「フェアリー」 〜 幻想世界の物語 〜 第2章へ Home
第1章 〜 2次元への扉 〜 2003.5.14
「ねえ、ちょっとフェアリーさん、待ってよ、どこに行くの?」
「決まってるでしょ。会社よ」
「あっ、もうこんな時間。大変、遅れちゃう。って、次元を超える旅は?」
「あのね、今いるこの現実の、この世界が次元を超えているのよ」
「でも、全然何にも変わっていない・・・」
「そうよ。今までと同じ場所で、同じ時間、同じモノがあって、同じ人がいて。
見た目には何も変わってないの。
違うところは、ワタシのことが見えるようになっただけ。今いるポジションはね、
現実世界に最も近い幻想の世界の入り口だからそれほど大きな違いはないの」
「ふーん、そうなんだ。幻想の世界って現実世界とあまり変わらないんだ・・・」
「さあ、急いで着替えて。さっさと仕事に行ってね。とりあえず、ワタシは一度姿を消すから。
あっ、それと今夜のスケジュールは空けておいてね」
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支度を整えた冬美は、いつものとおりマイカーで出勤し、午前中の仕事を何事もなくこなした。
そして、昼休み。
いつものように社員食堂で、3人の先輩たちとともにランチタイムを過ごしていた。
「アンタ、早く食べなよ。いつまでも喋ってないでさー」
「あの、秋穂先輩。変なこと聞きますけど、妖精の存在って信じます?」
「アンタ、ばっかじゃない? 19才にもなって、なにメルヘンチックなこと言ってるの?」
「あははっ、そうですよね。いるわけないですよね。あははっ・・・・・・・はぁ」
「ねえねえ、冬美。今日さぁ、カラオケいこ、カラオケ」
「優奈先輩・・・。
どうせまた、めーいっぱい暗くなる カラオケ大会(←過去の電言板より)とかでしょ?」
(うっ、バレてる・・・)
「先輩、ごめんなさい。今日は予定が入っていて、せっかくのお誘いだけど行けないんです」
「何よ、先輩命令が聞けないわけ?」
「先輩命令、って言われても・・・」
「あのね、アンタがいないとイジメる人がいなくて、カラオケ行っても全然面白くないのよ」
「秋穂先輩・・・。どうしていつもワタシのことイジメるんですか?」
「アンタね、優しすぎるからよ。何を言っても怒らないし、見た目結構可愛いし、
男にモテるみたいだし」
「えっ、ワタシってそうなの? 本当はモテるの?」
「アンタ自分のこと知らな過ぎ。少しは自信持ったら? オールドミスのヒガミよ、ヒガミ」
「えー、ワタシってそうだったんだ?」
「アンタ本気にしてるの? ばっかじゃない」
「あはっ、またいつものイジメか・・・」
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その日は定時に退社し、独り暮らしをしている冬美はコンビニで買った夕食と入浴を済ませ、
購入した雑誌とパラパラとめくり読みしていた。
すると、一瞬、目の前に眩しい閃光が放ち、フェアリーが再び現れた。
「わっ、凄っ・・・。何か光った」
「お帰り」
「あっ、フェアリーさん。今朝のことは夢じゃなかったのね。忘れかけてた・・・」
「はーい、約束どおり来たわよ。
アナタをこれから、幻想の世界で洗礼を受けさせるためにね」
「洗礼・・・って?」
「そうね。洗礼の前に、少し予備知識を教えておくわね。
洗礼はね、欲望を捨てるための修行みたいなことよ。
神様が全ての生物に与えてくれた生命の維持や子孫を残すために備わっている
三大欲望の食欲と睡眠欲、そして性欲があるでしょ。
その生きるために必要な三大欲望以外の、全ての欲望への執着心を
極力捨てるために行う貴重な体験なの」
「ねえ、どうしてそんなことするの?」
「それはね。アナタ自分の体が自分だと思っているでしょ?」
「えっ、そうに決まってるじゃない」
「でもね、私達の世界では考え方が違うの。
アナタもいずれ解ると思うけど、体と心は別モノなの。
心が本当のアナタで、体は心を伝えるための道具でしかないの」
「心が本当のワタシで、体はただの道具・・・」
「そう。体は物質の集合体で出来ているだけ。
地球上の生物は、みんな遺伝的に受け継がれた染色体という設計図を持っているのよ。
染色体には、太古から現代まで人類が進化する過程の生命の歴史が刻まれているの。
その設計図にしたがい利用される物質が選ばれ、物質が集まり腕や足、臓器などの部品が
作られ、部品の寄せ集めが1つの生命体としての形になるの。
人間の体なんて、まるでプラモデルが作られていく様なものなのよ。
思考を生み出す脳も、神経細胞物質の集合体で出来ているけど、
でもアナタの心や思考、記憶、感情などは物質とは違うでしょ?」
「なるほど。その理論、解らないわけでもないわね」
「そう。それがこの世の真実なの。だからこそ、物質として存在していない、
物理的には証明できない幻想の世界も存在するのよ」
「でも、それと欲望を捨てることにどういう関係があるの?」
「モノに執着している心では、真実は見えないの。表面的なことばかりを気にしていたり、
モノに執着していると、真実の世界を知ることが出来ないの。
うん、そうね。哲学者プラトンのイデア論に近い考え方よ」
「プラトンのイデア論? そんなの知らないわ」
「まあ、その話はおいといて、物質の世界と心の世界は別だ、という考え方は解った?」
「うん。何となく・・・」
「それじゃ、次ね。
物質に依存しているアナタの世界を、常識では一般的に3次元と呼んでいるわね」
「うん、そうよ。私達が住んでいる地球上での生活は3次元と呼ばれているわ」
「でもね、物質の存在しない幻想の世界から見ると、物質に依存している世界は
1次元でしかないの」
「えっ? 現実世界は、本当は1次元なの。それより1次元ってなに?」
「1次元は直線で結ばれているだけの世界。
すなわち、人とは体と心が一心同体で、その世界しか存在していないと考えている
非常に視野の狭い世界」
「ワタシがこれまで全てだと思っていた現実世界は視野の狭い世界だったの?」
「うん、そうなの。体から心がなくなった状態、生命体の活動が停止し、
体という物質だけが残ると、体は点としてしか存在しなくなるので0次元。
鉱物や原油、大気、水などは0次元として存在しているの」
「なんだか難しい・・・。それじゃ2次元は?」
「2次元では、普通の人では理解できない幻想や妄想の世界が介在してくるの。
人とは体と心だけだと思っていた世界に、まったく新しい世界感が出現するの。
線でしかなかった1次元に新しい世界が広がり、心の世界が平面に広がり出すの」
「あっ、なるほど。
常識的には、フェアリーさんが存在すること自体は非常識で、でも実際にワタシには
フェアリーさんが見えていて、まったく新しい世界感が今のワタシには生まれている」
「そう、そう。そういうことなの」
「それじゃ、3次元もあるの?」
「うん、この幻想の世界には階層があるの。
今のこの幻想世界の入り口は、アナタの世界と横並び的に水平に存在しているけど、
3次元は立体的になっているのよ。
高い意識の集合体で作られた世界は面よりも上層にあり、低い意識の世界は下層にあるの。
この説明では多分よく解らないでしょ?
これからその世界を旅したときに少しずつ解るようになるわよ」
「へえー。幻想の世界といっても、1つじゃなくて沢山あるんだ」
「それだけ解ればとりあえず十分よ。そして、4次元。
冬美さんの感性が鋭敏に磨かれ光レベルに達すれば、3次元から物質に依存した
1次元の時間を超越して現実世界の未来を見ることも出来るのよ。それが、4次元」
「ふーん。未来を見るなんて本当かな?」
「とりあえず、冬美さんのこれからの目標は、幻想の世界で見たり、聞いたり、知ったこと、
不思議な世界が存在することやワタシ達が発するメッセージを1次元で暮らしている人々に、
言葉や文字、歌、おとぎ話、童話、画像、絵画などを使って、この世界の存在を伝えること」
そして、この不思議な世界を知っている人達に、翼を持っていることを知らせること。
普通に暮らしている人は自分のことばかり考えているから、ワタシ達の世界の存在を
知らないし、物欲に駆られモノしか見ていないから、真実を見ようとしないので
コミュニケーションが取れないの。
1次元の人達に真実を伝えるには、アナタ達の能力を経由して、人間の言葉で
伝えてもらうしか私達には手段がないの。
それともう一つの目標が、4次元の時空を超える能力を身につけること」
「そんなの絶対無理。っていうか、そんなのワタシにとってどうでもいいわ」
「あのね、全然心配しなくても大丈夫。アナタは特別に選ばれた人なのだから。
神様のシナリオには逆らえないし、課題をクリアー出来るだけの能力があるから
アナタは呼ばれたの。
4次元の時空を超えられる能力をマスターすると、その神様の意志も解るようになってくるから。
そうなれば、ワタシが説明しなくても 宇宙の存在や生きる意味など、全てが理解
出来るようになるから」
「でも、なんでそんな使命を受けるのがワタシなの?」
「そうね。どうしてアナタなのでしょうね。それは神様が決めたことだから・・・ねっ。
でもね、該当者は何人もいて、アナタはそのうちの一人なの。
みんなそれぞれの目的や役割があって選ばれていて、誰がなんの使命を受けるかは
その人の持っている資質により与えられる使命がこれから決まっていくの。
アナタの場合、優しい性格や純粋さ、好奇心などの資質が認められ選定された結果、
使命を授けるのに適任だったので幻想の世界に呼ばれた、と言う事は確かなの。
いくつもの偶然が重なってここに辿り着いたのよ。まあ、運命だと思って諦めてね」
「運命ね・・・はぁ。
それと、あと1つ質問。ワタシがそんな能力を備えて一体なにをするの?」
「それは、後から分かること。
それよりも、これから大変な事態になるからそれに備えておかないと」
「なになに、大変な事態って。それって怖いの?」
「もちろんそうよ。洗礼を受けるための試練だからね。
試練を受ける場所は、幻想の世界の2次元の一番遠いところに位置する
暗くて、寂しくて、とても怖い場所。荒れ野の地として語りつがれているところよ」
「なによそれ? 脅さないでよ。大体、洗礼って何よ」
「それは教えられないわ。自分で解決しないと意味がないことなの」
「そんな説明じゃ、全然解らない」
「いい、このお話はとても重要だから良く聞いていてね。
どんな誘惑にも負けずに絶対に欲望を断ち切ること。
欲望に打ち勝って成功すれば、アナタは天使と呼ばれる存在に成長していく権利を得るの。
あっ、そうそう。
だけどね、失敗しても神様が何とかしてくれるから大丈夫。
アナタの使命がそこで終わりになるだけだから。その後は、以前の生活に戻るだけよ。
それとあと1つ。とても大事なこと。
洗礼を行う場所や内容は、アナタの想像の産物で、あなたの心の世界。
そして、そこに現れるのも神様の使いで 『あなたの心』 だっていうことを忘れないでね。
神様の世界は自分の外にあって、神様の国は自分の心の内にあるのよ」
「あー、もうヤダ。何でワタシがそんな試練に巻き込まれなくちゃならないのよ?」
「洗礼はね、天使からの残酷なテーゼなの。
アナタが未来を目指すための翼を得るために、絶対に避けては通れない過酷な試練なの」
「ちょっと、いい加減にしてよね。もう、イヤ。
アナタ、妖精だか何だか知らないけど、潰しちゃうから・・・(パチン)」
「きゃっ、危ないなーぃ。危うく潰されるところだったわ」
「まったく、もう。本当に潰してやりたいわ・・・」
「それじゃ、頑張ってね。洗礼は深夜に突然始まるから。いい、アナタとワタシ達のため、
そして1次元で暮らしている人々のために、絶対に誘惑に負けちゃダメだよ」
「はい、はい。こうなったら、何でもやります。ヤリでも鉄砲でもかかってきなさい、って感じ」
「そう、そう。その感じ。それじゃワタシはこれで消えるわね。
成功したらまた会いにくるから、遠い場所から祈ってるわね」
「えっ? フェアリーさんも一緒じゃないの?」
「あっ、それを言っていなかったわね。一人で戦うのよ、頑張ってね。・・・それじゃ、バイバイ」
「一人で戦う、って? バイバイって、ちょっと待ってよ。
はぁ、本当に逃げちゃったよ。あんにゃろう・・・」
(一体、これから何が起こるんだろう?
今日の深夜に洗礼が始まる、とか言ってたわね。
欲望を捨てる、誘惑に負けない、ワタシに出来るかな?
ワタシが天使になる? 何だか笑っちゃうわね。
でも、格好いい男とか出てきたら、絶対誘惑に負けちゃうわね。うふふっ)
「第1章」 終わり / 〜 Stay by my Side 〜 倉木麻衣
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