密  談  4







最初、彼が入ってきたとき一人だったので、ちょっと彼女は安心していた。
―――――大丈夫、まだ一人だったら、大丈夫・・・
なんて、彼女や周りの客が考えていたら、
「あとから、もう一人くるから、とりあえずコーヒーひとつお願いします」
と、あくまでも礼儀正しく軽く頭を下げられ、案内も待たず『いつもの席』にスタスタと歩い ていって勝手に座られてしまった。
・・・・・・・そこは、もう、あなた達の席ってことなのですね・・・・・・・
すっかり専属になってしまった彼女はため息をつくと取りあえずコーヒーの準備を始めた。


一条(と確か呼ばれていた)はテーブルの上に何枚かの書類とノートパソコンを広げて何やら 真剣な顔をしている。
それだけを見ているなら・・・・・確かに、カッコいい、っていうか、綺麗な人だと思うが。
ソレこそ黙っていれば、立てば芍薬、座れば牡丹・・・・・ってところだろうか。
ただし、本当に黙っていればの話しであるのだが、実際今日始めて一条を見る周りの女性客の 中には一条の姿を見てピンクのため息をついている者(もちろん目はハート)がいるぐらい だ。
そのうちに例の相方がやってきた。
「遅かったな」
「悪い、一寸野暮用」
「ここ、お前も持ちな」
「わかってる」
―――――やっぱり今日もなのね・・・・・神様のバカ! バカバカバカ! 順子、泣いちゃうか ら!!
なんて思いつつも、
「コーヒーお願いします」
と言われれば、営業用スマイルでハイ!!なんて元気な返事を返してしまう自分を慰めつつ、 この後の核弾頭降下に備える彼女(&客一同)であった。

テーブルの上の書類を片付ける一条を見て椿が不思議そうな顔をして尋ねる。
「なんかあったみたいだな」
「・・・・・判るのか?」
端からみれば丸っきり無表情な一条であっても付き合いの長い椿の事、どうやら一条の変化に 気付いているらしい。
「実は、対未確認用に各自銃の携帯を許されてな」
ブ――――――――!!!!っと周囲で噴出す音がした。
対、未確認!!?銃携帯!!も、もしかして、やっぱりこの男は刑事なのか?!!
今までの会話から察するに、もしかして、でも違うだろう、なんて思っていた事柄を確認して 思わず一同の思いがシンクロする。
世も末だ・・・・・・
「へえ、どんな」
「コルト357マグナム6インチ」
効きなれない言葉に椿は眉間に皺を寄せる。
「それって、凄いのか?」
「凄い」
表情が変わらずとも目の輝きが違っている一条に椿はふぅ〜んと気のない返事をした。
「何が凄いって、椿。こいつは・・・・」
に始まって、熱っぽく語り始めた一条のウンチクを椿はフンフンと適当に合鎚を打ちながら右 から左に聞き流す。
「・・・・・聞いてるのか?椿」
「聞いているとも!」
漸く言葉を切って尋ねた一条に心外だ!と言わんばかりの返事を返してみせる。
「・・・・・まぁ、いい。ともかく、俺の銃になったんだ」
「お前の?」
「そう、俺の」
はっきりきっぱり言い切っているがそうなのだろうか?
「・・・・・・ま、いっか」
自分に被害がおよばなきゃ・・・・・・と椿。
よくね――――!! いいのか警察! こいつに銃持たせて!!
とは周囲の心の突っ込み。ま、これらはあくまでも心の中なので本人には届かないが。
「・・・・・しかしさぁ」
「ん?」
「おまえ、変わらんな」
「何が」
「ずっと前からそうだろ。銃オタク」
椿の台詞に一条はムッとして眉間に深く皺を寄せる。
「いや・・・・・、銃フェチ? 学生の頃からだもんなぁ。しかも刑事になるくらい」
「やかましい」
確かに、拳銃を持って怒られないのは警官だけだが。
「いや、別に俺はいいけどよ、その様子じゃ肌身離さず持ってんだろ」
「・・・・・」
黙っているところをみるとそうらしい。
「・・・まさか、ベットにまで持ち込んでたりしてんじゃねぇだろうな?」
「・・・・・」
「五代に嫌われんぞ、そんな無粋なモノ持ち込んだりすると」
これだからオタクは・・・・と手を振る椿を一瞥して一条が口を開いた。
「・・・・・確かに、俺は銃フェチかもしれないな」
「かも、じゃなくてそーだろ」
「だが、安心しろ。五代も『銃』は大好きなんだ」
「は?」
「そりゃもう、俺の『コルトパイソン』を気に入ってくれてる」
「へえ」
「好き好きって、毎晩銜え込んで離さんからな」
「・・・・・・上の口で?」
「下の口でも」
ガタガタッ!!と後ろで誰かがこけたらしい。だが、全然動じず椿。
「所詮、『コルトパイソン』だろ〜」
と返したりする。そんな椿の台詞を一笑にふして一条。
「バカだな、聞いてなかったのか?『マ・グ・ナ・ム・6・イ・ン・チ』」
と自身満々に言い切った。
「しかも性能はマシンガン並、連射可能!」
「・・・・・」
「なんてな」
なんてな、って、なんてなってあんた、どういうことよ!! あんた、そんなに良い顔して反 則ってもんじゃなくって!?
でもちょっと『五代』って人(羨ましい・・・)と思う一部女性客に(・・・・・・)何も言えない客 &順子ちゃん達であった。
「で、今日は『銃』を自慢したかったんかい」
「そうだ」
「帰っていいかな、俺」
「嘘だ。・・・・・まったく、人の話を最後まで聞かない男だな」
「その言葉、そっくり返す」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「その件に関しては後で話し合おう」
「そうだな。で?」
「実は、五代が怒っていて」
「・・・・なんで?」
「薬」
「あれかぁ〜、いやあ、強烈だったな、あの効き目!」
椿と榎田で偶然作り出してしまった『瞬間発情剤』の効き目を試したのがつい10日ほど前のこ とで。
「良いデータ―取らしてもらった。アレは」
うんうん、と腕を組んで頷いている。
「お前だって楽しかったろう?」
「楽しかった」
「しかし、・・・・怒ってるって事は五代は楽しくなかったのか?」
見てる分には凄く喜んでいるようだったんだけどな・・・・と呟く。
「ベランダでしたのが恥ずかしかったらしくって」
「初心だな・・・・」
「あれから微妙に避けられていて、二人きりになるチャンスがない」
「・・・・・・・あらら」
「だが、そろそろ限界が近い」
「やっぱり」
「キレそうだ・・・・・・」
「・・・・・・五代、結構テレやさんだからなぁ」
違うよ、椿君!と客。
「・・そうだな、明るいところを嫌がったり・・・・」
そりゃ当然だよと、客。
「始まってしまえば問題ないんだが・・・・それまでが」
「それはそれで楽しいんだろ?」
「うむ」
「五代はまだ開発されてないからなぁ、テレがあるんだろうなぁ。・・・手伝ったろか?」
「いい」
「そういうと思った」
「わかってるなら言うな」
「いや、気が変わるってこともあるだろ?」
「ない」
即座な返事にちぇーとブウたれて、椅子にもたれ掛かった。
「ま、いいや。俺には関係ないし」
「そうか?」
「・・・・・なんだよ」
「実はこんなものがあるんだが・・・」
胸元から取り出したのはデジカメのメモリーらしきもので椿は身を乗り出した。
「これ、な。この前のベランダでの一件、全て入ってるんだが・・・」
「なに!」
「あんな遠くでは良く判らないかと思ってな・・・・」
「おお!」
「必要なら・・・・と思ったんだが、そうでもないらしいな」
「やだなぁ、一条くんたら!! 俺ら、親友じゃないか!!」
とたんに態度を変える椿に一条はニッコリ笑ってみせる。
「そうか、・・・・実は二人っきりになれる場所が欲しいんだよな。誰も来なくてしばらく密室に なれる所」
「場所ねぇ・・・・・、病院はもう五代も警戒してるだろうし・・・・」
しばし二人で考え込んで、
「あ、良いとこある」
「?」
「科警研にさ、ちょっと良い密室になる場所があるんだよ。この前榎田さんのところに言った ときに発見したの」
「どこだ?」
椿が手を出す。
「交換♪」
「・・・・榎田さんに断らなくっていいのか?」
「あ、そうね」
椿が胸ポケットから携帯を取り出す。
「あ、もしもし、椿です。ええ、お久しぶりです。・・・いまですか? ちょっと外に、・・・え え、ソレより、お願いがあるんですが。アノ部屋、また貸してくれません? ・・・・ええ、もち ろん、それなりには、ええ、ええ」
どうやら話はまとまったらしい。椿がOKサインを出している。
「ええ、これから行きますんで、じゃ、また後で」
「大丈夫なのか?」
「おお、今、丁度榎田さん一人らしいし部屋見せてくれるってさ」
「そうか」
「じゃ、ちょっと見てみる?」
「そうだな」
といって二人は立ち上がる。
「しかし場所だけでいいのか?」
「ああ、どれだけ俺が五代のこと想ってるか判るまで頑張るつもりだ」
「・・・・・・」
「なんだ?」
「壊さんようにな・・・・・・」
「うむ、心掛ける」
「でも全力投球なんだ」
「あたりまえだ。手抜きはしない」
「しばらく、ナニも起きないといいな」
「そうだな」
最初の言葉通り、椿が会計を済ませると二人は出て行った。
お願い、ほんっっとうに!もう来ないで欲しい・・・・&五代君、頑張れ、力にはなれないけど応 援してるよ・・・・と思う客達であった。

が、やっぱり、事後報告もこの店で行われることになるのであったが、それはまた後の話とい うことで。






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