「フェアリー」  〜 幻想世界の物語 〜      第4章へ     Home


第3章  〜 不思議の国 〜                   2003.5.17


「そうか。ワタシは神様になったのね」

「アナタはこの世界の神様だから、世界を自分の好きなように自由に作り変えることが出来るのよ。
 一体どんな世界を作るつもりなの?」

「そうね。戦争のない平和で自由で、精神的にも、物質的にも、豊かに恵まれた世界にしたいわ。
 それから、受験勉強や出世などの競争がない社会がいいわね。
 人を思いやり、他人を愛し、人生を他人のために捧げられるような社会。
 動物や植物などが共存できる、緑が豊かで自然が溢れる地球環境も必要ね。
 イジメもなくそう。みんな ちょっとづつ働いて、人生の限られた時間を楽しく有意義に過ごすの」

「でも、そんな憧れの世界にどうやったらなるのかしら?」

「大丈夫。ワタシが願えば、そんなこと何でも簡単に叶うのよ。だって、ワタシは神様だもの。
 ワタシは世界中の人達から祝福されるの。
 旅先では、女神さまとして特別待遇よ。毎晩、素敵な男性がエスコートしてくれるの」

「そうよね。アナタは神様だから、願ったとおりに何でも叶うのよね」

冬美はフェアリーと一緒に、一晩中地球の未来への希望や、自分の将来像について
とても素敵な夢を想い描き、刻を忘れ語り合い、いつの間にか明るい陽射しが
窓から差しこんでいた。

「ねえ、冬美さん。そろそろ、仕事に行く時間よ。みんなにアナタの存在を教えないと」

「そうね。それじゃ今日は、みんなにお披露目会ね」

「うん、がんばってね。ワタシは待っているから。それじゃ、行ってらっしゃい」

「フェアリーさん。バイバーイ」

冬美は、いつものとおりマイカーを運転して出社した。
昨日寝ていないせいか、仕事ははかどらず午前中はぼーっとしながら、
いつ自分が神様であるか、みんなに知らせるタイミングを考えていた。
そして気がついたら昼休みになっていて、いつもの習慣で社員食堂に向かっていた。


「あっ、冬美。こっち、こっち」

「・・・・・」

「アンタさー、午前中何もしないでぼーっとしてたでしょ」

「・・・・・」

「どうしたの? 元気ないよ」

「あのですね、先輩。聞いて下さい。ワタシ、神様になったんです」

「・・・・・はぁ? アンタね、昨日は妖精を見たとか言って、今日は神様になっただって?」

「そうです。ワタシは神様です。
 ですから、あなた達の幸せは全部ワタシが握っているのです」

「・・・アンタばっかじゃない?」

「いいえ、本当のことなんです。これは、古くから伝わる定説なんです」

「本当って、誰もアンタが神様なんて信じないわよ。ねぇ、清美」

「そうだよー。冬美大丈夫? 頭おかしくなったんじゃないの?」


「アナタ達は、今までワタシのことをさんざんイジメたので、お月様に代わって
 お仕置きをすることに決めました」

「月に代わってお仕置き? だって・・・(笑)。アンタはセーラームーンか、って」

「でも、こりゃ本物だわ。ねえ、冬美。もう一度聞くけど、アンタ本当に神様だと思っているの?」

「そうです。とても凄い体験をしてきたのだから、ワタシこそこの世を支配する神様なのです」

「ダメだこりゃ・・・。今までイジメすぎたのかな? ・・・・・はぁ、責任を感じるわー。
 で、その凄い体験とやらはなんなの?」

「一晩中、悪魔と戦って勝利して来ました」

「うわっ。こりゃ、本当に重症だわ・・・。みんな、今日の午後はお休よ。
 とりあえず、冬美を家に連れて帰えらないと」

「そうね。これは本当にヤバイかも・・・」

「何だか心配ね。前から少し変わっているところはあったけど、これほどじゃなかったわね。
 冬美大丈夫かなぁ?」

先輩達に連れられ、冬美は自宅に帰されることとなった。

「あのね、冬美。昨日寝ていないんでしょ。
 アナタが寝るまで、みんなここにいてあげるから、とりあえず寝なさい。
 それからこれ。眠くなるお薬よ。はい」

「・・・・・」

「大丈夫よ。みんなアナタのこと心配しているんだから。明日の朝も様子を見に迎えに来るから。
 疲れているんだったら、仕事なんか休んじゃえばいいんだよ」





「くぅ・・・くぅ・・・」

「やっと寝たわね」

「うん、さんざん夢物語を聞かされて、何とかね。でも、大丈夫かな?」

「ふと思ったんだけど、もしかしてこの娘って、私達には解らない特別な才能を 
 持っているんじゃないかな? なんてね・・・」

「えっ、あ、うん。ワタシもね、前からそう思っていた・・・」

「まあいいや。今日は取りあえず帰ろう。明日はここに7時集合でいいわね」

緊張がほぐれた冬美はいつのまにか眠りについていた。
次に目が覚めたのは、夜の24時を過ぎた頃。
ふと、テーブルに目をやると、先輩達が用意しておいてくれた、夕食が並べられていた。
冬美は、さすがに神様ともなると待遇が違うのね、などと本気で思いながら
食事をしていると、物陰に隠れフェアリーが現れた。

(冬美さんは相変わらず、神様になっているのね。ふふふっ。
 でも神様ごっこも、そろそろ終わりにしないと。それでは、へんしーん。キューピッドになあれ)


「冬美さん。初めまして」

「・・・あれ? 今度はどなた?」

「ワタシはね、キューピッド。愛を伝えにきたの」

「愛?」

「そう、愛。本物の愛。救いの愛よ。いくわよ、こっちを向いて」

キューピッドは光る弓を冬美の胸に向け、黄色の光の矢を放った。
光の矢はスッと胸の中に吸い込まれていく。


「えっ、なに、なにをしたの? 胸が熱い。ねえ、どうして?
 何でこんな不思議な気持ちになるの? ねぇ、キューピッドさん、一体なにを射したの」

しかし返事はなく、辺りを見回してもどこにもキューッピトの姿はなかった。

(はあっ、熱い。胸が熱い。苦しい・・・。 けど、なに何なのこの快感は?)

冬美の目から溢れんばかりの涙が自然と流れていた。
心が清く、安らかになり、いつの間にか眠り込み、起きたら次の日の朝を迎えていた。


「おっはよー」


「あっ、フェアリーさん。おはよう、って、昨日ワタシどうしていたの?」

「あれ? 冬美さん。アナタ神様じゃなかったの?」

「あっ、そうそう。神様のことね。あれは悪い冗談だわ」

「悪い冗談って、昨日は本気で信じていたのでしょ?」


「うん、確かに・・・。でもね、キューピッドさんが現れて、本当の神様の愛を知ったの。
 とても切なくて、熱くて、賛美で、何て表現したらいいか解らないくらい暖かくて、
 優しくて、美しくて、とても不思議な気持ちになったの」


「ふーん。何だか知らないけど、すごく良い体験をしたみたいね」


「その時ワタシは神様の愛を感じたの。ワタシなんか絶対に神様になれない、
 ってこの経験で教えてもらったの」

「ふう、良かった。成功ね」

「えっ、成功って?」

「最初に注意したでしょ。
 幻想の世界に呑まれると、妄想の世界に行ってしまう、って。
 アナタはね、神様でもないのに神様になってしまって、現実世界では相手にされない
 妄想の世界に呑まれていたのよ」

「妄想の世界・・・」

「そう。
 幻想の世界と現実の世界を混同してしまい、理性的に判断出来なくなった状態よ。

 幻想の世界で起きたことを現実世界の人達にそのまま語ったでしょ?
 でも、そんな話し誰も信じてくれないでしょ。今日会社に行ったらみんなに聞いてみるといいわ」


「ワタシ、もう何が何だか解らない・・・」

「そうね。アナタは、幻想の世界と妄想の世界を経験した。それだけは確かでしょ」

「うん。確かにそれだけは事実よ」

「でも、そんな不思議な経験を、この世界を知らない人にいくら言っても 
 全然信じてもらえないのよ。それも解るでしょ?」


「うん、そうね。冷静に判断すればこんなバカげた話し、誰も信じてくれないことくらい解るわ」 

「もう一度言っておくわね。
 現実の世界の他に幻想の世界があるということを、冷静に常識的に判断し、理解すること。
 それから、現実世界の人に幻想世界や妄想の世界での体験したことを、そのままの言葉で
 具体的に喋ってはダメよ。誰も理解してくれないから、ねっ。ただの病人扱いされるだけだからね」

「常識的に判断し、理解すること・・・うん。何となく解ったわ」

「いいこともあったでしょ? 神様の本当の愛を感じたでしょ」

「うん。とても、幸せな気分になれた」

「アナタは神様に見守られているのよ。
 いい。この話はとても重要だから良く聞いておいてね。

 アナタはどうやっても神様にはなれないの。
 この世界のことを知って、特別な経験をして、感性が磨かれ、天使になる権利を得ただけなの。
 神様の愛に触れたでしょ。アナタの使命は、神様の意思を伝えるメッセンジャーになるのよ」

「ふーん、そうなんだ・・・。でも、何だかどうでもいい。ただ、もう一度神様の愛に触れたい・・・」

「そう言えばアナタ。天使って、どんなものか知ってるの?」

「白くて、光り輝いて、美しくて、大きな翼を持っていて、頭に輪があって、
 みんなに幸せを与えるのよね」

「そうね、それはあくまでもイメージ像。
 でも本当はね、天使は現実世界の人達から見たら、ただのじゃまな存在なの。
 大衆を引きつけ、未来のために戦う役を使わされた天からの使者だけど、とても迷惑な存在なの。 

 これまでの歴史でも、多くの天使が迫害を受け、追放され、民衆に殺されたりしてきたのよ。
 天使とは、神の真意を理解して、欲望に駆られた人々に真実を伝え、地球や人間の未来が
 危機に向かっている時代の流れを変えたり、人間や地球の生命を救う、神様に代わって仕事をこなす、
 とても重要な役割が与えられるの。

 だけどね、これだけは教えておかないと。
 人間の欲望とは計り知れないものなの。
 物欲に捕らわれた人は、自分の快楽を得るために、土地を奪いあったり、人を平気で殺したりするのよ。
 アナタはこれから、そんな人達を相手に世界中の人の意識を変える戦いに挑むことになるの。
 大変なお仕事だけど、頑張ってね」


「ちょっと、何よそれ。それってかなり危険でヤバいじゃない。
 大体、天使って、みんなのために自分の命さえも投げ出す忠実な神様の使いっ走りじゃない・・・」

「そうね。そんな感じね。でも、それが大丈夫なの。アナタ、死ぬの怖い?」

「昨日、一度、命を投げ捨てたようなものだから、不思議と死への恐怖がなくなったかも」

「そうでしょ。神様のシナリオでそうなるように仕組んであるの。
 だから、この先も大丈夫。神様は全てお見通しだから。最後には、本当の正義が勝つように
 全部仕組まれているのよ。だけどアナタが考えている正義とは少し違うけどね」


「もし、欲望に駆られている人達にピストルで命を狙われたら、それでお仕舞いでしょ?」

「あのね・・・。ピストルで命を狙う人を一体誰が創り出したと思う?
 悪人とか、善人とか呼ばれる人達も、天使も、悪魔も、何もかも、全部神様が創ったのよ。
 この宇宙も、地球も、時間も、私達も、この不思議な空間も、全部神様が創ったのよ」

「そう言われれば、確かにそうだけど・・・」

「この宇宙には、人間が創ったものなどなに1つもないの。
 だけど、人間はこの世のモノは全て人間のものだと信じ込み、そして、神様の恵みだ
 と言うことを忘れ戦争で奪い合い、傷つけ合い、殺し合い、苦しみもがいているの」


「うん。本当に酷くて醜い世の中ね」

「でもね、そんな戦争さえ神様のシナリオに従って起きている小さな事件なの。
 もう少し世界観が深くなり、神様の偉大さを知るようになると、神様の本当の意思が 
 理解できるようになるわ。

 アナタはこれから、神様の真意に従い自分の好きなように生きていけばいいの。
 その道が神様の意思につながっているの。
 神様に見守られているのだから、何も心配することないのよ。

 たとえ自分で活動を止めたとしても、その行動が神様の真意に添う活動をしていることに
 なってたりするの。
 全て神様のシナリオどおりにことが運び、私達は常に神様の愛に見守られているのよ」 
 

「何だか、妙に納得させられちゃう・・・。
 結局は、今までの様に自分の意志で、自分の好きなように生きていけばいいのね。
 それだったら、別に難しい問題じゃないわね」

「そうよ。ただ、大きな違いは神様の真意に従うこと。
 善とは何か、悪とは何かを自分の理性と感性で判断し、常に真実と照らし合わせて決断するの。
 これまでの法律や規則、この世の間違った常識や価値観など、アナタが洗礼で受け取った、
 物欲を捨てた特別な心のモノサシで善悪を計るだけ。

 そして、真実を理解できない人達にこの世の真実とは何か? を、文字や、言葉、歌、絵画、
 学問などで、自分に適した手法を使って伝えるの。
 その特別な能力が天使の翼なの。未来に向かって飛んでいくための翼よ。
 天使は生身の人間と見た目も形も普通の人と同じ。天使に翼なんか生えていないのよ」

「ふーん。何だか解ったような、解らないような・・・。でも、背中に翼が生えてこなくて良かったかも。
 あんなのがついていたら目立つし、大体重くてしょうがないわよね」

「天使の役目や能力は、そのうち少しずつ解ってくるわよ。でもね、アナタはまだ生まれたばかりの
 天使の赤ちゃんだから、これから先もっともっと精神を鍛え、知識を蓄えて、
 自分で善悪を判断できる理性を養う必要があるの。
 そのために、これから用意されている3次元の旅で修行を積むのよ」


「あっ、そうだったわ。3次元の旅に行くことになっていたのね」

「そうそう。2次元はとりあえずクリアーしたから、次はいよいよ3次元。
 それじゃ、しゅっぱーつ・・・・・・・の前に、アナタは一度、現実世界に戻って、
 先輩達の誤解を解かないと、ねっ」

「はい、はい。お仕事に行けばいいんでしょ」

(ピーン・ポーン)

「あっ、先輩が迎えに来てくれたみたい。それじゃ仕事に行って誤解を解いてくるわね」

「頑張ってね。また、タイミングを計りながら教えに来るからね」

(はぁ、気が重い・・・。何よ、天使のお仕事って。
 結局のところ、迫害され世界中の人からイジメられるお仕事なのね。
 これじゃ、現実世界の延長じゃない。まあ、適任と言えば適任なのかな・・・悲)

「ふゆみー。おっはよー、元気になったぁー?」

「あっ、はいはい。今すぐ行きまーす」



「第3章」 終わり / 〜 不思議の国 〜  倉木麻衣

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