『動脈列島』 


 東映制作の『新幹線大爆破』に対抗するかのように、東宝が同じ年に公開した作品である。

 新幹線の騒音と振動が原因で自分が受け持つ患者が死んだことにブチ切れた研修医の秋山が、「10日後に新幹線を破壊する」と国鉄に予告するところから物語は始まる。
 国鉄から連絡を受けたものの、始めは「どうせイタズラだろう」とタカをくくっていた警察だったが、秋山はイタズラでない証拠として、あの手この手を使って新幹線を脱線させたり停車させたりしたため、本腰を入れて捜査を始めた。やがて予告日が到来したが、警察の捜査が実を結んでどうにかこうにかして新幹線の破壊は阻止された.....というのが、おおまかなストーリーである。

 この作品の魅力は、『新幹線大爆破』同様に、全編にわたって漂っている「暗く重いトーン」であろう。高度経済成長が終わり、いろいろな公害問題がクローズアップされていた時代の作品だけあって、新幹線も「夢の超特急」では無くなって、騒音と振動を撒き散らす「公害の元凶」「厄介者」として描かれている。

 出演は、研修医の秋山役に近藤正臣、秋山を追う警察のエース役に故・田宮二郎(=『クイズタイムショック』の司会)、国鉄総裁役に故・山村聡、秋山の恋人役に関根恵子(=『太陽にほえろ!』のシンコ)など、『新幹線大爆破』に負けず劣らずの豪華な顔ぶれである。野党議員役の故・渡辺文雄と新聞記者役の鈴木瑞穂は、『新幹線大爆破』にも出演している。

 また、脇を固める俳優も多彩だ。警察庁長官を問い詰める新聞記者役で故・成瀬昌彦(=『ウルトラセブン』の第四惑星ロボット長官、『帰ってきたウルトラマン』のナックル星人)、秋山が書いた論文の監修医師役で故・中条静夫(=『あぶない刑事』の近藤課長)、秋山の上司役で佐原健二(=『ウルトラQ』の万城目淳、『ウルトラセブン』のタケナカ参謀)、国鉄総裁の秘書役で故・平田昭彦(=『ゴジラ』の芹沢博士、『ウルトラマン』の岩本博士)などが出演している。

 30年以上も前の作品なので、登場する鉄道車両や車も懐かしいものが多い。本作の影の主役?である新幹線は、もちろん0系オンリー。秋山が足として使ったのは、トヨタのセリカとホンダのシビック(いずれも初代モデル)で、愛知県警の覆面パトカーは「ナマズ」と呼ばれたトヨタのクラウンである。

 作品の内容が内容だけに、当時の国鉄は『新幹線大爆破』の時と同様に、撮影には協力しなかったそうだ。もしこの作品をリメイクしたら面白いと思うのだが、やはりJR東海は撮影に協力しないだろうなぁ.....。

2012.4.15