05.06.06(MON) 巻機山 上越国境


 妻と二人で巻機山に出かけた。巻機山は標高差もあるし時間も掛かりそうなので、日の長い今頃がいいだろうと思ったし、手強い山は加齢と共にチャンスは減るので、まだ少しは歩ける今のうちにと言うつもりだったが、結果的には既に手遅れ?で、避難小屋から御機屋への残雪の登りで私の太ももがつってしまい、登頂をあきらめて撤退せざるを得なかった。


コース:桜坂駐車場6:55→五合目8:05→6合目展望台9:20→七合目10:15→ニセ巻機山頂11:30→御機屋の登り11:55-13:00→ニセ巻機山頂13:25→七合目14:10→6合目展望台14:45→四合目16:05→桜坂駐車場16:35 (所要時間9時間40分)

 清水の集落から桜坂駐車場までは、道は細いがしっかりした舗装路で、案内も分かりやすい。

駐車場:桜坂駐車場4〜50台は入りそう。(有料一日500円)。トイレはない。


割引岳と御機屋
 写真の御機屋への登り途中に、横向きの櫛の歯状の残雪が見えるが、その上のなだらかな雪面が限界だった。


 駐車場には既に6〜7台の車があり、ちょうど登山道に入って行く若いカップルがいた。山頂付近はガスっていて見えなかったが青空が見えていて好天は間違いなさそうだ。ゆっくり仕度して、駐車場の周りに咲いているピンクのタニウツギに送られて、登山口の広い林道を歩き始める。


 すぐにヌクビ沢・天狗尾根コースと分かれ、又林道とも分かれて荒れた赤土の、滑りやすそうな井戸尾根コースを登る。新緑の道にタムシバやオオカメノキの花があるが既に散り始めている。ブナの若い木が目立つようになると4合目である。4合目を過ぎるとぶなの木の間から昨年登った大源太山の鋭鋒が、谷川岳より高く空に突き刺さっているのが見えるようになる。5合目になると大源太山と共に谷川連峰も見え始め、眼下に米小沢も一望できる。
倒木の新芽と花


大源太山と谷川連峰 米小沢

 5合目から6合目は残雪の広い森(沢)を登る。この道が意外と分かりにくい。今日も少なくとも10人前後の人が歩いているはずだが、踏跡を辿るのは容易ではない。少なくとも雪面に人に踏まれた溝が出来ていて自動的に案内されると言うような状態ではない。初めて歩く者にとっては注意深く踏跡を捜し、たまに現れる赤い布れ端が道案内である。かなり雪面を歩きそうなので軽アイゼンをつけたが、腐りかけた雪に爪の短い軽アイゼンはあまり効果がなかった。


 沢を登り切ると残雪の尾根に出る。道は右だが左に気分の良さそうな丸く長い残雪の尾根があり、谷川連峰の展望に惹かれて突端まで行ってみる。振り返るとヌクビ沢から立ち上る天狗岩がなかなかの迫力である。タムシバ、シャクナゲ、ショウジョウバカマが咲いている。
 道に戻ってしばらくは似たような残雪の尾根を登る。すぐヌクビ沢に面した崖の上の6合目展望台に着く。正面の天狗岩から割引山、ヌクビ沢は心が躍るような展望である。すぐ近くにシャクナゲやイワウチワも咲いている。
残雪の尾根(6合目の手前)


天狗岩・ヌクビ沢・割引岳 6合目のイワウチワ


 残雪と雪解け水でぐちゃぐちゃの道を登る。ブユにわんわと取り付かれる。風が無いから離れない。本当にわずらわしい。やがて7号目に付く。ここも展望がいい。視点が上がって流石の大源太山も谷川連峰の山肌に溶け込んで小さく目立たない。苗場山も残雪に輝いている。雪渓の側でゆっくり休憩する。タムシバやシャクナゲが本当に多く楽しめる。見上げるニセ巻機山頂近くはシャクナゲの群落でピンクに染まっているところもある。
 
6合目のシャクナゲ


 ここで埼玉から来たと言う似た年代のご夫婦に追い越された。我々は登山口7時前だが、お二人は7時40分だと言う。なんて早いんだろうね。しかしこの時は、妻にばてられては困るので、ことさらゆっくり登ってきたんだから、まあしょうがない。時間はたっぷりあると思っていた。山頂のほうからは今朝4時から登ったと言う、中年女性主体の4〜5人のグループも下りてきた。上のほうはシャクナゲが一杯咲いてますよ、と嬉しそう。


7合目のシャクナゲ タムシバ


 先発した埼玉のご夫婦の跡を追ってニセ巻機を登る。かなりの急登で上に見えているシャクナゲの群落がなかなか近付かない。妻が快調でよく頑張るなと思ったのは、既に私がばてていたのかもしれない。やがて何時しかシャクナゲの群落も越え、古い木の階段と無数の木材で土留めをした斜面を登り切ると9合目、ニセ巻機山頂である。
 絶景は登りながらでも十分堪能したが、ここからの絶景は又格別である。登り着くまで隠されていた、大きくたおやかな巻機山の稜線が目の前に広がっている。そのやや単調な稜線の左端の割引岳が実にいいアクセントになっている。朝日岳に続く残雪の柄沢山の稜線、左に燧、至仏など尾瀬の山々、武尊山、右に谷川連峰、苗場山等、残雪に彩られた山々の展望は、山に登れる喜びを実感する一時である。
ニセ巻機山頂直下


ニセ巻機山山頂

巻機山


 この時まだ向かいの巻機山の上に行けないなんで考えてもいなかった。疲れてはいるがそれは当たり前である。もう厳しい登りは終わっており、遅くとも1時間後にはあの山頂にいると信じていた。残雪のゆるい斜面を下ると避難小屋である。最近改築されたという小屋は入口まで掘り出されていたが、そこへ下りるのには2mほどの雪の垂直の壁が有り大変そうなので覗いて見ることは出来なかった。


 避難小屋への下りの残雪の上では、既に巻機山から下ってきた何人かの人たちに出会った。”イヤーいい天気で最高ですね”が挨拶代わり、みんな充実感にあふれた顔をしている。”又会いましたね”と親しく声を掛けてくれて、しばらく立ち話をしてくれた方もいる。朝、駐車場で一足先に出発して行った若いお二人の男性のほうである。”昨日は雨が降って大変だったようですよ、今日は運が良かったですね。”と言った他愛も無い話が楽しい。すぐ後から女性もやってきた。如何にも健康そうな顔が輝いている。二人ともしっかりアイゼンをつけていた。
谷川連峰と避難小屋


 ゆるい雪面を登り、木道を歩いて又雪面を登る。少し勾配が増して来た頃、太ももに違和感を感じて何気なく屈んで両手で両方の太ももを揉んだ瞬間、両方の太ももが同時につってしまった。思わず、いてて・・・と雪面にへたり込んでしまった。幸い尻を付いて膝を曲げると痛みはすぐ消えた。少し休んで又歩き始めようとしたがすぐつってしまうので、平らな乾いた木道のところまで下り、ちょうど12時だったので昼食にした。少し休めば登れるだろうと思っていた。充分休んで今度はザックも置きっ放しにして雪面の登りに再挑戦したが、やはり同じような所でつってしまい万事休す。下山することにした。


 さて下るにしても避難小屋からニセ巻機までは登り返さなければならない。ちょっと心配だったが僅かな勾配の差なのだろうか、こちらは何とか登ることが出来た。山頂を飾るシャクナゲや、綿雲がわき始めた谷川連峰の展望に慰められて巻機山に別れを告げる。下り始めると駐車場辺りまで直接見下ろすことが出来る。遙か下に登る時余裕で遊んだ6合目の白い尾根が小さく見えた。
 7合目で休んでいたら、登る時追い越されたご夫婦に同じところで又追い越された。先に来た奥さんに”山は逃げませんよ、又チャンスはありますから”、と慰められた。そう山は逃げない。だが人はうつろう。後から来た旦那さんは”山頂からは越後三山が良く見えたよ”と言って、しばらく付き合ってくれた。
 
ニセ巻機への登り返し

柄沢山・朝日岳・清水峠・谷川連峰へ続く稜線


 7合目から6合目の下り道は、雪解け水が沢のように流れていた。登る時とは随分の違いである。それでブユが減ったかと言うと全然減らずにまとわり付いてくる。ここで今流行のカッコいいヒゲを生やした逞しい若者(男)と、下界に蔓延っているひ弱そうに見える若者(女)の5〜6人のグループに追い越された。逞しい方は”3本も飲んじゃったよ”と、嬉しそうにピールやジュースの空き缶を山ほど入れた、ビニール袋を手に下げている。ひ弱な方は男性に手を引かれて頼りなげに下りていく。地元のグループだそうだが、とても普段山歩きをやっている連中には見えない。しかし、ちゃんと山頂で宴会を開いてきたのである。彼らの若さが本当に羨ましかった。


 恥かきついでにもうひとつ失敗談:登りの筋肉と下りの筋肉は別らしく、ゆっくり下ったが幸い足に異常は出なかった。それは良かったが、6合目と5合目の間の残雪の森で道を失ってしまったのである。登りの時よりはずっとはっきりしている踏跡を、二人で注意しながら下ったにもかかわらず、分からなくなってしまった。右に左にトラバースしては踏み跡を見つけて下ったが、最後にはそれでも見つけることが出来なかった。踏跡はあきらめて地図を確認し、登りでは大源太山が見えていたことを思い出して、左にトラバースしながら道なき道を下ったら(藪が深くならなくて良かった)何とか登山道に合流できてほっとした。5合目の標識は確認しなかったので、これはパスしてしまったようである。
おおい、雲よ


 やっとのことで駐車場に戻ったら、軽トラックのおじさんがニコニコ顔で出迎えてくれた。駐車場のおじさんだそうで500円取られた。近くに温泉が無いか聞いたら普段は入れるところがあるが、今日は休みだと言う。仕方がないので自宅へ直行したが、おかげで明るいうちに帰宅出来た。巻機山山頂を踏めなかったのは残念だが、素晴らしい山歩きをして明るいうちに家に帰れれば大成功だろう。今年は色々なことで山に不義理している。看板にしている赤城山だって、今年はたった一回しか登っていない。山は正直で、この歳でそれでいい結果を出そうとしても無理な話しである。
 それにしても妻はなぐさめてくれたが、もし妻の足が原因であそこで登れないことになっていたら、私はしばらくの間、妻に冷たく当たったろう。私の足が原因でまあよかった。




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