ラブ アタック

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「は?」
「だから、お前とセックスをしたいと言ったんだ」
相談が有るからと言われて五代雄介は一条薫のマンションまでやってきた。常日頃お世話に なっている一条に、何か自分で役に立つことがあれば何かしたいと何時も思っていたから喜ん だ。何時も冒険に明け暮れて雄介には同世代の友達と呼べる人間が少なかったから、こんなご 時世に非常識だとは思っていたけど自分達は友達だと思っていた。
重大な秘密を共有している友達。
友達だと雄介は思っていたんだが・・・・・・・・・。


「すまん、自分から呼び出して待たせるとは・・・・」
「気にしないでくださいよぉ、そんなに待たなかったし。一条さんの方こそ仕事大丈夫なんで すか?」
もどかしげに内ポケットから玄関のカギを取り出し一条はドアを開いた。
「ああ、一寸今日中に提出しなきゃいけない書類があってね、椿のところに行ってたんだ」
もっと早く帰れるはずだったんだが・・・・と雄介は部屋に招かれた。初めて入る一条の部屋だ が、あまりにもポレポレにある自分の私室と違って驚いた。全然生活の匂いがしていなくて。
「一条さんて、部屋が綺麗ですね」
「男の一人暮らしだし、寝に帰るくらいだからな。私物も少ないし・・・」
そういう問題ではないような気もするが・・・
「ま、一条さんだったら部屋を掃除してくれる人ぐらいいそうですもんね」
「いない!!」
「・・・・。別に、そんなに力説しなくっても・・・」
軽い気持ちで言った言葉に、間髪おかず返って来た力強い否定に思わず呆気にとられる。
「・・・・いや、スマン。あまりにも最近彼女ができたとか、どうとか言われるのでな・・・」
気まずそうに一条は上着を脱ぐとハンガーにかける。ネクタイを緩めるとキッチンにたった。
「そうなんですか?でも一条さん、格好良いですもん。皆気にしてるんですよ」
「ま、いいから、そこら辺に座ってくれ。今紅茶でもいれるから」
雄介の言葉に照れているのか、恥ずかしいのだろう、目元をうっすらと赤くしている一条は 本当に綺麗だと雄介は思う。伏せた瞼から生えているまつげは驚く程長く頬にかげを落として いる。切れ長の眼も、薄くバランスの取れた形良い唇も、通った鼻梁も、サラサラの髪も、全 てが整っているのに女性的ではなく、あくまでも男性的な優美さを備えている人。
警察署内に一条薫ファンクラブなるものができているのも頷けるという物だ。一条の手元を覗 き込んでへぇ・・・と感嘆の声を上げる。
「一条さん、紅茶党なんですか?」
慣れた手つきで作業を進めていく姿は一条の新たな一面を見るようで目が離せない。
「俺の入れる紅茶はそこらのとは一寸ちがうぞ、おまえがコーヒーを得意にしてるのと同じで な」
「へえ、意外ですね」
「俺はどっちかというとコーヒーは苦手だったんだが、五代の入れるコーヒーは特別だな。い つも入れてもらっているからたまには礼をしないと」
さ、座っててくれ、と促され雄介は再びガラスのテーブルの前に腰を落ち着けた。
「へへ、じゃ、期待しちゃいますよ」
目の前に差し出された暖かい紅茶に口をつける。
「・・・・・・美味しい・・・」
本当に美味しい。態度に出ていたのが伝わったのか一条が嬉しそうにわらった。
「そうか?」
それから珍しく未確認には触れずに他愛の無い話をして盛り上がった。一条の学生の頃の話。 雄介の冒険の話。本当に平和な一時を過ごして、雄介は今日一条の部屋を訪れた目的について きりだした。
「で、俺に相談したいことってなんです?」
「うッ・・・」
「俺で役に立つことならなんでもしますよ。どんどん言ってください」
「・・・」
「一条さん?」
今まで珍しくお喋りだった一条がとたんに黙りこくってしまった。とりあえず、雄介は待って みる。
「・・・・・実は・・・・」
「はい」
「その・・・・だな・・・・・。」
沈黙。
「・・・・う、五代は・・・・」
再び沈黙。そんなに言いづらい事なんだろうか。雄介は辛抱強く待ってみた。やがて一条は 覚悟が決まったのか漸く話し出した。
「実は、好きな奴ができたんだが、相手は男なんだ。」
「は・あ?」
「お前だったら、どうだ。男に想われたらどうする?」
真剣な眼差し。きっと、凄く悩んだんだろう。すがるような瞳が彼がそれだけ真剣だという事 を表している。そして、打ち明ける相手に親友の椿ではなく、会って間もない自分を選んでく れたのが嬉しかった。ぜひとも役に立ちたかった。
「人を好きになるのに男も女も関係ないですよ。」
「五代・・・」
「それだけ真剣に好きなら、相手にもきっと伝わります。相手が受け入れるかどうかは判りま せんよ?でも、もしおれがそんな風に告白されたら真剣に考えますし、誰だかよくわからない けど一条さんの好きな人もきっとそうだと思います」
大丈夫!!とサムズアップをしてみせる。それをみて一条の眉間に寄った皺が如々に解け始 め、ゆっくりと満面の微笑へと変わっていく。一条の珍しい満面の微笑。そんな笑顔をさせら れたのが嬉しくって雄介さらに言葉を続けた。
「俺に出来ることがあったら何でも協力しますから!! 何でも言ってくださいね!!」
「そうか」
「はい!」
「では、協力してくれ」
「はい」
「好きだ五代」
「は!・・・・?」
「俺のモノになってくれ」
「お・れの?」
「こんなのは普通じゃないってずっと悩んでいたんだが、おまえ自身がそう思っているなら遠 慮することもないだろう」
「あ、あの、えっと、ちょっと待ってください」
とつぜんの告白に困惑している雄介を放って一条の告白は進む。
「ほかの誰にもこんな感情を持ったことはなかった。お前の一挙一動が気になって」
「一条さん」
「そのうち、沢渡さんや、椿にまで嫉妬するようになって・・・・・、馬鹿だな俺も」
「ちょっと、ひとりで進めないでくださいってば」
「終には夢にまで出てきた。・・・・それで自分の気持ちがハッキリしたんだ」
「・・・・・夢?ですか・・・」
厭な胸騒ぎが雄介を襲う。聞いちゃダメだ!!と、頭の何処かで叫ぶ声がしたが聞かずにはい られない自分が勝ってしまった。
「お前を抱く夢」
「は?」
「だから、お前とセックスをしたいんだ」
「ええええええええええええ!!!!!!!!!」
そして、冒頭にもどる――――――――――――――。


「ちょっと、待ってください!」
「なぜ、逃げる」
「逃げてません。一条さんが立ったから俺も立ったんです」
「立つ必要は無い、座ってろ。俺はお前の隣に座りたいだけだ」
「セックスしたい、なんて言われたすぐ後で隣に座るだけなんて信じれますか」
「チッ・・・」
「チッ、じゃ有りません」
すでに二人ともファイティング・ポーズに入っている。一条がその丹精な見かけによらず内面 が実はバイオレンスで好戦的な男だということを雄介は知っている。実は格闘技マニアでK−1グラ ンプリなどビデオに撮ってまで見ている一条は実践にも長けていて、ほんの僅かでも油断すれ ばあっという間に取り押さえられてしまう。
「真剣に考えるって言ったじゃないか」
ジリジリと間を詰めてくる一条に対し、ズリズリと後退し距離をとる雄介。
「考える時間ぐらいくださいってば」
「やってるだろ」
「こんな緊迫してて考えられますか!なんか、身の危険を感じるんですけど」
スッ・・・と足でテーブルを退かし、一条が構えた。
「お前は俺が嫌いか?」
「・・・・嫌いじゃ、ないですけど、そんな風に一条さんを見たこと有りません」
「じゃ、見てくれ」
「見れません。あんた、俺に突っ込むつもりでしょ!?」
「そうだ」
「じゃ、あきらめてください。友達でいましょ?」
「あ、それは無理、もう決めたんだ。お前を俺のモンにするって」
「あっさり言わんでください」
「協力するって言ったじゃないか」
「協力の意味がちがいます」
話ながらも一条の攻撃を雄介は紙一重でかわしていく。
「さすが、クウガ。俺の攻撃をかわすとは」
「俺の貞操がかかってますから」
「俺は上手いぞ?」
「だから、そういう問題じゃ・・・・?!」
足元がふらついて雄介は思わず膝を突いた。足元から身体の力が抜けていく感覚に眩暈がす る。
「漸く効いたか」
「漸くって、・・・・!! 紅茶に何かいれましたね?!」
「椿にもらった」
あっさり頷く一条のバックに協力者の影を見る。
「犯罪ですよ!! これって!一条さん、刑事でしょ!!?」
「刑事の前に一人の男なんだ。雄介、怒っているだろう。俺を軽蔑してもいい」
絨毯の上に伏せてしまった雄介の側に膝を着く。雄介を覗き込む一条の顔が泣きそうに歪ん だ。
「こんな時に不謹慎だと判っている。だが、俺達は、いつお互いに何かあるか判らないから後 で後悔するようなことだけはしたくないんだ。・・・・・お前が好きなんだ」
「・・・・」
「お前を失うかも、っていつも思う。怖いんだ。お前が生きてココにいるって、確かめたい。 どんな卑怯な手を使っても誰にも渡したくない・・・」
一条の瞳が潤み美しい水滴が頬を伝う。雄介はじっと一条を見つめ―――――――――――― ――ため息をついた。
「泣きまねしたってダメです」
「・・・・ばれた?」
「ほんとに勘弁してください。一条さんのことは好きですけど、男とセックスするつもりはあ りません」
「したことあるのか?」
「ありません!!第一、突っ込まれるなんてそんなのヤです!!」
「なんで」
「すっご―――――――く、痛いってきいてます」
「痛くなきゃいいんだな」
「うっ!!」
言葉尻をとられて雄介は一瞬だまる。その隙をついて一条に抱き上げられてしまった。
「じゃ、ためしてみよう」
自分とほぼ同じ身長の男を抱き上げてふらつきもせず、楽しげに一条は寝室へ向かう。
「ちょ、ちょっと、待ってくだ・・・・・・!!」
「大丈夫。必ず、気持ちよくするから」
なに、馬鹿な事言ってるんだか、と暴れてみても妙に力の入らないこの体ではろくな抵抗に成 らない。
このままじゃ犯られちゃう・・・!!と雄介が最後の抵抗を試す。できればこんなテは使いたく なかったけど・・・・
「ちなみに変身はいまできないぞ」
「は?」
「さっき飲んだ薬の中に、伝達物質を遮る薬も入ってるんだ」
「ええええ――――――――――――!!?」
「と、言うことで」
ボンっと、ベットに放り出される。
「いただきます」
「いやあああああああ――――――――――――!!!」
 合掌。

翌日、目の周りに青タン作りながらも足取り軽く幸せそうな一条が登庁してきた時、理由を尋 ねた杉田に
「恋人とちょっと喧嘩しちゃって」
と満面の笑みで答えたとか。・・・・・・どうやら、上手くいったようである。



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