密  談  2







「カラン♪」
ドアに取り付けられたベルが来客を告げる。
「いらっしゃ・…!!!」
接客用の笑顔を向けたウエイトレスが凍りついた。
「二人」
「は・…ハイ。こ、こち、らへどうぞ・…」
懸命の笑顔は引きつったモノになっている。メニューを持ち――――― 何故かそこしか空い てなかった ――――――例の席に誘導する。途中何人かの客が同じように凍りついた。
「あ、メニュ―はいい。コーヒー二つ」
注文する様もなんて板に付いている人達なんでしょう。ええ!! これだけの美形二人組みを 忘れるもんですか!!
表情にはださずウエイトレス――以下客数名――は思った。
何故、何故、ここなんだ――――!!!なんで、あんたらここに来るんだ――――!!!
そして何故私(俺)ここにいちゃうんだ――――――!!!!!!
二度目の厄災に襲われた者達の心の叫びであった。



「どーした、一条。こんな時間に呼び出しなんて」
「ああ、ここのところ未確認の動きも沈静化していてな。・…嵐の前の静けさかもしれないが・ …」
まったくだ、と周囲の心の突っ込み。
その、一見見目麗しい美形のお二人が実はとんでもない人達だということを知ったのはつい最 近のことだった。
またなのか? また始まってしまうのか・・…!!?
何故か店の中がシーンとしているのに気づきもしない二人だった。
「ところで椿」
「ん?」
「ちょっと、頼みが…」
「駄目」
「・・・・・・・聞きもせずに・・・」
「ナニ言いたいか判るから、駄目。おまえ、もう持ち玉ないだろ?」
ニヤリと椿が笑う。
「同じ手は二度は通じないぞ」
そこでウエイトレスがコーヒーを運んできた。一旦休憩して喉を潤す。ここのコーヒーは 結構美味しくって一条のお気に入りになっている。もちろん、一番は五代の入れるコーヒーだ が。
「・・・・・そういえば椿、お前今年の大晦日どうしたんだ?」
話題がかわる。
「俺?」
「ああ、いつもは何か言ってくるのに、今回何も言ってこなかったからな」
「ああ、俺はアレよ。毎年恒例の除夜の鐘つきにいってた」
ほう・・・・・・と周囲の客が安堵の溜息をついた。どうやら今回は無事らしい。しかも結構常識的 だ。
「いったのか?」
一条が意外だ、という顔した。
「おお、ちゃんと108回数えたぜ」
「・・・・・・・何人で?」
「3人で」
「二人じゃないのか」
「今回は趣向を変えてみた。ちゃんと時間調整もしたからな。年越すことなく年内で数え終 わった」
なにやら一条が考え込んでいる。
「・・・・・・54回、ってところか・・・」
「ん―――、多分な。やっぱりこれがないと年収めって気がしないしなぁ」
「まったくだ」
ふっ・・・・と一条がやわらかく微笑んだ。その反応になにか思うことがあったらしい。
「・・・・・そういえば」
椿がカップを置き一条の方に身を乗り出した。
「お前はどうした?」
「ああ、今年は俺も五代と一緒についた」
嬉しくて堪らないといったように一条が微笑む。
「五代は冒険ばっかりで日本の年越しをあまり知らなくてな。『一条さんはどうしてるんです か?』って聞くから、毎年除夜の鐘をつきにいってるって言った」
「で?」
「そうしたら、『俺も一緒にいきたい』というから、連れてった」
「ひっでぇ! 俺誘ってくれてもいいじゃんか!」
「五代が二人で行きたいと」
「うーそーだー!」
ビシィッ!!と指刺すと一条は微妙に視線を泳がせた。
「人を指差してはいかんと小学校で教わらなかったのか?」
目の前に差し出された指を払う。
「大体なぁ、除夜の鐘っつうのは108個の煩悩を払う為のモノなんだぞ? それを払うどころ か塗れやがって」
「・・・人の事言えるのか?」
「俺は年内に済ませたし、どーせお前の事だろうから年越したんだろ?」
「ああ、ちょっと計算ミスでな、2年越しになった」
「・・・・・・」
黙った椿に一条が眉を片眉をあげる。
「言っとくが椿。嘘は言ってないぞ。俺は五代に一緒にいくか?と聞いて五代は『いく』と返 事をしたんだ。だからわざわざ神社まで一緒に五代と突きに行ったんだぞ?」
「五代と、じゃなくて五代を、だろ、この知能犯」
椿のセリフに周囲が固まる。 を?・・・・を、ってどういうこと?
「・・・・・・・」
「ったくよ、五代が風邪ひいたらどうすんだよ」
椿が溜息をついた。
そこか? そこなのか?! そこを気にすべきなのか??!!
「脱がしたのは下だけだし、それに丸っきり外と云う訳じゃない」
「・・・神社にそんな場所あったっけ?」
あんな初詣の人が多いなかで、人気が無くって人目を避けられるところ・・・・?
「使われていない・・・・祠・・・・?みたいなのがあった」
「あ、そりゃいい場所みつけたな」
よくねぇ――――――!!!! よくねぇぇぇよおぉぉ!!! この、罰当たりモン がぁぁぁ!!! 常識人は心の中で絶叫する。
「いいなあ、楽しそうで」
「いやぁ、燃えた燃えた・・・・。結構、見えそうで見えないもんだな、あの格子の扉って。それ が、また・・・・」
一条がうっとりしながら言う。
「場所が変わると新鮮だろ、? ・・・でも、そんなところでよくリズムとれたな」
「携帯で時報のリズム聞きながらカウントとった」
「あ、そりゃ正確だわ」
カラカラと椿が豪快に笑う。
「ちょっと年越したが二人で新年を迎えられたし、年末の行事だからな、俺も気合を入れた よ」
一条も晴れ晴れとした顔で笑う。・・・気合を入れるって、ナニに?
「でも、祠って結構埃とかで汚いんじゃないの? 帰り、良く平気だったな」
感心したように椿。
「ああ、洋服を汚したり、見た目乱れるわけにいかなかったからな。バリエーションとしては 立ちを基本に後やぐら、碁盤攻め、グルッと回して手懸け、立ちかなえ、といったところか な。」
「4回変えて、・・・・・27回、だよな、お前はいいけど、その間五代はイッたのかよ」
「いや・・・・・、はっきりとはイかせてない、ような気がする・・・」
「はっきりって・・・」
「今回は俺も結構辛かったんだぞ? 同じペースで突く訳だからな。締め具合は何時になく良 いし、五代は勝手にイこうとするし」
「五代の奴、生殺し状態じゃねえか」
「いや、一回は飲んでる」
ブ―――――――――ッッ!!!!! ・・・・どこぞで茶を吹く音が聞こえたが本人達は気にし ない。
「それにしても良かったなあ・・・」
視線が中に浮く一条。完全に心が飛んでいる。
「あんなふうに強請られたのは初めてでな。振り切って家まで連れ帰るのは大変だった」
ニヤリ・・・・と笑う貌ははっきりいって正義を守る警察官には見えはしない。
「五代が強請る、ね。へえぇ」
「もう、とてもここでは云えない様な言葉を言うは強請るは腰振るわで」
「お前が言わせて、煽って、焦らしまくったんだろ、可哀相に」
「うるさい。・・・・しかし、あんなになるもんなんだな・・・・」
完全に理性がとんだ五代は、一条の言うがままに、普段では絶対言わない言葉を口走って強請 り、痴態の限りを尽くしてみせた。そんな五代をみて一条がブチ切れたのは当然のことで。二 人は新年そうそう物凄い濃密な甘い時間を過ごしたのだった。
「・・・・で、そろそろ本題にはいるんだが」
と、いままでウットリしていた一条が真剣な顔に戻る。
「ほいほい」
「二人で記念写真を撮ったんだ」
「記念写真?」
一条が懐からナニやら分厚い封筒を取り出した。椿が目を細める。
「・・・・何の?」
「新年の」
「・・・・何処で?」
「部屋で」
「・・・ふ〜ん、それがお前の持ち玉ね、内容は?」
「四十八手フルコース」
一条が封筒から写真を一枚抜き出し椿の目の前にかざして見せた。
「・・・うっ・・・」
不意打ちを食らった椿が一寸前かがみになる。
「・・・・・・・・・さすが一条、いいアングルだ」
「当然だ」
写真を封筒に戻しテーブルに置く。
「で、これと引きかえってのは?」
「・・・・・・・・」
しばらく一条の顔を見ていた椿がニヤリとした。
「お前がそう来るなら、俺はこうくると♪」
漸く体を起こした椿がポケットから小さな小瓶を取り出した。中に真赤な錠剤が一粒だけ入っ ている。
「・・・なんだ? これ」
「いやあ、偶然の産物なんだけどよ。榎田さんと共同で五代の体研究してるだろ? 五代の人 並み外れた回復力っての構造を調べたくってさあ、血液つかって色々研究してたらな、偶々で きちゃって」
「で?」
「んー、何て言えば良いかな・・・・・。瞬間発情剤・・・かな、あえて名前を付けるなら」
「・・・・・・・・お前達、一体なにやってんだ」
「いらねえの?」
「いる」
間髪おかずに一条から返事が返って椿が得意げになる。
椿がマッドサイエンティストといわれる所以はこんな所にある。純粋な探求心の前には全てが 研究材料になってしまっているのだろう。そして、その効果を試したいに違いない。
「だろ? すっげえ効果あんだぜ、これ」
「試したのか?」
「マウスはな」
「・・・・・」
やっぱり。
「人体に害は無いのか?」
「言ったろ、五代の血液から作ったって。お前、五代の飲んでんだろ?」
「・・・・ああ、そういえばそうだ」
「それに飲むのは五代。お前が飲んだら五代が壊れちまう」
それは一条も望むところだった。
「・・・・判った」
一条が手を伸ばし、取ろうとして、止められる。
「さらにもう一つ条件がある」
「なんだ」
「臨床データとらして欲しいんだよなあ」
「データー?」
「おう、人体に及ぼす効果を知りたいんだ。なんせ、初めてだからな。俺も榎田さんもデータ ーが欲しい」
「・・・榎田さんも?」
「そう、だって、半分は彼女が作ったんだぜ、これ」
どうする、と椿が目で尋ねる。
(・・・欲しい。凄く欲しい)
ふと大晦日の晩の記憶が蘇る。あの、人に見られてしまうかもしれない状況に酔っていた五代 のあられもない乱れ様。声を懸命に殺しながらも一条にむしゃぶりついてきて。・・・・一条の心 は決まっていた。すっかり榎田さんのことは頭から飛んでいるらしい。
「わかった。で、どうすればいい?」
「よっしゃ、これ超高性能小型集音マイクな。で、これが超小型高性能光ファイバーカメラ。 で、これは・・・」
妙に楽しげな二人。
「場所はお前の部屋。出来ればベランダがいいな。時間は昼間」
「OK」
「じゃ、準備ができたら連絡する」
それぞれ、封筒と小瓶および一式を交換する。
「おっと、そろそろ時間だ、俺は行くぜ」
「ああ、俺も行く」
「じゃ、今回は俺がもつぜ」
椿がレシートをとる。
「その代わり、頼むぜ」
「ああ、判ってる」
二人は爽やかに挨拶を交わして出て行った。――――― いくつも爆弾を落として。

やはり、この展開なのか・・・・・・。と、心で泣く周囲の客達。
あんた達、頼むから2度と来ないで・・・・・・と祈ったとか。


だが、彼らは知らない。ここが度々彼らの密談に使われるようになることを。

                         ご愁傷さま。






『ひかるさん、アノ本持ってない?』
ある日、樹さんからかかってきた電話。
ちなみに『アノ本』とは、
数年前にこっそりと樹さんと若林君の三人で出した
『48』というタイトルのイラストコピー本だったりする
(樹さんと若林くんのイラストにひかるが解説を書かされた)。
あいにく引越しのどさくさで行方不明となっていたので、そう告げたら
『えぇ〜! 今打ってる話で使いたいのに〜』とのこと。
なのでインターネットで調べたら、と言ったら本当に調べて、
しかも載っていたらしい。う〜む……(ひかる)


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