各通りにおけるコスト負担

コスト負担について検討するにあたって、機会費用を想定する必要がある。すなわち、眺望保全について協力をすることによってないしは、新たな規制を受け入れることによって失われる価値を、算定する必要がある。ここではまず周辺の開発事例から単純にマンション建設をほぽ同様の手法で行うものと考え、それを変更することで失われる価値を機会費用として算定する。つぎに容積率の充足を図る措置でどの程度までそのコストが減少できるかを検討する。
 このあたりのマンションは採光などの面で有利となることを狙って、10階建てないしは14階建てで、建ぺい率をかなり小さくしている。指定容積率500%の場合建ぺい率50%ないし35−40%、指定容積率600%の場合建ぺい率60%ないし40%となる。また、1、2階までは店舗やその他の非居住部分として、それより上の階より建築面積を大きくしている。以上から、標準的な建設形態として1、2階までは建ぺい率60%、3階以上は建ぺい率45〜50%で建設するものと想定する。このとき、各通りの眺望阻害高さから階高3mとして、何階建てまでが建設可能かを求め、建設できなくなる階数分における利益の発生分を機会費用として算定する。

i)不忍通り
 不忍通り沿いは容積率500%に指定されており、沿道のマンションは10階建てが一般である。これに対して眺望阻害を起こさない建物高さは約22mであり、7階建ては可能である。一般的な10階建ての場合、1、2階を建ぺい率60%とすると、3階以上は建ぺい率約48%になる。したがって7階建てを同様に建設すると、60%×2階+48%×5階=360%は可能となる。指定容積率500%のうち、実現できない140%分から派生する利益が算定する機会費用となる。これは、指定容積率500%に見合った賃料収入の利益およびこれを期待利率で還元した地価の、140/500=28%分になる。またペントハウスは設置できないので、油圧式エレベータの設置によって余分にかかる費用が上乗せされるが、この費用額は小さく無視し得ると考えられる。
 不忍通り沿いの建蔽率は80%に指定されており、指定容積率500%を確保しようとすれば、7階建てで指定容積率実現も不可能ではない。この場合は採光条件等の不利な条件によって分譲価格が減価する分が機会費用とみなせる。しかし、建設費はむしろ7階建ての方が廉価になる可能性もあるし、デザイナーを適切に選択して設計を委託すれば、設計料をかけた以上の利益を7階建ての設計で実現することも可能である。委託に値するデザイナーはそのために存在している職能である。したがって、不忍通り沿いに7階建ての規制を想定した場合、実際のところ設計・開発の労力を一般的な設計以上に要請しはするものの、そのような努力を払えば決してコスト負担を余計にかけることにはならない可能性がある。

ii)本郷通り
 眺望阻害を起こさない建物高さは不忍通りとほぼ同じ20〜22mであり、7階建ては可能である。本郷通り沿いは容積率600%に指定されており、沿道のマンションは14階建てが一般である。これらに倣えば、1、2階を建ぺい率60%とすると、3階以上は建ぺい率約40%になる。したがってこの方法で7階建てであれば、60%×2階+40%×5階=320%が建設されることになる。指定容積率は600%なのて、実現できない280%から派生する利益が算定する機会費用となる。これは、指定容積率600%に見合った賃料収入の利益およびこれを期待利率で還元した地価の、280/600=47%分になる。この数字はかなり大きな負担を意味するが、不忍通りで検討したことと同様の根拠から、優れたデザイナーに快適なマンションの設計を依頼する等の努力を払えば、建蔽率80%が指定されているので、計算上は80%×7階=560%まで容積率を確保して、14階建てと遜色ない価格のマンションも実現できる。また建設費等の面でより有利となる可能性も高い。したがって、仮に階数を制限するなり、高さを制限したとしても、制約された条件下で創造的に対応することを拒否し、14階のイメージに固執して機会費用を算定することに根拠は見出せない。それでは計画設計行為の怠慢を根拠とした算定になってしまう。むしろ公的な措置として、高さの制約された条件下でどれほどの優れた計画が可能かを検討しておき、創造的な開発に誘導する方策を採用する必要がある。そうした検討結果を踏まえて、場合によっては何らかの負担緩和措置や、積極的な容積移転型の開発に誘導する方策などを用意しておくことが望ましい。

iii)白山通り
 眺望阻害を起こさない建物高さはほぼ36〜37mであり、12階建ては可能である。白山通り沿いは容積率600%に指定されており、沿道のマンションは14階建てが一般である。1、2階を建ぺい率60%とすると、3階以上は建ぺい率約40%になる。したがって、この方法で12階建てであれば、60%×2階+40%×10階=520%が建設されることになる。指定容積率は600%なので、実現できない80%から派生する利益が算定する機会費用となる。これは、指定容積率は600%に見合った賃料収入の利益およぴこれを期待利率で還元した地価の、80/600=13%分になる。
 なおこの程度の制約であれば、3階以上の建ぺい率を少し多目にして指定容積率を実現することも可能と考えられる。この場合の機会費用も多少は生じようか、建ぺい率を高めたことで、価格設定にまで影響を及ぽすことにはならない可能性の方が強いと想定される。


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