BOY FRIEND U その1





結婚式は海の上がいい!!


そんな夢を笑わずに聞いてくれた優しい兄。
「白いヨットに乗って、白いドレスを着て、お兄ちゃんの花嫁さんになる!!」
そんな馬鹿げた夢を真剣な顔して聞いてくれて。
「じゃあ、いつかお兄ちゃんが大きくなったら、白いヨットで迎えにいくよ」
そういってくれた大好きな兄は。
父と出かけた先の国の戦争に巻き込まれて、行方不明になってしまった。

母と自分の下に戻ってきたのは、カメラを握り締めた父の腕だけで。
父と判ったのは。
母と交換した指輪が決め手だった。

誰もが、もう駄目だ、とほのめかす父の葬式で、気丈にも耐える母の側で叫んだっけ。
「おにいちゃんは死んでないもん!! 白いヨットに乗って、お迎えにくるんだから!! みのりのこと、お嫁さんにしてくれるって、 言ったんだから!!」
―――――― 今、思えば恥かしくって顔から火を吹いてしまいそうだけど。
「そうだ!! 雄介はあいつの子だからな!! 必ず、みのりっちを迎えにくる!!」
そういって、子供のたわごとを笑いもせずに、真剣に頷いてくれたのおやっさんがいてくれたから。
みのりは信じて待っていられたのかもしれない。


そして、本当に兄が戻ってきたのは。
3年後。
兄が16になった時だった。



ふと、目を開ければ天井がみえる。
「―――――― 懐かしい、夢みちゃったな・・・・」
みのりが布団の中で呟いた。
時計が鳴る前に目が覚めてしまったみのりがゴソゴソと動く。
窓の外に視線を流せば、まだ5時前だというのに空がうっすらと明るくなっている。
「・・・朝が早いなぁ・・・」
夏が近いのだろう。
スッカリ目が覚めてしまたったみのりが、よいしょっ・・・と身体を起こした。
―――― あの頃は、本当にお兄ちゃんのお嫁さんになれるって信じていたっけな・・・・。
ふと、みのりの口元が笑みを形どる。
「白いヨットねぇ・・・・」
青い海に浮かぶ白いヨット。
一度考えたら頭から離れなくなってしまった。
「ヨットは無理だけど・・・海ぐらいなら・・・・」
口元に手を当てて考え込む。
――――――― どうしよう・・・・行きたく、なっちゃった・・・・・。
「そうだよね・・・海ぐらい・・・・いっか」
みのりの楽しげな呟きが落ちた。



「海?」
ポレポレのカウンターの中でおニューなカレーの試作に励みながら雄介が問い返した。
「そう!」
みのりがカウンターに身を乗り出さんばかりにして話す。
「あのね、夏休みがとれたの。だから、お兄ちゃんと海行きたい!!」
雄介を見上げる瞳がキラキラと輝いている。
「海・・・ねえ」
視線を合わせてしまえば自分の不利になってしまうのが判っているので、微妙に視線をそらせつつ呟く。
いつもなら、ここで駄洒落を言って絡んでくるおやっさんもいない。
―――――・・・・どうするか・・・・・・。
このままだときっと流されてしまう。
サボりがちだった、ポレポレの従業員としては今までの埋め併せをすべく、できるだけ毎日店に出るようにしている。
いつ又冒険にでるか判らない雄介としては、出来るときにはなるべく店を手伝うつもりでいたから。
(もちろん、おやっさんは反対はしないだろうけど)
しかし、
「俺、水着もってないしなー」
「それぐらい、みのりが買ってあげる! お兄ちゃんより、稼ぎがあるもん!」
「・・・・・・・・いーよ、別に」
あまり乗り気でない雄介の様子にみのりが口を尖らせる。
「・・・・・・・・・・身体に自信がないんでしょ」
「うっ」
するどい指摘に雄介の身体が一瞬強張る。
「大丈夫だよ!! お兄ちゃん、結構肩幅あるしその分腰が細いのが強調されちゃってるかもしれないけど、正面から見るぶ んには大丈夫!!」
「・・・・それ、ほめてんの、けなしてんの、どっち・・・・・・」
「誰もお兄ちゃんの身体なんて見ないよ!!」
(極一部は違うかもしれないけど・・・)
などと、心の中では違う事を考えつつけっこうサラリとひどいことを言ってみたり。
「ねっねっねっ?!」
手を合わせて目をキラキラ輝かせて。
そんなみのりの様子に、もう雄介は押され気味だ。
「けどなぁ・・・・・」
それでも渋る雄介にみのりが決めの一手をだした。
「―――――――― 昔、約束したじゃない」
「うっ!!」
「おにいちゃんが大きくなったら、白いヨットに乗せてくれるっていったじゃない」
「そ、それは・・・・・」
つい、目を合わせてしまって。
「―――― ただ、海に行きたいって、言ってるだけなのに・・・・」
みのりの大きな目の、下睫毛が涙を含んでキラキラと光っている。

例えばそれが嘘泣きだと判っていても。

「―――――――― 俺、白いヨットは、持ってないよ」
大きな溜息とともに吐かれた雄介の言葉にみのりの顔が笑顔に変わっていく。
「うん!! 海にいければいいの!!」
「もう・・・仕方ないな・・・・・今回だけだぞ」
それでも、やっぱりみのりが可愛くて仕方なくって。
「お兄ちゃん大好き!!」
「はいはい、わかったから」
カウンターを回って抱きついてくるみのりの頭をぽんぽんとなでて。
仕方ないなぁ・・・と苦笑しつつ、それでもそんなみのりを可愛いなぁ、なんて思ってしまう兄馬鹿の雄介だった。
「じゃ、詳しく決まったら又、連絡するね」
と。雄介に手をふってポレポレを出かけたみのりが又戻って来て
「ね、今回は、桜子さんにも、奈々ちゃんにも、内緒ね」
しぃー、っと口元に人差し指をあてて小さな声を話すみのりに笑いかける。
「わかったよ」
雄介の言葉にわらって、みのりがポレポレを後にした。
「やったvvvvv お兄ちゃんと、海vvvvv」
正しくスキップする勢いで歩いていてたみのりの足が止まる。
「まずは、海に行く約束を取らなきゃなんにもならないもんね」
ヨットはそれから・・・・と頷く。
「そうだ、水着、新調しちゃおう!!」
思い立ったら、そく・・・とみのりが方向転換してウインドウショッピングを楽しんでいたのはそれから一時間後の事だった。



「あれ、みのりさん?」
不意に名前を呼ばれて後ろを向いた。
「椿さん!」
丁度信号待ちをしていたのか、車の運転席から椿が顔を覗かせた。
「買い物?」
「ええ、実は・・・・」
そこまで言いかけて、助手席に座る女性に気付く。
「あ、デートの最中じゃないですか」
ペコリと下げてみのりはお邪魔しちゃいけないから・・・と殊勝に引いてみせれば。
「あ、すぐ其処まで送っていくだけなんですよ、すぐ戻りますから待っててください」
などとみのりの予想通りの反応を返してくれた。
「でも・・・・」
と、申し訳ないから・・・というような顔をしてみせれば、気にしないで下さい、と椿が笑う。
「ここに、いてくださいね。すぐ、戻りますから」
軽く頭を下げて椿が車を発進させる、
小さくなる車を見送ってみのりは考える。
このさい、助手席の女性が不満気な顔をしていることなんて気にしないでおく。
「さて・・・どうしよう」
あくまでもさり気なく、自分から強請ることなく気付かせるには。
「う〜ん、椿さんの方が経験豊富だし・・・・私なんかじゃぁな・・お兄ちゃんいれば一発なのに」
なんてたって、天然だし。
「やっぱ、白いヨットって言ったら・・・・・・椿さんよね」
と、結構、最愛の兄にたいして酷いことを呟きつつ水着を物色して・・・5分もたったろうか。
「みのりさん」
椿がもどってきて、みのりに声をかけた。



「じゃあ、新しい水着買いに来たんだ」
「はい、すみませんでした。なんか、あんなに付き合ってもらっちゃって・・・」
オープン・カフェで椿とみのりがくつろいでいた。
あれから、気に入った水着を見つけるまで何件もお店を回り、そんなみのりに椿は不満な顔一つせずに付き合ってくれ て。
「椿さんて、本当にやさしいんですね。お兄ちゃんとは大違い」
最後の小さなみのりの呟きに椿が反応を示した。
「お兄ちゃん・・・て五代、ですか?」
「はい、おにいちゃんとかって付き合ってくれないんですもん」
みのりの様子に椿が苦笑する。
「仕方ないでしょう。男ってそういうもんですよ」
「そうなんですか?」
不満気なみのりに頷いてみせる。
「・・・・・・・でも、まいいや、約束は覚えていてくれたし・・・・・・vvvvv」
「約束って・・・・?」
小さな呟きを聞き逃さず椿が眉を上げて聞き返した。
(―――――― かかった)
みのりが心の中でガッツポーズをつくる。
「あ、こっちの話です」
「なんですか? 教えてくださいよ」
椿がおもしろそうな顔をしてみのりを覗きこめば恥ずかしそうに口を尖らせる。
そんな様子が微笑ましくって。
「子供の頃の夢の話です」
と、ちょっと頬を赤くするみのりの話の先を笑顔で促す。
「じゃあ、ぜひとも」
「駄目です。笑うから」
「笑いませんて」
「・・・・本当、ですか?」
「誓います」
と、手を上げて真面目な顔をしてみせる。
しばし躊躇って、本当に笑わないで下さいね!! とみのりは念を押して話し出した。



「白いヨット・・・ね」
一通りの話を聞いて、椿が呟いた。
「あー、笑ってる!!」
「笑ってないですよ! 可愛いなって思って」
ブーッと口を尖らせるみのりを見て椿が目を細める。
「ま、でも、白いヨットなんかなくってもいいんです」
「そうなんですか?」
「はい! お兄ちゃんと海に行くって、ほんとに久しぶりだから」
「そうですか・・・・・」
口元に手を当ててなにやら考え込んでいる椿の様子をそっと見やる。
(よしっ・・・・!!)
「・・・何時頃、行くんですか?」
「え?」
「いや、何時行くのかなって・・・・」
椿のセリフにみのりの口が、あ・・・と言う形をつくる。
「あのですね、今回、桜子さんは行かないんですよ」
「は?」
「おにいちゃんと私だけなんで、桜子さんは行かないんです」
ふふふっ・・と笑う。
「だから、椿さんが期待しても無理ですよ」
「ち、違います!!」
みのりのセリフを慌てて否定する。
「沢渡さんは関係ないです・・・・って、じゃ、今回は2人だけで?」
「はい!」
「・・・・・・じゃあ、いいんですか? 俺に言ってしまっても」
「はい。だって椿さん、男の人だもん」
「・・・・・・・」
その言葉に黙ってしまった椿を置いてみのりが立ち上がった。
「あ、じゃあ、そろそろ行きますね」
「あ・・・送りますよ」
慌てて立ち上がった椿を笑顔で制してみのりが自分の分の金額を置いて頭を下げる。
「大丈夫ですから! ・・・・あ、お兄ちゃんには秘密にしてくださいね」
と兄によく似た笑顔を向けて、みのりが笑う。
「じゃ、失礼しますvvvvvv」
と、背中を向けて颯爽と去っていくみのりの姿を見送って、椿はもう一度腰を降ろした。
「・・・・・それにしても、いい骨格だ・・・・」
暫くして。ポツリと呟く。
本当に兄弟揃って興味をそそってやまない体つきをしている。
「・・・・・・・なんて、考えてる場合じゃないだろ」
と。
今は、もっと考えなければならないことがある。
(さて、と・・・・・・)
今までの会話を思い出す。
「多分、誘われてるんだよな、アレは」
でなければ、海の話題などしないだろう。
「しかしなぁ〜・・・五代と違って、天然なんだかそうでないんだか、今一つかめないとこがあるよなぁ・・・・」
だてに、クウガな兄を持って平然とできる人生経験を積んだ女性だけある。
椿にして、今一掴めないところがあるのだ。
しかし。
「白い、ヨット、か・・・やっぱり」
それがキーポイントだろう。

しばし考えて。
椿は携帯を取り出した。
「あ、俺。そう、いや今日暇か? ・・・・ああ、五代のことでちょっとな」
しばらく何事か話して椿は電話を切った。
「やっぱり、夏は海だもんな、楽しくなくっちゃね」
ふっふっふ、と笑って、椿は店をでる。
「さっ、準備しなくっちゃvvvvvvv」






さて、ボーイフレンド・2です。
今回、夏ということで海だよ〜ん。
次回、彼らが登場。

BY・樹 志乃

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