意匠屋さん向けRCマンションの小梁設計講座

 

 『構造設計者になろう』の構造設計講座の第四弾は「意匠屋さん向けのRCマンションの小梁設計講座」です。

意匠設計者に教えたい!構造計画の基本(マンション編) 意匠設計者に教えたい!構造計画の基本(マンション編)
著者:建築構造設計べんりねっと
出版社名:Booth
価格:1,500円(税別)



 通常、マンションの階高は3m弱、天井高さは2.4m程度です。そして、小梁のせい(高さ)は600mm程度です。つまり、仕上げ厚さを考えると天井から小梁の形が出る事になります。
 この小梁が部屋の真ん中に出たら、照明は付けられない、圧迫感もある、何より、見た目が美しくありません。

小梁が室内を通過。。。

 通常、小梁は部屋の中央を通らないように間仕切り壁に沿って、計画しますが、何処に小梁を通そうとしても、何処かの部屋を通過してしまう間取りとなったら、どうでしょう。

 小梁の位置は構造屋さんが考えれば良い事だから、意匠屋には関係ない?

 確かに最終的には、そうですが、このような間取りでは、「どの部屋を捨てますか?」との選択になってしまいます。
 スラブを厚くして、小梁を無くす方法もありますが、限度があり、コストも上がります。また、ボイドスラブなどの小梁無しの空間を作れる工法もありますが、これもコストが高い。

 つまり、小梁の計画、構造の計画とは間取りを作成する事なのです。では、意匠屋さん向けのRCマンションの小梁設計講座を始めます。


1.小梁の役割り

 まずは、小梁の役割りをおさらいしましょう。

 建物(ラーメン構造の場合)は柱とその間を繋ぐ大梁にて、支えられています。そして、その中に床があるわけですが、通常の大梁のスパンですとスラブの強度が不足してしまいます。そこで、小梁を追加し、スラブのスパン、面積を小さくします。これが小梁の役割りです。

 つまり、小梁を配置する間隔はスラブの強度(許容スパン)によって、決まります。

小梁の役割り

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2.スラブの厚さを決める

 スラブの強度は厳密には厚さ、コンクリート強度、鉄筋量にて決まりますが、本講座では意匠計画としての小梁の配置計画を学ぶ事を目的としていますので、スラブの厚さのみを考えます。

 スラブの厚さを決める要素としては、強度、たわみ、振動、遮音があります。

 強度、たわみ、振動に対して満足させるためには、スラブの厚さをスラブ短辺長さの1/30以上とします。(施行令77条の2、告示1459号)
 遮音に対しては日本建築学会の「建築物の遮音設計資料」が参考になります。

建築物の遮音設計資料

 通常、RC造のスラブの厚さは15cmから、20cm程度ですが、これをまとめると以下になります。

表「スラブ厚さと許容スパン、遮音性能」

スラブ厚
許容スパン
許容面積(L-50)
許容面積(L-55)
150mm
4.5m以下
12㎡以下
20㎡以下
180mm
5.4m以下
20㎡以下
30㎡以下
200mm
6.0m以下
25㎡以下
40㎡以下


 マンションの多くは遮音性能を向上させるためにスラブ厚さを20cmとしていますが、小梁の間隔を広くし、スラブの面積を大きくすると遮音性能は落ちてしまいます。スラブ厚さを上げることは建物重量を増やす事になり、耐震性能を相対的に下げる事にもなります。
 スラブ厚さを20cmなど通常よりも厚くする場合、遮音性能をワンランク上げる面積に抑える事が必要です。

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3.小梁のせい(高さ)の目安

 次に小梁のせい(高さ)がどのくらいになるか、考えて見ましょう。

 小梁のせいの目安は、スパンと小梁の接続状態により、以下になります。
 単純梁形式:梁せいはスパンの1/10
 連続梁形式:梁せいはスパンの1/12

 スパンを大きくすると小梁のせいが大きくなってしまうのは判ると思います。ここでは、接続状態(単純梁形式か、連続梁形式か)について、説明します。この二つは構造モデルにすると下図のようになります。応力(曲げモーメント)も合わせて表記します。ここで同じスパン長、同じ荷重とすると連続梁形式にすると曲げモーメントは小さくなります。このように梁は連続形式とすると有利に設計出来るのです。

単純梁形式
単純梁形式

連続梁形式
連続梁形式
 では具体的にどのような配置の小梁が単純梁形式なのか、連続梁形式なのかを説明します。以下の図で小梁符号B1、B2が単純梁形式B3、B4が連続梁形式です。支点は小梁が取り付く大梁または小梁の位置になりますが、ここで支点の先に一直線状に小梁が繋がっていないものが単純梁形式にどちらか片端でも一直線状に別の小梁が繋がっているものが連続梁形式です。

単純梁形式、連続梁形式

 小梁のスパンは支点から、支点までの距離です。

 上図の例でスパン(Ⅹ方向)が6,000mmであった場合、小梁のせいの目安は単純梁B1は600mm(6000/10)、 連続梁B3は500mm(6000/12)となります。



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4.小梁配置の基本

 スラブ厚さ、スラブの許容スパンを決定したら、小梁の配置の検討をします。

①間取りに合わせる。

 小梁配置の基本は間取りに合わせ、間仕切り壁に沿って、意匠性を損なわないように配置します。

②スラブが許容スパン以内になるようにする。

 「2.スラブの厚さを決める」で決定したスラブの許容スパン以内になるように小梁を配置します。まずは 間仕切りに沿って配置し、スラブの許容スパンを超えている箇所がないかを確認し、小梁を追加していきます。
 代表的な小梁の配置方法としては以下があります。

代表的な小梁配置方法

③短辺方向に小梁をかける。

 小梁は間仕切りに沿って、配置する訳ですが、室内の圧迫感、空間の有効利用を考えた場合、大きさ (せい)は小さいに越した事はありません。小梁は梁せいを小さくするために短辺方向にかけるのが基本 です。 下図の例を見てみましょう。

小梁は短辺方向にかける。

 ①~②間(小梁位置:赤)、②~③間(小梁位置:青)のどちらもスラブの許容スパン以内になるように 小梁が配置されています。また、室内を通過する事なく、配置されています。
 同じ間取りの二つの例で小梁のせいがどのくらいになるか、考えてみましょう。
 ①~②間(小梁位置:赤)⇒小梁せい H = 650mm(6400/10=640→650)
 ②~③間(小梁位置:青)⇒小梁せい H = 1000mm(9750/10=975→1000)

 このように小梁の架ける方向により、小梁の大きさが大きく変わってしまいます。また、小梁の大きさ(せい)が大きくなると取り付く大梁も大きくなり、階高が上がります。これより、建物全体のコストにも影響する事になります。一部屋の間取りが建物全体に大きく影響する事にもなるのです。


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