05.07.21(THU) 槍ヶ岳:三日目 北アルプス


 朝6時10分、槍ヶ岳山荘出発、予定どうり大喰岳、中岳を経て天狗原に向かう。岐阜県側から吹き上げる風が強く、冷えて右側の耳が痛い。

 早朝、朝焼けの山を撮ろうと外に出てみたが、岐阜県側から吹きつける風が強く、槍沢側はガスが渦巻いていて何も見えなかった。ご来光は槍の向こう側から昇るらしく、しばらく待ったが朝食の時間もありあきらめた。朝食も終わり出発の時間になると幸運にもガスは消えていた。しかし風が強いのにも係わらず全体に春霞のようにもやって空気の透明度が悪い。

 歩き始めてすぐスタイルのいい単独の女性に追い抜かれた。我々が風に吹かれてよろよろと槍ヶ岳を下っている頃、彼女は軽々と大喰岳を登り消えていった。我々の2倍は早い。まあしょうがない、マイペース、マイペース。
大喰岳


 大喰岳を登りながら振り返ると槍ヶ岳の絶景が見える。そうこの槍が見たくて、多少無理してこのコースを選んだ。
早朝槍ヶ岳

 大喰岳の山頂は風が強くて休む気にもなれなかった。帽子が飛ばされないよう押さえて歩くのが面倒なので、妻はスカーフで、私はタオルで帽子の上からほっかむりで歩く。あまり人は居ないからどんな格好も気にならない。
 しかしそれでも中岳の上で5人の登山者に出会った。いずれも単独の人達だった。南岳小屋で様子を見て調子がよければキレットを越えると言う人、南岳小屋から新穂高温泉の方に下る人、南岳まで登り戻って我々と同じ天狗原に下る人、それにもう一人は若い女性だった。さらにもう一人南岳のほうから中岳に登ってきた人は、我々に近い年代の男性で、この男性は昨日は北岳に居たという。南アルプスの北岳かと思って、えっ!と言ってしまったが、そんなことがある訳ない。北穂高岳を略しただけだろう。来る途中で雷鳥にあったと言う。まだ会ったことの無い雷鳥に是非出会いたいものだ。
 
中岳


中岳山頂付近から南岳・穂高連峰


中岳山頂 天狗原下降点から見た南岳

 雷鳥を探しながら中岳のガレ場を下り、雪渓の下を巻いて天狗原下降点までの中間にある黒岩(と言うらしい)の左を巻いて(雪渓の上の岩場のトラバースでちょっと怖い)広々した天狗原下降点に出た。黒岩を巻く少し前、私達はもう一人男性に出会ったらしい。会っていれば挨拶くらい交わしたはずだが、雷鳥探しに気を取られていたのか妻も私も今一はっきり覚えていない。南岳のホームページを毎日更新している管理人の坂本さんとかいう方で、このホームページは槍ヶ岳登山のための情報収集で、妻が毎日のよう見ていたホームページである。帰ってからそのホームページを開いて7月21日のページを見たら、何とほっかむりで歩く私たちの後姿が、当日の南岳の写真の片隅に写っていた。


 天狗原下降点の案内板の下にザックが一つ置いてあった。南岳をピストンして天狗原に下ると言っていた若い男性のものだろう。ここから覗き込むと横尾本谷右俣のカールが美しい。正面に屏風岩とその裾をまいて涸沢に向う登山道まで見通すことが出来る。
 ひと休みして鎖やはしごを頼りにやせた岩だらけの尾根を下る。下るほどに北穂高岳、槍ヶ岳が表情を替え楽しませてくれる。特にこの北穂高岳の城砦のような数百メートルの壁は圧倒的な迫力がある。その岩の先端に小さな山小屋が乗っている。心の騒ぐ風景だ。
 コルまで下り風を避けて昼食にする。中岳で一緒だった若い女性が下りてきた。南岳あるいは南岳山荘まで行って来たのだろう。こういう大きい山は初めてなんですよ、と言う。世の中変わったな。しなやかに飛ぶように、たった一人で天狗原を下っていく彼女を見送った。
北穂高岳


 天狗原に下る途中でもう一組、格好いい若い男女が登ってくるのに出会った。キレットを渡ると言う。若くてたくましくてそれにふさわしいように見えた。
 それから天狗原分岐まで、足元の岩の下を流れる激しい水音のする大岩の沢を渡り、3本の雪渓を恐々渡った。
天狗原から見た槍ヶ岳


 天狗原分岐に着いた頃は時間もあるので横尾まで下ろうか、なんて話していたが、槍ヶ岳を登り終えて緊張が緩んだのか、急に妻が足の不調を訴え、結局休み休みやっとの思いで槍沢ロッジにたどり着き、予定どうり槍沢ロッジ泊まりになった。宿泊手続きを済ませてロッジの前庭のテーブルで生ピールで乾杯。最後の一滴までうまかった。2日前到着した時は気付かず自動販売機のビールを飲んだが、山で飲む缶ビールは気圧のせいかまずい。山のビールは生に限る。





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