本研究は、東京都荒川区にある「日暮里富士見坂からの眺望の保全」を目的としている。日暮里富士見坂は現在、都心部に存在する富士見坂のうちで唯一富士山を望むことができると言われており、長い間地域の人々に親しまれて来た。眺望は地域生活を特徴付け、居住環境の維持・向上に大きく関わるものであり、その保全継承については誰しもが願うところであろう。しかしながら近年の建物の急速な高層化により、他の富士見坂と同様に日暮里の富士見坂においても富士の姿が消えてしまう可能性か増大しつつある。こうした事態に対し、地域居住者の間では危惧の念が生じてはいるものの、具体的な方策を見出だすには至っていない。
本研究ではこの様な状況を踏まえ、日暮里富士見坂について、その意味・価値を東京都心部のなかで位置付けた上で、眺望を保全するためにどのような手法が考えられるかを検討し、可能性を探ろうとするものである。
本研究は以下の視点・方法により進めていく。
(1)富士山・富士見坂と江戸・東京の関わりについて、図版を中心とする文献調査。
(2)都心部に現存する富士見坂について、そこからの眺望の分析。都心16箇所の富士見坂周辺の地形、建物を中心としたフィールド調査及ぴ地図・文献・写真調査により、富士が見えなくなっている現況を把握・整理し、同時に従来言われてきた日暮里富士見坂のみが富士山への眺望を残していることを、実証的に確認する。
(3)文献調査により、眺望名所としての日暮里諏方台の変遷を把握。ヒヤリング・アンケート調査による、日暮里富士見坂と地域居住者の今日的関わりの分析。
(4)天候・季節による富士山の見え方、日暮里富士見坂からの眺望に関わる地域の地形、及ぴ建物の現況等について調査し、眺望の観点からの分析。
(5)景観シミュレーション。前項の調査に基づき、日暮里富士見坂における富士への眺望保全のためのシミュレーション解析。
(6)行政との連携。眺望に関わる地域は荒川、台東、文京の3区にわたるが、調査研究がある程度まとまった段階で、その成果を基に各区との研究会を開催し、眺望保全のための意見交換を行う。
以上の調査分析をもとに、現行法の制約を視野に入れつつ、実践活動も含めた保全のための具体的、現実的な方法を考察し、提示したい。