crocodile tears16


『調査結果報告』
ーサエバ・リョウ 氏についてー

貴殿より依頼された上記の方の現在の生存、現住所すべてにおいて
調査した結果、発見する事が出来ませんでした。
詳細については以下の通りです。

貴殿の対象人である「サエバリョウ」なる人物は調査では一切名前がでてきませんでした。
名前の間違っている可能性もございますので、近しい名で調査したものの同一人物と
思われる人物は浮上してまいりませんでした。

弊社にて、貴殿よりお預かりした写真を元に独自に調査した結果。「サエバリョウ」
なる人物かは確定できませんでしたが、似たような人物が新宿、池袋界隈で頻繁に
見られているとのことで、各駅に2週間張り込みをいたしましたが、見つけることが
できませんでした。

調査期間中に撮りましたネガの中を改めて見てみますと、貴殿にお預かりした写真の
人物と似ていると思われる人物の写真が出てきました。同封いたしますのでご確認
願えれば幸いです。

今回は貴殿のお役に立つ結果がでなかったことを誠に残念に思います。

今後ともよろしくお願いいたします。
つきましては依頼料に付いては下記口座に…


後に続く文章は読まずに、僚は手紙を閉じた。
「ナンだ、これは?」
僚は読み終わった手紙と写真をテーブルに戻した。
「娘があなたのことを探していたみたいですね」
「ナンの為に」
「わかりません。でもこの調査会社からはたびたび電話や手紙が来ていました。手紙はこれ以外にもあったはずなのに、娘の部屋には無かったんです。麻理絵が持ち出したとしか思えないんです」
僚はタバコを口にくわえた。
「私は手紙をあの娘が亡くなってから読みました。でも麻理絵にはよく見せて聞かせていたんです。……あなたの「パパよ」と。何か写真のようなものも見せていたようです」
「麻理絵はそれを信じていた…と?」
みわは微かに首を縦に振った。そして僚と目が合うと、言った。
「でも違うんです!麻理絵の父親はあなたじゃないんです!!」


☆ ★ ☆


「すみません、香さんにそんな事をさせてしまってー」
斎藤は今から雪奈と遊びながら顔をだした。
保育所でも「先生」と呼ばれることに慣れない香は保育所の外で「先生」は止めて欲しいと斎藤に言っていた。
「いいんですよ。だって斎藤さんお誕生日じゃないですか。雪奈ちゃんとゆっくり遊んであげてください」
「かおりせんせーもいっしょにあそぼー??」
雪奈が首をかしげて話しかける。
「あとでね?もうすぐご飯できるからもうちょっとパパと一緒に遊んでてね?」
「はーーーーい」

香は雪奈の家の台所で料理を作っていた。
2Kの古いアパートで、お世辞にも綺麗とはいえない。だけれど親子の暖かさを感じる部屋だった。
自分の誕生日を祝うといった斎藤は料理は得意ではないようだった。
初めは香が雪奈と遊んでいたのだが、あまりにも斎藤の包丁さばきが見ていられなかったので交替したのだった。
斎藤が作ろうとしていたのは、麻理絵の好きな「えび」と「いか」がたくさん入った鍋だった。
誕生日に「鍋?」なんて思ったけれど、格好よりも娘の好きな者をつくる斎藤を好ましいと思った。
たっぷりと水菜を切って、人参は雪奈がきらいだから可愛いうさぎさんの形にしよう。
人参嫌いなんて…僚みたい。
ちょっと想って、ちょっと鼻の奥がつんとした。
甘ったれな思考を追い出して、料理に集中した。いつもは濃い目に味噌を溶くが今日は雪奈が中心だから薄目にして薬味で調整しよう。
その他にもちょこちょこっとおつまみを作った。
誕生日パーティーの料理とはちょっと思えないが、美味しそうにできたと思う。
「お待たせしましたー。できましたよー」
鍋を持って、雪奈たちのいる和室に入った。


「おいしいぃいいい」
子供用のフォークでえびを差して雪奈は食べている。
もう一人でも食事はできるのだが今日は大好きな香と一緒がよっぽどうれしいのか、香のひざの上にのって食事をしている。
雪奈は振りかえって香を見た。
「おいしいね、かおりせんせ」
「うん、おいしいわね」
「もうねー。パパのつくったごはんよりすっごいすっごいおいしいね」
娘の言葉に斎藤は苦笑いをした。
「どうせパパの作ったのはまずいですよーっだ。ほら雪奈、降りなさい。香先生がごはんできないでしょ!」
雪奈はぶーっと頬を膨らませ、振りかえって香を見上げる。
「パパのごはんはいっつもこげこげなの。にがーの」
香が斎藤を見ると申し訳なさそうに言った。
「あはは。料理をするようになったのなんて、ここに来てからなもんで…、本当香さんのお料理は旨いです、はい」
「そんな…ありがとうございます、でも慣れてるだけです。ね、雪奈ちゃん、パパのご飯嫌い?」
香は雪奈に人参を食べさせながら言った。
「うううん。きらーじゃないよ。でもにがーの」
うえっ、という顔をしながらうさぎちゃんの人参を食べた雪奈は言った。
「ニンジンもにがーの」
『よくできました』
香と斎藤の声が揃った。お互いに顔を見合わせてから、うつむいた。
そんな香を見上げて雪奈は言った。
「かおりせんせー。お顔まっかよ?お熱ある?」
香は雪奈のセリフに苦笑いを浮かべるしかなかった。


☆ ★ ☆


僚は立ちあがったみわに、座る様勧めた。
「興奮しなさんな…俺も自分がオヤジだなんて考えてもいなかったさ」
「何故です?」
僚はぬるくなっているミネラルウォーターを一口口に入れた。
「……なんでだろうな?理由なんてないさ。ただ俺と血を分け合ったヤツなんて居ない、絶対。そんな自信だけはあるんだよな」
僚は自嘲気味に笑った。
みわも固い笑顔を見せた。
「でも俺じゃないって断定するなら、麻理絵の父親の見当はついているのか?」
みわは微かにうなづいた。
「ええ…。麻理絵の父親は…娘の幼馴染でした。彼はうちの地域では代々の地主で、今では地元の有力企業の家の一人息子でしたー」
みわは淡々と語った。
その幼馴染は娘が帰国したときは既に結婚をしていて、子供も居たこと。
彼は離婚は難しいと娘に言ったこと。
狭い地域で、ただでさえアメリカ帰りと注目(良い意味でも悪い意味でも)されていた娘の妊娠は、その相手のことと同時にすぐに知れ渡ったこと。
相手の妻は激怒し、子供を産むことに大反対をしたこと、相手の家族はその相手を遠方に転勤させたこと。
麻理絵を出産しても連絡先は教えて貰えず、認知をしてもらうことができなかったことー

母親にしたら辛い話しであろうが、みわは泣くことも激昂することもなく話しつづけた。

「彼の妻はもし麻理絵を認知したら、今後この先、麻理絵になにが起こるかわからないとも
言って彼を脅したそうです。ですから認知はやはりしてもらえなかったのですが。それでも偶にこっそり帰ってきて、娘と会っていたようなんです」
みわは一枚の写真を取り出した。
それには、僚の知っている『マリー』がいた。そしてその隣には人のよさそうな青年が赤ん坊を抱いて立っていた。
「抱かれているのが麻理絵です」
「…いい顔してるじゃないか」
僚は自然に微笑んだ。そんな僚の言葉にみわも笑みを浮かべる。
「えぇ、私もそう思います。麻理絵にもこの写真を見せたことはあるんです。
でもあの子は覚えてなかったのかしら…」
なんで僚の事を父親と思ったか?というところに頭はいったのだろう。
「それで…この麻理絵の父親は?」
みわは、今までで一番いいにくそうに口を開いた。

 next>

 back

 

 *どうにかなってきたでしょうか(笑)これで首しめられない??←限定で問うなっ!!