Christmas Day

なにか…おかしい

なにがって?香がおとなしいのだ。
おとなしいっても朝は9時過ぎるとハンマーで叩き起こしてくるし、外でナンパしてれば
そこでもミニハンマーやコンペイトウが飛んできたりはするのだが…
気分がイマイチ晴れないまま、赤や緑、大きなツリーにイルミネーションがそこここに施された街
をブラブラとしていた。
そう、今はクリスマスシーズン。
いつもの香だったらやれ「キャッツでパーティーだ」とか
「このレストランはクリスマスの予約は取れないんだって」とか「ここのイルミネーションがステキ」
だとか鬱陶しいくらいクリスマスを意識しているのに、今年はナンにも言ってこない。
まぁ今年は美樹ちゃんが温泉旅行を当てたかなんかで海坊主のヤツはクリスマスから休業を取って
2人でしっぽり過ごすらしい。いつも言い出しっぺの美樹ちゃんがいないからパーティー云々の
話が出ないのはわかるが…それにしても、静かすぎる。釈然としない…

街は平日だってのにどこから涌いてきたのか腕を組んだり、肩を抱いたりとカップルがうようよと
漂っていて歩きにくいことこの上ねーなー。
なんとはなしにふと視線を大きな宝飾店のエントランスに向ける。
そこから出てきたのは、まぁ何とも華のある、でも見慣れた、エセ外人特派員と美人学者の2人だった。
ミックのバカは真っ白なロングコートを見せつけるように翻しながら隣に並んでいるカズエをそっと
エスコートして店から出てきた。
かずえは嬉しそうにミックに笑顔をみせながら、今買ってきたであろう宝飾店の小さな紙袋を
手にもたれかかっている。
そんなにじっと見ていたのだろうか?ミックとかずえが俺に気づいて近づいてきた。
「よう、聖なる日ってのに、相変わらずシケタ面してんな、リョウ」
「はぁん?もっこり美人がどの子もどの子もぶっさいくな男連れてるから嫌気がさしてるだけだっ」
「こんな日にもっこり美人が一人でいるわけないだろーが?もちろんうちの美人彼女もヒマじゃないっ!」
かずえにちょっかいを出していたのにミックに阻止される。ちっ、つまんねー男だねぇ、たく。
「かずえちゃんだって、お前みたいなキザヤローといるより、俺と過ごした方が楽しいってーの?
ねぇ、この聖なる夜を僕ちんと過ごさない?かずえちゃん?」
掴んだ手をかずえにすげなく払われた。ち、つまんねー彼女だ。ミックなんかと同じ対応をしやがって。
「何言ってるの、冴羽さん。私はミックと過ごせてとっても幸せよ?今だってとってもステキな
プレゼントをしてもらったばっかりだし、ね?」
最後の「ね」はミックに顔を向けて、紙袋をひらひらとさせながら言う。
ミックがこれ見よがしにかずえの肩を抱く。
「お前も香にプレゼントの一つや二つ選んで、早く帰ってやれよ。香の事だ、きっとクリスマス料理を
作って一人で待ってるに決まってるんだから。こんな日くらいパートナーを労ってやれよ」
ほれっと肩を押されて、丁度出てきたカップルと入れ替わるように僚は宝飾店の中に足を入れる。
「おいっ、ちょ…」
余計なお世話に文句を言おうと宝飾店のガラス窓から外を見ると、2人してコチラを向いて手を振り
次の瞬間、雑踏に消えていった。
まったく、お節介なやつらだな…と思いつつ、香の為になんか買ってやろうとジーンズのポケットに
金を押し込んできたのを思い出した。

いつもの様にクリスマスを意識させられると、意地になって
「なにがクリスマスだ」という気分になるのだかこんなに何もないと…なんかしてやりたくなる。

あいつが俺のこんな変化を意識してクリスマスを忘れたように過ごしているとは思わないがな。
香の顔を思い浮かべながら、俺は若いカップルでごった返しているショーケースに向かった。

ーあいつは何に喜んでくれるのだろうか?ー

 

25日に続く…


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