合併特例債の問題点
この借金を前提にした行政の危険性について
その4

 その後もどんどん「必要額」が削減され、最後には親が払ってくれるはずだった7万も全額払う事になりました。二人の家計も破綻し・・・。これじゃあまるで残酷物語ですね。
 実はこの例え話、分かりやすくするために30万の収入を持つ二人が200万の「祝い金」を使う事にしましたが、実際の合併特例債は、そんな巨額を借りる事は出来ないはずです。合併特例債は、その自治体が例年行う建設事業の1.3倍程度の額に上限が決められています。
 藤野町と相模湖町の合併を想定した場合の合併特例債の額は、最大で72億と算定されていました。藤野町の予算規模(約35億)でその程度ですから。
 この例え話の「祝い金」でも、せいぜい50万程度が妥当な所でしょう。200万の4分の1だとすると、月々の返済額も、自前は7500円、親は17500円ということになりますね。

 ですから、ここでグラフにしたような極端に悲惨な結末を迎える事態は、現実には想定しにくいのです。絶対に無いとは言いませんが。

 ただ、私がこの例え話を作って一番強く感じたのは、『合併特例債の返済は国が7割を交付税として負担してくれる』と安易に信じてはいけないということでした。

 そもそもこの市町村合併。目的の一つは、いかに地方交付税を削減するかにあります。(思い出して下さい。自治体を合併させるという事は地方交付税を削減する事です。)ということは、当然、少しでも地方交付税をもらう団体を少なくし、不交付団体を増やす事が国の目標なのです。実際、現在は大多数の自治体が地方交付税をもらっていますが、国はこの数を大幅に下げようと考えています。

『私の町はじゅうぶん貧乏だ。』
と自信(へんな自信だな)を持っていた自治体も、ある時国から
『いや、お前の町はじゅうぶん不交付団体としての資格がある。』
と宣告される事態を想像するのは心配のしすぎでしょうか。
 貧乏な山里だと多くの住民が感じている藤野町だって、全国2500の自治体の中で、財政力指数は490番目だと言いますから、下手したら不交付団体にむりやりさせられる側の町かもしれません。

 地方交付税制度の先行きが不明瞭な時に、交付税を当てにした借金というのは危険だと思います。

 次のような事例は、上記の例よりも現実化する可能性があります。

 これは親が算定した「必要額」は変化しないで、二人の月々の収入額が変動した場合のグラフです。月によって収入額が「必要額」を上回ったり下回ったりしています。それに伴い、本来は親が払ってくれる予定だった借金も、一部もしくは全額を二人が払わなければならない月が出てきます。
 地方交付税をもらっている自治体でも、少し税収が増えれば容易に不交付団体になってしまう程度の財政状況の自治体では、ちょっとした景気変動で、特例債をある年は一部だけ、ある年は全額返済する事もありえます。

 三位一体の改革で税源移譲がなされて、それまで地方交付税の交付団体だったのが不交付団体になってしまった場合なども、これと近い現象が発生するでしょう。この例え話で表現すると、こんな感じになるかな。

 途中から現れるオレンジ色でバツが入っているのが、本来は親が払うはずだった7万。
 自前で返済する3万とあわせて10万の返済を負う。

 アルバイト先から、「仕事の量を増やすから給料を増やそう」と言われ、月30万の収入が45万になりました。同時に親からは
『もはや「必要額」以上の収入があるのだから「仕送り」は無し。』
と宣告されます。これ以降、本来は親が払ってくれるはずだった7万も自分達で返済するようになります。

 でも実際の三位一体の改革の税源移譲では、確かに税源が移譲されて税収が増えても、それ以上の仕事も新たに背負わされる可能性が強く(今の日本の借金を考えればそうなるでしょう)、決して自治体の財政に余裕ができるわけではないはずです。かえって財政を圧迫するのではないでしょうか。

 暗い想定ばかりが続きました。公平を期するために、「合併特例債・ハッピーエンド版」も想定しておきましょう。

 ようやく景気が良くなって、親も気前が良くなったのか二人の「必要額」をだんだん多めに算定してくれるようになりました(この例では50万まで増加)。また、この頃から二人の収入が増加し始め(「祝い金」を自分の能力アップの勉強に使って、仕事での収入が増えたとか)、借金の返済も無事に終わり、ついには「仕送り」をもらわなくても済むくらいにまで収入も増えました。
 いやあ、合併してよかったよかった。

 信じるかはともかく、こういう可能性も否定は出来ません。私だって未来を予知できるわけじゃありませんから。

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