第一章

 む−君が嫌がろうと、僕にとっては小説の師であり、暴走する僕を窘めることのできる数少ない人物の一人であり、最高のセラピストであります。ですから「あれだけ本を読んでいて、これしか書けないのか」と指摘を受けるといつも、恥ずかしさに消え入りそうになり、同時に新しい課題に取り組む気持も生まれてくるのです。
 む−君は「僕にとって優秀なセラピスト」と書きました。確かに情緒不安定な僕をなだめすかし、やる気を起こさせたり怒りを静めたりといった部分では妹とあなた以上の人物に出会ったことはないでしょう。しかし、僕にとってもっと大切なのは、ごく当たり前のことを気付かせてくれる、その力です。
 先日も「ユニット」という言葉を使って面白いことをおっしゃってました。僕はこれを「プロジェクト」と読み替えてみました。必要に応じて必要な人間が必要な形で集まり、目的を達成したら解散する。
 もともとが個人志向ですからこの「ユニット」という考え方は僕には実に都合の良いものです。目的が発生したときに必要な人間が集まる、というのが好きです。目的がなければ別に集まらなくても構わない、というのが魅力的だと思いませんか。むー君も、奥さんと「夫婦」という関係を結んでいますが、きっと愛だの恋だのというより、お二人で「夫婦」というユニットを組んだ方がお互いに好都合と考えて、結婚されたのではないでしょうか。無論、お二人共通の目的があり、それは一生涯をかけて達成されるものでしょう(つまり、解散はないのでしょう)。
 僕自身、組織に加わることが苦手で、同時に組織をまとめるのも大の苦手です。HPを開設する以上、目的があってのことです。気に入って下さるお客様もいらっしゃることでしょう。となると、必然的に僕と常連さんを中心にした関係でユニットが成立するのです。
 他所のHPではBBSやCHATなど、ユニットとしての一体感を出すのに効果的な道具が揃っていることが多いようです。僕がこれらの道具を利用しないのは、まず第一に僕が沢山分裂して、一人でユニットを作ってみたかったことがあります。自分のある一面から、別の一面に攻撃を仕掛け、受ける僕も更に大きな仕掛けを用意する、ある意味で自己完結的な中で何ができるのかを試してみたかったのです。
 第二に、ユニットの風通しを良くしたかったことがあります。常連さんが集って内輪話も面白いのでしょうが、場合によってはそれがマンネリになって飽きる可能性が常に潜んでいます。どうせ安くない金を払ってPCを買い入れ、HPを開くのですからできるだけ安逸な方に進みやすいものは排除しようと考えたのです。
 ほぼ同じことですが、第三にあまりユニットの構成を固定したくないのです。バンドで例えるなら、常にジャムセッションを行える場でありたいと考えます。ハウスバンドのリズムセクションがコアメンバーで何人かいて、あとは出入り自由。ここから盗めるものがあれば盗んで他所で活用しても良し、他所で覚えたテクニックやコード、フレーズなりをここに持ち込んで試したり磨いたりするも良し。ですから、ここに集る方々は、別にホームグラウンドを持っていらっしゃる方が望ましいとも考えております。
 BBSではなくメールベースでのコミュニケーションも、メールを書く方が多くのエネルギーを必要とすると考え、その分、刺激的な、或いはバイタイリティ溢れる作品が生み出されることを狙ってのことなのです。本気で何かを書いて頂ける方に、僕の方がふざけ半分でいる訳にはいきません。
 そう、僕自身も『何だっけ制作委員会』というユニットに参加する一人として、この場で多くのものを得たいと考えます。ユニットを「部品」と考えれば、あるユニットを包含したユニットというものも存在するはずで、或いは必要があれば、このHPを『何だっけ制作委員会』のユニットとすることも考えられないことではありません。発想ばかりが先走る悪い癖が出てしまいました。
 この試みがどこまで成功するか。始めた本人がこんな調子ですから心許ないことこの上ありません。このHPはプロジェクトですから、失敗する可能性も否めないでしょう。失敗したら、解散して新しいプロジェクトを組めばいいのです。
 或いは成功しても、僕の当初の目的が達成できた時点で発展的解消をするつもりでいます。それが本来のプロジェクト或いはユニットの考え方ではないでしょうか。

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