新型探線アンカーの開発
 この度お客様のご依頼により、特殊アンカーの開発と製造を行いました。皆さんは海底ケーブルと言う物をご存知でしょうか?現在、世界中に広がったインターネットですが、日本にいながらアメリカの情報を得るには、物理的に日本とアメリカを結ぶ光ケーブルや同軸ケーブルが必要になります。このケーブルを太平洋や日本海に敷設したのが海底ケーブルと呼ばれるものなのです。さて、この海底ケーブルの保守、修理、交換を行う場合、古くなったケーブルを引き上げるために一般的に探線アンカーと呼ばれる錨を用いるのですが、ケーブルの敷設方法が変化してきたために、探線アンカーによる海底ケーブルの引上げ作業が困難になってきています。昔は海底にただケーブルを置いていくだけでしたが、現在では海底面から2m程の所にケーブルを埋設していくようになっており、これに伴なって潜水艇やROV(有索無人水中作業艇)等を使った海底ケーブルの引き上げ方法に変わってきています。しかし、この方法は初期コストや維持費がかかり、天候が荒れてくると作業が行えない等色々と問題を抱えています。
 そこで、低コストで簡便、天候が少しぐらい荒れても作業が行え、水深1000m以上の海底でも、深く埋設されている海底ケーブルの引き上げが可能な探線アンカーの開発を行う事になった訳です。

1.小型モデルによる新型探線アンカーの性能実験

 これまで使用されてきた探線アンカーは、爪の形状や全体の構造から言って海底面から2mもの深さまで爪を貫入するには、非現実的なほどの大きさになってしまい道具として使えません。また、アンカーがコンパクトになったとしても、曳航されるだけで2mの深さまで爪が貫入するには、下へ潜ろうとする非常に大きな力を発生させなければならず、これに伴ない把駐力も大きくなってしまうため、曳航出来なくなると云うなんとも矛盾する大問題を解決しなければなりません。
 
これまで使用されてきた探線アンカー。それぞれ重さが1tを超える巨大アンカーですが、どちらも1m以上貫入することが難しいようです。

以下に探線アンカーの要求性能をまとめます。
 @海底に深く貫入する
 A把駐力が小さい
 Bコンパクトで軽く、取り扱いが簡便
 C曳航し続けても傾いたり反転現象を起こさない
 D天候の荒れや作業中の衝撃に耐え、耐用年数が長い
 E低コスト

 弊社では、これまで様々な錨の開発・製造を行ってきましたが、その全てが把駐力を如何に大きくするかがテーマであり、今回の様に小さく抑える錨の開発は、全くの初めてでした。そこで、まずバルカンストックアンカーを基本に、12kgの小型モデルを試作し、東海大学海洋学部航海工学科の佐藤教授のご協力を頂きアンカーの引っ張り試験を行いました。左が探線アンカーの小型モデルで、下の写真が試験の様子です。引っ張り試験は、乾燥砂で硬く締めたもの、実海域を模した凸凹のあるもの、水を張った水中と実験を行いました。曳航し始めると、どんな状態からでも片方の爪が必ず掻き込み、一定の深度まで爪が潜って把駐力も400kg前後で安定する非常に良い結果を得る事が出来ました。また、実海域における小型船を使った試験も行い、探線アンカーとして充分な性能を持っていることがわかりました。今回開発したこのアンカーはシンプルな構造なので取り扱いも簡単で、製造コストも抑える事ができ、理想的な探線アンカーと言えるでしょう。

2.実用モデルの製作
 小型モデルによる水槽および実海域実験の結果を得て、探線アンカーとして充分な性能を持っていることが分かったので、テスト運用が出来る実用モデルを製作し、実作業において性能を図ることになりました。
 運用モデルを作る指標として爪深度(爪の潜る深さ)を80cmとし、12kgの小型モデルを相似比で大きくしていきます。小型モデルでは把駐係数が33程度になる事が分かっているため、実用モデルの把駐力が20t前後になると予想できます。海底ケーブルを引き上げる揚錨機の使用限界重量が25t前後であるため実用モデルの把駐力を抑える必要があります。そこで土中に潜る力を抑えることなく、把駐力だけを小さくするいくつかの工夫をして実用モデルを設計製作しました。
 

 実用モデルではアンカー自体の把駐力も高く、使用する場所も実海域となるため各部の肉厚を厚くし、大きな力にも耐えられるようにしました。アンカーサイズは長さ3000mm、爪先端幅2100mm、重さ600kgで把駐力が最大で10t程度になります。実際に使用しての性能テストは、6月下旬から7月末までの期間中に行われる予定なので、結果の報告を楽しみにして待っているところです。
 この探線アンカーが実用化されれば、これまでのような高コストの揚線設備や作業コストを抑える事ができ、さらに非常に簡単に取り扱う事ができるので、この業界にとって大きく貢献できると考えています。