監視対象

 「公安調査庁」の調査対象となっているのが、事実上日本共産党と朝鮮総連であることはよく知られている。こういうことに官費をつぎ込むには長らく批判があったが、このうち朝鮮総連については、拉致事件の表面化以降は、その監視を否定する言動が表に出ることは少なくなったようだ。
 しかし、共産党となると話は違う。なにしろこの政党が武装闘争と関わったとされるのはすでに半世紀以上前のこと。その後はもっぱら選挙を活動の中心にすえている。こんな監視は官費の無駄遣い、明治政府の内相品川弥二郎が、「政府のため」と公言して政党への選挙干渉に励んだのとさして変わりなくも思える。ただし、共産党の側に、一点の曇りもないかというと、それはそれで、また別の話だ。
 東京・代々木にある共産党本部は、現在真新しいビルに生まれ変わっているが、一昔前までは建て増しを繰り返したような古ビルだった。この古ビル、実は登記されていなかったのだ。法務局で閉鎖登記簿を見ればわかることだが、この旧本部ビルが登記されたのは、新しい党本部ビルの建て替えのころである。おそらく、新しいビルを建てるにあたっての手続きのためにようやく登記したのだろう。
 党本部の土地は、戦前は映画館が建っていたが、戦後、寄付されたものだという。その映画館の建物や、さらにその付属の建築物など数棟の、とうに滅失した建物の登記が、放置されていたのである。 
 建物の登記がされなかったのは、忘れていたのではないだろう。なにしろ同じ代々木にある東京都委員会のビルも旧本部ビルが登記されるころまで登記されていなかったのだから。建ったのは1970年代の後半のことだから、少なくともそのころまでは、建物の登記など意に介さなかっというたことになろう。ちなみに、現在の党本部の建物は大手ゼネコンが建てているくらいだから、当時とは違うと思う。
 もっとも日本の政党は90年代まで、法人格のない「人格なき社団」であったから、やっかいなところもあったのも事実だ。だが、60年代に党本部を建てた社会党などは委員長個人の名前で登記し、交代すると個人名で引き継いでいた。それは財団法人を設立して所有権をそちらに移すまで続いた。そのくらいのことはするのが公党の義務ということだったのだろう。
(2011.9.26)

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