第一章

「たぐの癖」
〜小銭エントロピー増大忌避症候群〜

癖というより、こういう傾向があるということだが、僕は小銭のエントロピー増大を極力抑えるようなお金の支払いを日々心がけ、精進している。
その結果、ついに人とは次元の違う世界に突入した。381円に1,001円を出す。
これは常識ある日本人誰でもします。少し進むと725円に1225円を出したりします。
つまり「5」を意識するようになります。

しかしそれがさらにいくととんでもないことになります。
いわゆる病気です。以下にその顛末を赤裸々につづりました。

ある日、僕はパンクを直しに自転車屋さんへ行かんと向かった。その結果、パンク1穴1,500円、消費税込み1,575円也を請求されることと相成った。
このとき僕が「やや高いんでないの」と思いながら、しぶしぶ出したお金は何と2,130円である!この意味がすぐ理解できる人は僕同様、取り憑かれている。

当然お兄さんは僕を怪訝な目で見かえし、2度3度「これでよろしいのですか」と聞き返してきた。

あぁ私はそのときほど世間との隔絶を感じたことはない。
それは畢竟、私の敗北を意味するものであり、羞恥で顔が紅潮し手足がふるへた。
何となれば自分は、彼からみれば気の触れた男なのだから。

僕の意志が固いことを知ると、奇異の感に打たれた彼は、今度は哀れな目で僕を見つめ、そしてレジへとむかった。30秒後レシートとお釣を手に戻ってくるも、その表情はいまだ釈然としていない様子だった。返ってきたお釣は555円。つまり2000円出すと425円という、僕にとっては悪魔のような小銭の山が恐ろしく、かかる賢しらな行為に及んだわけだが、それは一般人から見たらおかしげな、いわば奇人の行いだったのだ。


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