「フェアリー」  〜 幻想世界の物語 〜      第3章へ      Home


第2章  〜 鏡の国 〜                       2003.5.16


フェアリーが消えてから数時間が経過し、時刻は25時を回っていた。
冬美は、相変わらず雑誌を読んでいる。

その時、物陰に隠れてフェアリーが現れたが、冬美はまったく気付かないでいる。

(そろそろ時間ね。それでは、へんしーん。
 うん、よしよし。なかなか可愛い悪魔に変身出来たわ)

冬美は ゆっくりと起き上がり、ベットに潜り込もうとしていた。
洗礼も始まらないし、明日も仕事だし、そろそろ寝ようかな?
と思ったその時、
異様な気配を察した。
部屋の灯りが消えたわけでないのに、辺りが急に暗くなった、と感じた。

そして振り向くと、そこには小さくて可愛い悪魔が宙に浮いていた。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「アナタ、フェアリーさんでしょ?」

「・・・・・・」 (うっ、いきなりバレてる)

「ねえ、そうでしょ?」

「俺様はこう見えても、正真正銘の悪魔さ」

「きゃっ! 喋った。可愛い」

「・・・・・・」 (ダメだこりゃ)

「ねえ、悪魔さん。今日ね、ワタシね、洗礼を受けるの」

「俺様がお前に洗礼を与えるんだ。いいか、よく聞きな。
 俺様の言うことを聞けばこの世の全てを納める権力をお前に与える。
 もし従わないなら、お前の命をいただく。選択は2つに1つだ」

「えっ、こんなに可愛い悪魔さんがワタシの命を奪うの? 何だか笑っちゃうわね」

「どうやらお前は、俺様の力を信じていないようだな。それなら俺様の力を見せてやろう。えいっ」

悪魔が手を上に挙げたと同時に部屋の灯りが消え、プラズマが走り、ドーンという音と共に
風が吹き荒れ、部屋全体が大きく歪んだ。


「キャー、なに? なにが起きたの? 助けて」

突然の異常事態に動揺した冬美は、部屋の隅に縮こまり、全身ガタガタと震えていた。
その間わずか1分位だろうか、悪魔が手を下げると部屋はいつもの状態に戻った。

「どうだ。俺様の力を思い知ったか」

悪魔は再び手を上げる。 

すると今度は、狭くて何も無かった部屋が、広大な空間に変わり、大理石で出来た床に
大きなシャンデリア、長さが10メートル以上はあるテーブルの上にフルーツや見たこともないような
豪華な料理が沢山並べられ、部屋中には金貨が無造作においてあった。

しかし、そこには人の気配が全くなく、モノの豊かさとは対象的にあまりの寂しさや孤独、 
そして恐怖感が漂っていると、冬美の心はこの場所の雰囲気を感じとった。

この世界こそ、今までの自分の欲していた理想的な物的要求と、これまで抱えていた不安や
孤独な心境が映し出され、自分の心の葛藤が目の前に現実的な形として現れていた。

そして、悪魔が手を下げると、またいつもの部屋に戻った。

「なによ、これ? 一体何が起きたの? これは、まぼろし・・・? それとも現実?」

「さあ、どちらを選択するんだ? 自分の死か、それとも栄華か」


「お願い、助けて。大体ワタシ、悪魔に睨まれるようなこと何もしていないわ」

「そう。お前は何も悪いことはしていない。だが、そんなことは俺様には関係ない。
 俺様の使命は、お前にどちらかを選択させればいいだけだ」


「そんな・・・。どっちもイヤ」

「どちらか1つだ。どうしても選べないなら、俺様の手先になってもらおう」

冬美はフェアリーに教えられたことを思い出し、少しの間考えた。


(そうだ、これは欲望を捨てるための試練なんだ。欲望に打ち勝たないと。
 この世界はワタシの心、ワタシの世界、ワタシが望んでいる儚い欲望。
 だから、ワタシが悪魔を消し去ること望めば消えていなくなるかも・・・)

「悪魔さん。ワタシはそんな儚い欲望を望まない。ワタシの心から消え去りなさい」

その言葉と同時に、悪魔は目の前から消えていなくなった。

(た、助かった。フェアリーさんが色々と教えてくれたお陰ね。ありがとう)

少し間をおいて、眩しい閃光とともにフェアリーが現れた。

「冬美さん、やったわね。自分の欲望に打ち勝ったわね。おめでとう。
 この幻想の世界の仕組みを理解したわね。これでアナタも天使の仲間入りよ」


「あっ、フェアリーさん。怖かった、本当に怖かった・・・ (泣)」

冬美の目からは涙がこぼれ、声は震えていた。


「うん、うん。良くやった。アナタなら出来ると信じてたわ。
 これでアナタは天使になる資格が与えられたのよ。でもね、修行はまだ始まったばかり。
 これからが勝負。頑張ってね」


「やったわ。ワタシ、天使になれるのね。頑張る、頑張るよ。何でも頑張っちゃう」

「天使はこの神様の国から生まれるの。この試練に打ち勝ったアナタは神様になれるかもね」

「そうね。こんなに怖い体験したんだもの当然よね。ワタシは天使を超えて神様になるのよ」

「そうよ、そう。こんなに凄い体験したんだから、もう神様みたいなものね」

「絶対そうだわ。欲望を捨てて、死の恐怖に打ち勝ったんだもの、まさしく神様的な存在よ」

「うん、絶対にそうよ。アナタは神様だわ」 

(うふふ、完全に舞い上がってるわね。試練は終わってないのに・・・)


「第2章」 終わり / 〜 What are you waiting for 〜 倉木麻衣

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