crocodile tears7


「あぁ、サンキューな轍さん。あぁ分かった」

香と麻理絵が出かけて30分。
情報屋から電話が来た。最近、不穏な気配が無かったから二人で出かけさせ
たんだが、まったく何が起こるか予測できない。

僚は受話器を置くとため息をつきながら自分の髪を掻き上げた。
轍から電話のある少し前、香の発信機から緊急の信号がなった。


ソファでぼーっとしていた時だったが一瞬で覚醒した。
いつもいつもあいつの外出に着いていくわけにはいかない。
だったら家から一歩も出さない方が楽だ。
そんな事はできるわけがない。
結局妥協を重ねてこんな曖昧な保護しかできないなんてな、バカらしい。


確認するとそれは新宿駅を出た所で光っていた。そのまま出かけようと
したときに電話があったのだ。

相も変わらず二人を浚った連中は裏世界で名をあげようとしている新進組織。
僚は二人を助ける為にジャケットを手に取り出発した。
出かけに一本電話を掛けた。

平日、昼日中というのに、道路は相変わらず混んでいて、柄にもなく
イライラとした。
ーいつまでこんな事やってんだろーな、俺ー
火を付けたばかりのタバコをクーパーの灰皿に押しつけ、僚はアクセルを踏みこんだ。


☆ ★ ☆


ガチャガチャと鉄扉の音がする。
泣き疲れた麻理絵は香にもたれかかって寝ていた。
香も麻理絵が居る上に、シャツも靴も脱がされたとなってはむやみに逃げ出す
事もできないので、じっと体力を温存するために、顔を膝に埋めてすごしていた。

扉の動く音に香は頭を上げた。
手が動かない状況で目隠しと猿轡を取ることは出来なかった。
重い音がして扉がゆっくりと開いた。足音が聞こえる。
それと同時に風が入ってきて、香は思わず身震いをした。
…一人…二人…
四人の人間が入ってきたようだ。
香は気づかれずにため息を付いた。
「おい、早く子供だけ連れて行け」
(!!)
麻理絵と引き離される訳にはいかない。
香は麻理絵の上に被さるように身体を捻って麻理絵が連れて行かれないようにした。
「あン?なんだ、この女意識あんのか?邪魔すんじゃねーよ」
男は香のかばった背中に蹴りをいれた。
(うっ!)
香の変わった様子に麻理絵も気が付いたのだろう。
「香さん!いやっ」
動かせない腕で香は麻理絵を必死でかばおうとした。
「邪魔すんじゃねーよ。お前をココで殺ってもかまわねーんだぞっ!」
もう一度香を麻理絵から引き剥がすように蹴りをいれた。
(ぐぅ…)
「おいおい、そのくらいにしておけよ、本当に死んじまったらシャレにならねーよ」
「死んじまってもいいんじゃねーの?シティーハンターをNo1から引きずり
降ろすことができるぜ」
下卑た男の笑いと麻理絵の泣き声が香に響いた。
「いや、いや、怖い…怖いよ、香さん」
(だめ、麻理絵ちゃんだけを連れていかせるわけには絶対いかない)
香は痛む背中を我慢しながら、顔を上げて、目隠しされたままがらも笑った男の顔を
睨み付けた。
その姿に怒ったのだろう。
男の一人が香のTシャツの胸ぐらを掴むとそのまま香を引き上げた。
「イヤーーーーっ!!香さんっ!!」
「生意気なんだよっ!!大人しくしてろっていうんだ」
男の苛立った言葉と、麻理絵の叫び声が重なる。
麻理絵の声がする位置が上がった。
香が居なくなったため男達に抱えあげられたようだ。
(やばいっ)
香は闇雲に動かせる身体のパーツを必死に動かした。
「大人しくしろっていってるだろーがっ!」
男は香をそのまま高く持ち上げると地下室に叩き付けた。
ドサリと鈍い音がして、香は倒れた。
(…くぅ)
緩んだ香の目隠しがその拍子にずれた。
叩き付けられ薄れゆく意識の中、香は足をじたばたさせて鉄扉から連れ去られる
麻理絵の後ろ姿を見た。
(…ごめ…ん…)

「おい…何してる。行くぞ」
倒れて意識のなくなった香の姿を麻理絵を抱えた男が見つめながら
扉の前で振り返って言った。
香のそばで香を見下ろして居た男が下卑た笑いを浮かべた。
「そっちは勝手にやっててくれよ。俺はちょっと遊んでいくからよ」
涎の零れる音が聞こえる様な笑いだった。
扉の前にいる男はその言葉に呆れたように片眉を上げた。
「下司め…」
「うるせーよ、邪魔しねーでさっさと行きやがれ」
扉が閉まった。
男はしゃがみこんで香に近づいた。
「イイ女だな……」


☆ ★ ☆


僚のクーパーは解体途中のビルの前に着いた。
昼日中なのになぜか薄暗く、人の気配も感じられない。
どこか異空間に迷い込んだ感じすらする。
ここらへん一体は大病院とその関連施設を建設するため、まとめて建築会社に
買収されたのだが、その建設会社が倒産し、その計画も頓挫して解体途中の古い
ビルが雨ざらしになっていた。

轍の情報と香の発信機を辿って来た。
香の発信機は追跡途中で消えた。それが酷く僚を不安にさせた。
僚は汚いビニールシートを潜った。

微かな叫び声が僚の耳に聞こえた。

僚はパイソンを手に持ち、走り出した。


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*カオリストの皆様、重ね重ねスミマセン…