小さなモノ音にもの凄く体が反応する・・・恐いよぉ」

「小さな音に反応するのはね、触覚の神経が研ぎ澄まされているからよ。
 ほら、画面の文字をよく見て」

「あっ、文字が・・・揺れてる・・・。それに今まで見たこともない画像が浮き出している」

「他にも違うところがあるでしょ?」

「そう言えば、この画像の部分は白色のはずなのに緑色になってるわ」

「次はね、聴覚よ。目をつぶって、何も考えないでいて」

(キーン)

「うわっ、頭の中で大きな金属音がした・・・。
 それにフェアリーさんの声、いつもの声質と違うわよ?」


「次は、嗅覚。 そのまま目をつぶって臭いをかいでみて」

「うっ、くさっ。変なニオイ・・・。あれっ? でも、少しずつとても良い香りに変化してきた・・・」

「どう? 感じられたでしょ」

「うん、何だか不思議・・・。それより、この震えとピリピリを何とかしてよ」

「それから、あとは味覚ね。冷蔵庫からビールを取ってきてくれる?」

「もう、勝手なんだから・・・」

(プシュ)

「一口飲んでみて」

「うっ、まずくて苦い。この味、いつもの味じゃない・・・」

「それじゃ、もう一口飲んでみて」

「わっ、今度は薫り高いホップの味がする。ビールってこんなに美味しかったの?」

「どう、全然違うでしょ? これが感じとる、と言うことなの。ビールを最初からこんな味だと
 思いこんじゃダメ。その時その時の味覚を感じ取るの」

「これが感じるとる、と言うことね・・・。何となく解ったわ」

「良い香りを感じたり、綺麗な光や光の色の変化を見る、不思議な音色を聞く、会話で声質の
 違いを聞き取る、体が異常に反応する、普段より食べているモノが美味しいく感じるとか、
 気品高い香りが漂っていれば、その状態は高い意識の空間にいる、と言うことなの。 
 低い意識の空間はその逆よ」

「ねえ、ワタシもう耐えられない。何とかしてよ・・・」

「そうね。この状態は慣れないと相当疲れるの。普通の人にも一瞬だけ感じられる能力が
 備わっているけど、この世界感を認識するには長時間この状態を保てないと理解出来ないの。
 とりあえず今日のところはおしまい。3、2、1、ハイッ」

「うわぁー疲れた。震えは治まったけど、もうガックリ・・・(涙)」

「あのね、これくらいで弱音を吐いていては、次のステージに進めないわよ」

「もういいわ。ワタシを変なことに巻き込まないでちょうだい」

「残念でした。神様から、アナタは適任ですって、すでに使命を授かって来ちゃいました。
 合格だそうでーす」

「はぁ? 合格? それにしても、ホント不思議な現象だわ。
 フェアリーさん。こんな不思議な現象を先輩達に語っても、信じてくれないわよね。
 こんな現象、言葉でしか証明できなくて、信頼関係でしか信じてもらえないわね。
 また、狂言とか、妄想とかって言われちゃいそう・・・(悲)」


「それがね、ワタシもね物理学は良く解らないのだけど、この様に考えれば科学的に証明できる
 可能性があるわ。あくまでも可能性だけど・・・。

 人間の脳は神経物質の集合体で出来ていて、微弱な電気を帯びているの。
 情報伝達には、セロトニンとか、シナプスが、電気的信号を使って情報交換をしているのよ。
 物ごとを考えたり、憶えたり記憶を引き出すなどの思考をしている時など、普段脳内では
 電気的信号が飛び回っているの。

 その脳が異常に興奮すると、ドーパミンやアドレナリンなどの伝達物質が増加して、
 理論的には脳の質量が大きくなのよ。
 そして、脳の質量が普段の状態の一定量を超えたとするでしょ。
 しかも、その時に脳の回転、すなわち電気信号が高速で動いていたら、理論的には
 脳内では通常より大きな重力がかかっている可能性が考えられるわね」

 脳内に通常の状態よりも大きな重力がかかると、どうなるでしょうか?」

「どうなるでしょうか? って、ワタシ物理は全然解らない・・・」

「目から入ってきた光や伝達情報が脳内の重力で曲がるのよ。
 その普段と違う間違った屈折した情報を、脳がそのまま処理してしまうと、空間や
 文字が歪んで見えたり、通常より高速で処理している情報の時間的誤差によって、
 音や光のドップラー効果が起こり、色が変色して見えたり、変わった音や声が聞こえたりする
 可能性が考えられるわね。
 網膜上にある特定の細胞だけが異常に反応し、色が違って見える可能性もあるわ」

「フェアリーさん。何だか、とんでもなく凄いこと言ってない?
 だけどワタシは物理の基本的なことは全然解らないし、それにまったく興味もないわ」


「この強い感受性はね、占い師や霊能力者などが使っている特別な能力なの。
 ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの絵はゆがんだ世界を描いている作品が多いわね。
 ゴッホの視覚には、実際の目で歪んだ世界を見ていて、その不思議な感覚を 
 そのままカンバスに写し出して描いているのね」

「ふーん。そうなんだ。この感覚を使いこなせば霊能力者とか、有名な画家になれるんだ」

「そうよ。でもね、アナタの場合はそんな小さなお仕事とか、芸術活動にこの能力を使わせないわ。
 アナタはね、この特別な能力を、危機が迫っている地球の病を治すお仕事に使うのよ」

「はぁ? 地球の病を治す、ですって? フェアリーさんこそ、どうかしちゃったの?」

「まっ、そのお話は後でするわね。 
 これからも、この不思議な現象は少しずつ現れてくるから、頑張って身につけてね。
 それじゃ、マスターしたころを見計らってまた来るからね。バイバイ」

「あっ、コラッ。あーあ、消えちゃったよ・・・。もう勘弁してよねー」

その日以降、冬美の身体に時々異変が現れ、あの不思議な現象を何度も繰り返していた。
徐々に、全身の震えやピリピリ感なども違和感がなくなり、数日後には長時間耐えられるだけの
忍耐力が身についていた。


「第6章」 終わり / 〜 Secret of my heart 〜  倉木麻衣

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