合併特例債の問題点
この借金を前提にした行政の危険性について
その1

 まず、一つの自治体を一人の人間として置き換えます。

 この人は一人暮らしで、そこそこ収入もあり、何不自由なく生活を続けていましたが、何らかの事情で(怪我や病気でも何でもかまいません)、それまでの仕事を失職し、仕方なく安いアルバイトをしながら次の仕事を探している・・・と、考えて下さい。
 アルバイトの収入だけでは生活できないので(ここでは月収15万としておきます)、親の援助を求めました。ここで言う親は、「国」に当たります。

 さて、親も「それはそれは気の毒に」と簡単に援助はしてくれません(笑)。
まず、一人の人間が生活するのにいくらお金がかかるのかを独自に計算します。食費にいくら、電気、ガス、水道にいくら、衣服にいくら、新しい仕事を探すのにいくら、新しい仕事を得る為に専門学校で勉強しようと言うのなら、その学費にいくら、という具合に。
 こうして一人の人間が生きていく上で必要になる「必要額」を算出し、この「必要額」から現在の収入を引いた不足額を「仕送り」してやろうということになったとします。この「仕送り」が地方交付税に当たります。

 当初は親も景気が良かったせいか、必要額を35万と見積もってくれて、アルバイト収入15万との差額、20万円の「仕送り」をくれた時期もありました。あまり他の人に比べて、みすぼらしい生活をさせたくなかった気持ちもあったのでしょう。しかし景気が悪くなって、親も借金をするようになって(笑)、だんだん「仕送り」の額が減っていきました。
「もう専門学校には行かなくていい」とか、「本や雑誌は買わずに図書館で済ますように」とか「必要額」の算定基準をたびたび改めて、今では「必要額」25万と見積もられ、「仕送り」は10万になっています。

当初は親も景気が良かったせいか、必要額を35万と見積もってくれて、アルバイト収入(水色)15万との差額、20万円の「仕送り」(黄色)をくれた時期(グラフの左)もありましたが、今では「必要額」25万と見積もられ、「仕送り」は10万になっています(グラフの右)。


補足説明

 地方交付税の算定方法も、大まかに言えばこれと似たようなものです。
その町を運営するのに必要とされる妥当な金額(基準財政需要額)を算定し、そこから実際の税収入を算定した金額(基準財政収入額)を引くと、財源がいくら不足しているかが出てきます。この不足額を地方交付税で補うのです。
 この事から見ても、決して地方交付税は自治体が
『お金が足りないから補助してくれ』
と言ったら要求した金額が払われるという物ではない事がわかります。(私はずっとそうだと思ってました(汗顔))
 いくら不足しているのか、いくら補助すべきなのかを決めるのは国です。

 さてこの地方交付税。考え方自体は単純なのですが、それぞれの数字の算定方法が実に複雑です。
 市町村では、まず市町村の仕事(例えば消防とか)を集めて、その町の面積や人口では総額いくらかかるかを計算し、更にその町が人口急増地域なのか、過疎地域なのか、人口密度の高い地域なのか低い地域なのか、寒冷地なら除雪や暖房に特別にお金がかかるのではないか、といった様々な事情も「補正係数」として勘案されます。


 この基準財政需要額の算定の複雑さは、かつては「自治省(総務省)の担当者でなければ理解不能」とまで言われていたとか。これは今でもそれほど変わっていないでしょう。

 しかし、この複雑さが問題で、国はこの複雑さを利用して、新たな補正係数を創設したりして、交付税制度を操る手段に使っています。ある時は都市を優遇した、ある時は過疎の農村を優遇した地方交付税だったりするわけです。そして、政府が市町村合併を推し進めようと考えれば、小規模の市町村に厳しい性格の地方交付税にする事もできるわけです。

 何より、この算定基準は毎年のように変更が加えられる事を注意して下さい。後になって、この事が問題になってきます。

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