Christmas Day 2

「は〜、おも〜いっ」

香は両手に一杯荷物をもって横断歩道で信号待ちをしていた。
「ふぅ、やっぱり車で来ればよかったかな?でも駐車場も混んでるのよね…」
どのお店からも様々なクリスマスソングが聞こえる。まだ雪は降っていないが
どんよりと曇った空も今日に限ってはクリスマスのロマンティックな演出の一つに
なっている様な気がする。

荷物を抱えた香の周りは驚くばかりにカップルばかり。
昼間だというのにあつあつのカップルたちばかりで目のやり場に困った香はよっ、っと
荷物を抱え直し、信号が変わるのをぼーっと待っていた。
「ハーイ、カオリ。今からクリスマスディナーの準備かい?」
後ろから急に声を掛けられて、思わずさっき店頭で衝動買いをしたポインセチアの鉢を
落としそうになった。
おっと、と声を掛けたミックがその鉢ごと香を支える。
ミックの隣には当然のようにかずえがいた。
二人ともいつもよりもおしゃれをしている。
「こんにちは、ミック、かずえさん。これからデート?」
「えぇ、クリスマスだし…香さんと冴羽さんはお家で過ごすのかしら?」
「あぁ、さっきリョウにも会ったよ。もう家にいるんじゃないのかな、香の手料理を食えるなんて
リョウにはもったいないクリスマスだ」
一人で文句を言っているミックに苦笑いをうかべながらも、そんな予定なんてないわ。
なんて2人に言ってもどうなるものでもない。

曖昧な笑顔でその場をやり過ごしてしまう。
「あの大食らいを納得させるにはこれだけの食料がいるんだから、イヤンなっちゃうわ。
かずえさんがうらやましい。はぁ〜。二人はロマンティックな夜をすごしてね」
信号を渡る香を見送りながらミックとかずえは歩道にいる多くのカップルに紛れて見えなくなった。
「ロマンティックなクリスマスか…」
二人の後ろ姿を見ながら香はそっと口にだした。
かずえさんや、美樹さんみたいに好きな人と二人で雑誌やドラマにでてくるようなクリスマスを
過ごしてみたいと思っていた時期もあった。
…だけど、あたしと僚はそんな仲じゃないから。
そんな仲じゃないのに、あたしが「望んでいる」と僚が受け取ったら、きっと彼はそれを叶えてくれる。
たとえそれがなんの役にも立たない、じゃまくさい、バカらしいことでも…
僚に負担を掛けたくない。
仕事でも足手まといで、僚一人でならばなんともない相手にだってあたしがいるから時間がかかったり、
面倒が掛かったりしている。
ならば仕事以外での彼への負担は少しでも軽くしたいのだ。
香は自分で決めたとこなのに、笑顔で過ごす事のできない自分が嫌でため息を落とす。
クリスマスのイルミネーションを振り切る様に足早にアパートに走った。

僚はクリスマス渋滞にまんまと巻き込まれ、愛車の中でくさっていた。
ミック達に会った後、そのまま香に会うのになんとなく躊躇して、
アパートには戻ったがそのまま、部屋には戻らず、クーパーで槇村の所に行っていたのだ。
槇村の墓は綺麗に掃除をされていた。香が頻繁にきているのだろう…
車の中から街路樹のイルミネーションを眺めながら、早く香に会いたいと思っていた。

(香をさそって、槇村の所に行けば素直に渡せたかもしんねーな…)
全然進まない道路をジッと見つめながら、僚はタバコに火をつけた。

あーぁ、やっぱり僚は今日も遅いんだなー。
こんな日だもの、きっと飲み屋のママとかお姉さんたちと楽しく
「ジングルベル♪」とか歌っちゃっているのかも…
そう、今日は特別な日でもなんでもない。いつもみたいに朝帰りするのが自然だもんね…
香は電気も点けないリビングで頬杖をつきながら、買ったばかりのポインセチアを眺めていた。
壁の時計を見上げ、12時を過ぎたことを知ると、その鉢を持って自室に戻った。

クリスマスイブをまんまと過ぎてしまった…
僚はジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、部屋に上がった。
外から見上げた時にはとっくにリビングも香の部屋も電気が消えていた。
(あいつ…プレゼントの「プ」の字も口にださなかったな)
いつものように香の存在を確認しようと彼女の部屋のドアを開いた。
少しフトンから肩をだしていたのでかけ直そうとベッドのそばによる。
香の頬は涙の跡が一筋残っていた。
僚は指で優しくそれをなぞると、香が抱きかかえていたポインセチアの鉢をそっとはずし、
ベッドサイドにおいた。

あ、れ〜??なんか枕…固い?あれ??まくら?うーん。

「お目覚め?香ちゃん」
え…え、えーーーーーーーーーっ!!
一気に目が覚めて声の方向に顔を向ける。
僚が…いた。いや、ちがう。あたしが僚に膝枕をされていたのだ。
僚はあたしのベッドの上に壁に背をもたれかけさせ…いた。
「な、なんであんたがこんなとこにいるのよーーーーーっ!!」
慌てて飛び起きたあたしのおでこをからかうように、ちょんと突く。
「だって、クリスマスプレゼントは枕元にあるもんだろ?」
「え…」
「メリークリスマス、香」
あたしは訳が分かんなくて、それでも僚と向き合うようにベッドに座って、ただ僚を見ていた。
僚はちょっと苦笑いを浮かべている。
「うん、メリークリスマス…」
「なぁ、香。笑って」
もっと訳が分からない。訳がわからなすぎて、僚の言うことを素直に聞いてしまった。
寝ぼけた顔を直すように、両手で自分の頬を叩いて、僚に笑顔を向けた。
僚が香に近づき、香の両頬をむに〜とつまんで、広げた。
「よし、ま、んなもんだろ」
「ぶ、ふー、は、はにふんのほ〜」
香がまっ赤になって僚の腕を外そうともがく。
そんな香の腕にいつの間にか香の頬から手を外し僚がそっとブレスレットを巻き付けた。
雪の結晶を象ったチェーンに朝陽がキラキラと煌めいている。
「りょ…、これ…」
「たまにゃー、労ってやらんとな」
僚はぼーっとしている、香を後目に香に巻き付けたブレスレットを長い指でそっといじる。
そして、そのままベッドを降りて、香の部屋を出ていこうとした。
「りょ、僚。ありがとう、すっごい嬉しい。大切にするから」
僚は後ろ姿を香に見せながら片手を上げて、それに応える。
「僚、待って。それでね…ごめん。あ、あたしナンにも用意してなかったの。あの…」
香の後悔の音色を存分に含んだ声に、僚は振り向いた。
「あん、もう貰った。さっきの笑い顔、あれで充分」
「え…でも」
「いっつも笑ってろ。それでいいんだよ、おまえは」
「僚…」
「ま、それで香ちゃんが『プレゼントしたりないわ〜〜vv』っていうならさ」
僚は香の前に近づく。
「俺がおまぁに誕生日作ってくれたお礼したじゃん?覚えてる?アレしてくれればいいよ?香ちゃん」
ちょっと照れた僚が香に顔を近づけた。

 

香ちゃんが、ちゃんとお礼をしたのか?どこにしたのかってのは、まぁ聞かないであげましょうかね?
merry christmas to おふたりさん(笑)


 終わり…?


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