シェル・スプーン
2001年秋 身近な釣友が作り、使い、結果を出していたこともあり、この工房でのオリジナルとしてここに紹介するに至りました。
素材
日本アワビ |
シェルスプーンの最も一般的な素材
すし屋やプロショップなどで入手できる
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アワビ |
外層を剥いで観賞用に売られていたもの
部分的に薄くなっているので要注意
使える部分が見て分かるので当たり外れは無い
素材屋さん、プロショップで入手できる |
白蝶貝
(真珠養殖用:日本産) |
直径20cmを超える大物もあるようです
硬く厚みが有る
プロショップでは端材も入手できる
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白真珠貝
(真珠養殖用:メキシコ産) |
外層を剥いで観賞用に売られていたもの
綺麗に研磨されているためこのまま形取りできる
素材屋さん、プロショップで入手できる
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マベ貝
(真珠養殖用:日本産) |
ショウさんからいただいたもの
非常に薄く、ルアーに使えるのは中央の白い部分
養殖産地より購入できるようです
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夜光貝 |
大形の巻貝・写真の貝は1.5kgあります
人気があり品薄になっている
内側の光が反射している部分がキビナゴ筋と
呼ばれる部分でこれをスプーンの中央に入れる
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下の4枚の写真はシェルスプーンを作り始めて3ヶ月以内の作品です。
私でもこの程度にできます。 腕に覚えの有る皆さんならもっと完成度の高いものが出来上がることと思います。
ぜひチャレンジしてみてください。
フックを付けた完成品
原貝の形状に合わせさまざまな形状を作ってみました
左から2番目のアワビはS字状の波をうっています
私好みの白蝶貝・貝光が軸状に入ります
裏真鍮貼りのアワビ
作り方
ここで紹介する方法がベストと言う訳ではなく、他のコーナーと同様ルアーメーキングの一手段としてご覧いただければ幸いです。
(ここではアワビを対象に説明します。他の素材は経験と応用で何とかなると思います)
用意するもの
素材:アワビ(できるだけ大きいもの)
アワビにも幾種がありますが、ここでは国内で一般的に食されている日本アワビとお考えください。
:トローリングフック・・・これも自作する。
:真鍮パイプ(φ3.0mm)
:真鍮板(厚さ0.8mm・薄いアワビの補強用)
:銅線(φ0.7mm)
工具:グラインダー
:電動ドリル(円錐砥石,切断用ディスク)
:ハンドドリル(φ1.5mm,φ3.0mm)
:金鋸
:サンドペーパー(240〜600〜1000番)
:油性ペン
:棒ヤスリ
:鋸歯起し用ヤスリ
:定規
:半田コテ
:コーティング材(セルロースセメント)
注意
※1:貝を削るときは、必ず屋外で作業し、貝紛を吸い込まないようにマスクなどで厳重に防御してください。また、衣服に付いた貝紛は屋外で落としてから入室しましょう。付近に民家が接近している場合は考慮に入れるべきと思います。
私は経験していませんが、諸先輩方が一様に「体に悪影響を及ぼす」と忠告しています。
※2:電動工具は省力化、作業効率を高めてくれますが、反面刃物を高回転させていますので素手では非常に危険です。可能な範囲で回転部から体を遠ざけ、手袋等の保護具を着けて作業することをお勧めします。
衣類の巻き込まれ、長髪にも注意しましょう。
私はグラインダーで、爪先と爪の中央部を削ってしまったことがあります。皮手袋をして作業すると磨れる音などで危険を察知することができます。
※3電動ドリル自体と貝を削る音でかなりの騒音が出ます。近所から苦情が出ないよう気を配りましょう。
私は、ホームセンターからAC-DCコンバーターを購入し、2次カットまでは近くの河原に車を乗り入れ、車(エンジンはかけたまま)のバッテリーから電源を受けて作業しています。騒音も貝紛も近所に迷惑をかけることはありません。
一次カットと荒削り
アワビの表面には海藻類が多く付着しており、この状態でルアーとして使える部分を見極めるのは至難の技です。
そこで、電動ドリルに円錐砥石(粗目)を装着し、付着物を取り除いた後、切断用ディスクに替えてツノ(穴の開いた部分)を境にカットします。
(切り落としたツノの外側は大きいアワビであれば使えるところもあります)
外層部をグラインダーで磨き、貝光の向きと表面の凹の深さが判断できる程度まで磨きます。
使用部分のマーキング
貝光の縦取り、横取りを考慮しながら断面側からルアーとして使える部分を見極めます。
市販のルアー(スプーン)をアワビにあてがい、油性ペンで形を描く。
この時、貝光の良い部分があったとしても、実釣のとき水の抵抗を受けてルアーが回転するのを避けるためにプロペラ状のひねりが入った所は使わないようにします。
※貝は自然の産物ですから市販のルアーの形がそのままシェルスプーンなにるなんてことは始めから考えない方が良いでしょう。ここで重要なのはバランスの良い部分を見つけ出し、そこに印を付けることです。ですからおおざっぱな描写で十分。
二次カットと研磨
電動ドリルに切断用のディスクを装着し、不要な部分を切り落とし、細部は金鋸で切断します。
油性ペンで描いた線の内側が残る程度にグラインダー(細目)で形を整えます。
後は磨きだしです。グラインダー(細目)で表面を滑らかにしますが、凸凹が多いとどうしても外層部が残ってしまいます。
外層部(茶色)は貝光が出ない部分ですが、必ずしも完全に取取り除かなければならない物ではないようです。
プロショップでは外層部が残ったシェルスプーンを堂々と高値で売っています。(外層部が残っていても釣れると言うことです)
特に小さいアワビは外層部をきれいに取り除くと薄くなって強度が保てなくなります。
アイレットの穴あけ
ひねりが入っていないこと、テール側から見た時の貝光を再確認し、市販のルアーをあてがって、再度油性ペン(黒色)で形を描きます。
ここで出来上がりのイメージは掴めますが、まだ最後の形取りではありません。
形を描いたら、油性ペンと定規で縦に中心線を引き、ルアーの輪郭から(3mm+真鍮パイプの半径)を中心線上にポイントします。
これがフロントとテールのアイレットの位置になります。
金属のようにポンチで芯がヅレないようにできれば良いのですが、貝ではそれができないので、ハンドドリルにφ1.5mmのドリルを装着して誘導穴を明け、続いてφ3.0mmで穴を明けます。
φ3.0mmの穴を棒やすりで広げ、真鍮パイプが入るようにしておきます。
真鍮パイプの取りつけ
真鍮パイプの切断面が90度にきれいにカットされていることを確認してから、鋸歯起し用のヤスリで貝の厚みより少し長めに切り、きれいなカット面が貝の内側で同一平面となるようにパイプを穴にはめ込み、瞬間接着剤ですばやく止めます。
※貝の内側は球の内面を削ることになり作業性が悪いので、始めからきれいなカット面を内側にします。(パイプのカット面は次に使うために90度にきれいに面取りしておきます)
瞬間接着剤が乾いたら、表面側に出っ張った真鍮パイプを貝面に傷をつけないように耐水ペーパーで慎重に削ります。
アイレットを基準にして、市販のルアーと油性ペン(赤色)で最終の形を描きます。
整形
グラインダーを使って描いた線(赤色)に沿って形を整えます。
この段階からは表面の磨きは耐水ペーパーに切り替え、最終600番くらいで仕上げます。
コーティングをしないで使用する場合は最終1000番くらいで仕上げます。
ルアーの断面は鏡餅状(もちろん一段です 師は2段を作っています)になるように意識して磨きます。
コーティング
全体を洗剤で洗い、乾かします。
コーティングをすると貝光に深みが増し、魅惑的なルアーに仕上がりなります。
しかし、人間が大気中で見たものと魚が水中で見たものが同じようにおいしそうに見えるかは想像の世界です。
ミノーのコーティングで使用しているセルロースセメントでフロント側とテール側を上下交互に2〜3回どぶ漬けします。
乾燥したらその都度凸凹やムラをサンドペーパー600番で修正し、表面がきれいに仕上がったら本体は完成です。
リングの取り付け
私はスプリットリングの取り付けが下手で、市販のルアーでもしばしば傷を付けてしまいます。
シェルスプーンは厚さやアイレットまでのスパンが長いですからなおさらです。
そこで、次のように手製のリングを取り付けています。
@リングの径に合う棒状のもの(筆の柄等)に銅線を巻きつけます。
A棒を抜き取りニッパーで切断する。
B切断したものは視力検査の記号のような切れ目の有るリングができます。
貝の厚みにあわせ、さらに更に切れ目を広げてアイレットに通す。
Cリングを円形に閉じ、切断面を半田付けする。
この際、テール側にはトローリングフックを通してから半田付けすることをお忘れなきよう。
トローリングフックを入れ忘れると、リングを付け直しするはめになります。
↓
拡大
慣れれば気になるほどの時間はかかりません。
ラジオペンチの口(片方)に巻くと厚いルアー用のD環も作れます。
真鍮プレート貼り
貝の厚み(強度)が確保できない時、あるいはウエイトを増してキャスティングにも使いたい時に作ります。
下の画像のアワビはプロショップで購入した大型のアワビから切り出したものですが、外装部が全く無くなるまで削られていて、シェル自体では強度に不安が有ったので真鍮プレートを貼ることにしました。
アイレットの穴明けまでは前述作業工程と同様です。
真鍮プレートの切り出し
私の使っている真鍮板は厚さ0.8mmのもので、シェルの重さが無視できるくらい重いため使ってみると市販の金属製スプーンと似た動きをします。
もう少し薄いものにすれば比重の小さいきびきびした動きのルアーができると思いますので真鍮の厚みを変えて色々試して見ると良いでしょう。
アイレットの穴を明けたシェルスプーンを真鍮板にあてがい油性ペンで形を描きます。
真鍮板を短冊状に切り落とします。
この時、形より両端に1〜2cm余裕を持って切り落とすと曲げる曲げる時作業がしやすく、また正確にできます。
真鍮プレートの貼り付け 短冊状にした真鍮板をシェルの内側に合うように曲げますが、力任せに曲げようとするとすると中央部が大きく曲がってしまいます。
そこで大きな径の円筒上の物から徐々に細いものに押し当て均等に曲げてゆきます。
真鍮板を長めにカットしておくと綺麗に曲げることができます。
最後はシェルの湾曲に合わせて手で微調整をします。
真鍮は柔らかいので、表面に傷を付けないように注意しながら曲げた真鍮板を描いた線を残す程度に金鋸とグラインダーで切り出します。(以降"真鍮プレート")
また、グラインダーで真鍮を削る時は摩擦熱で真鍮が変色するため間隔を空けて(冷やしながら)削ります。
真鍮とアワビを合わせアワビのアイレットにペン先を入れて真鍮板にマーキングします。
マーキングしたところにポンチを打ち、ハンドドリルにφ1.5mmのドリルを装着して誘導穴を明け、続いてφ3.0mmで穴を広げます。
真鍮パイプの切断面が90度にきれいにカットされていることを確認してから、鋸歯起し用のヤスリで貝の厚みより少し長めに切り、きれいなカット面が貝の内側で同一平面となるようにパイプを穴にはめ込みます。
シェルと真鍮プレートに隙間が無いことを確認して、瞬間接着剤ですばやく止めます。
一旦接着剤を乾かしてから周囲に瞬間接着剤を回します。
はみ出ている真鍮パイプと真鍮プレートを耐水ペーパーで落とし、シェル部は600番で、真鍮プレートは1000番とピカールで鏡状に仕上げます。
左のルアーは真鍮パイプを使っていないタイプです。
右のルアーは真鍮パイプを通しています。
※真鍮プレートの剥離防止
真鍮とシェルの膨張係数の差や落としたとき等の衝撃により剥離するのを防止するためには真鍮パイプを用いた方が良いでしょう。
しかし、アイレットの補強だけの目的であれば左のルアーでも十分のはずです。
真鍮プレートを貼った市販品には中央部に1〜2箇所鋲が打ってありますが、目的は剥離防止でしょう。
鋲の打ち方が分からないので当工房では極小ビスを使って剥離防止を試みています。
真鍮プレートのビス止め方法
シェルと真鍮プレートを重ねて中心にトリル径φ1.6mmの穴を明ける。
真鍮プレートにφ2.0mmのタップを切る。
ビスをルアーの厚みまで削り締め付ける。
下の試作はシェルはコーティングし、、真鍮プレートはコーティングせず、使った後外して磨けるようにした。
表 裏
どの方法がルアーとしてベストなのか・・・魚だけが知っています。
コーティング
全体を洗剤で洗い、乾かします。
セルロースセメントでフロント側とテール側を上下交互に2〜3回どぶ漬けします。
乾燥したらその都度凸凹やムラをサンドペーパー600番で修正し、表面がきれいに仕上がったら本体は完成です。
下の画像はほぼ同じ部位から切り出したものですが、左はコーティングをしていないので貝光が乱反射していますが、コーティングした右のシェルは規則正しく貝光を後ろに向けて、真横からは貝光が確認できません。
それでは皆さん、頑張って作りましょう!
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