木星奪還部隊ガイアフォース 番外編

全方位光学偽装


 135年の木星動乱の際、ジュピトリウスの技術部が連邦に先んじて開発したステルス装置。全方位光学偽装ADOC(in All Directions Optical Camouflage)は一般的な光学迷彩と異なり、波長による屈折差が無いため、レーダーその他電磁波感知器のすべてを無力化する究極のステルス性を備える。また像映式迷彩にはない対位相電磁波兵器防御能力がその最大の特徴である。推進機関としてのTDU開発に遅れをとっていたジュピトリウスは、連邦に追随するを潔しとせず、むしろこうした独自の技術に突出する傾向があった。

 原理的にはTDUの傍系技術であり、通常空間とタキオンフィールドとの光速度の違いによる屈折(正確には全反射シフト)を利用する。境界面による位相差は、全面変換型タキオンチェンバーにより144方位でフィールド指向性を分割制御することで相殺する。ただし艦艇全体を電磁気的に無色にすると同時に、迷彩偽装中は中から外の電磁波情報は、可視域を含め一切得られないことになる。これについては有線ポッドなどを域外にのばして感知したり、通信を行う。

 後に連邦では偽装艦艇を発見する手段として、モジュレーションコリメーターを開発した。これは時間変動するタキオンフィールドのゆらぎを計測する装置で、偽装中の艦艇が移動する際のドップラーシフトを捉える。よって艦艇同士の相対速度が大きければ大きいほど感度は向上することになる。実際にはモジュレーションコリメーターを搭載した高速プローブを射出して、走査する。だが、現場での成果は芳しいものではなかった。敵艦が高速移動中でもない限り、実質発見は不可能だったようである。

 この全方位偽装装置がその性能に比してそれほど活躍できなかった背景には、ジュピトリウス側の財政理由があった。すなわちコストがかかり過ぎたのである。結局この装置を搭載したジュピトリウスの艦艇はメルメソッド以下、数隻に留まっている。またそのもう一つの理由は、この技術が連邦に漏れれば返って連邦を利するとの上層部の判断である。後に、この技術の最大の秘密は「実現可能であるということ」であった、と言われるのはこのためである。事実、この翌年には連邦軍において同様のタキオンフィールドを利用した光学迷彩の研究がスタートしている。

(「軍事技術に見る宇宙科学史」より抜粋)


トップに戻る