「フェアリー」  〜 幻想世界の物語 〜      第6章へ      Home


第5章  〜 パラレルワールド 〜                 2003.5.22


5月中旬のとある日の昼休み、冬美は会社のパソコンを使って時間を潰していた。

「冬美、インターネットでなに見てるの?」

「あっ、清美先輩。このサイト見て下さい。ワタシが作ったんです」

「どれ、どれ。ふーん、詩や童話を公開しているのね。みんなー、ちょっと来て」

「なに、どうしたの?」

「冬美がホームページ立ち上げたんだって」

「どれどれ、いつ頃公開したの? 大変だった?」

「公開してからちょうど60日です」

「カウンターは・・・60アクセス。アンタ以外、誰も見ていないんじゃないの?」

「先輩、そうなんですよ。それで、誰かに見てもらおうと思って。
 ワタシのサイト、メインは童話なんです」


「アンタ前から童話を書きたい、って言ってたもんね」

「どれどれ、読ませて」

「ちょっと恥ずかしいです。けど、せっかく書いたんだから、誰かに見てもらわないと
 意味ないですものね。ここです。ここをポチッと押して下さい」
銀の舟

「何だか知らないけど、ちょっと怖い話ね」

「うん。でも、冬美にしてはまあまあ、かな・・・」

「優奈先輩、本当ですか? 始めて書いたんです。ありがとうございます」

「せっかくだもの、宣伝しないと宣伝を。
 それよりアンタ、こうやって私達に強制的に見せて宣伝してるでしょ?」

「バレました? でも、誉められたのでこれからも頑張ります。やる気が出てきました」

「冬美って不思議よね。何だか日に日に才能が開花しているみたい」

「うん。ワタシもそう思った。もしかしたら将来大物になるかもね。
 事務所設立して、コイツにメシを食わしてもらおうか(笑)」

「えっ、ワタシに才能あります?」

「アンタ、ばっかじゃない。少しぐらい誉められた位で本気にするな、って」

「ねぇ、それよりさー、今度の日曜日、日帰りの温泉行こ、日帰り温泉」

「いいわよ。冬美も行くでしょ?」

「いいですよ。どうせ暇だし」

「よし。けってーぃ」


約束の日曜日。
4人は車で約1時間程で着く最近出来た日帰り温泉に行った。
温泉は、館内と露天風呂の2つがあり、冬美は1人で露天風呂に入っていた。

すると、やや大きな地震が発生し、揺れが治まると気品高い花の香りが漂い、ふと気が付くと
目の前にあのフェアリーがいた。


「冬美さん、お久しぶり」

「うっ。フェアリーさん。てっきり、誰かに潰された、と思っていたのに。何しに来たの?」

「あれから1年半ね。元気そうで何より。そろそろ時期かなーと思って」

「時期って?」

「アナタの天性が開花してきたのよ。精神的にも成長してきたし、
 3次元が理解できるだけの環境が整ったの」

「アナタが来ると、ろくな事がないんだから。とっとと帰ってよ」

「それは無理ね。前にも言ったでしょ。アナタは運命を背負ってるんだから。
 それに、このことは全部神様が決めていることなんだから、どうしたって逃げられないの」

「もしかして、また洗礼とかじゃないでしょうね・・・」

「今回は違うわよ。もっと素敵な旅」

「ふーん、どうでもいいけど。それより、今までどこに行ってたの?」

「天の国よ。ほらね、アナタが洗礼で成功したでしょ。
 アナタが成長するとアナタを見守っているワタシも成長して階級が上がるの。
 ワタシだって、天の国でアナタに負けないようにお勉強しているのよ」

「ふーん、そうなの。妖精という商売も結構大変なのね」

「アナタ達みたいな競争とは全然違うけどね。ただ、使命感が強くなるだけ。
 使命感で人間を幸せに導くことが一番の喜び。そして、それがワタシ達の幸せなの。
 ほら、見て。羽根が5枚になってるでしょ?」

「何これっ? ヘンなの。普通、羽根は偶数よ。奇数の羽根なんて絶対にヘン。
 見た目もすっごい中途半端」


「いいの。それだけ幻想世界の高い意識に飛べるんだから。あっ、誰か来た。それじゃ、また後で」 



「冬美? 誰と喋ってたの?」

「えっ、誰とも喋ってませんよ」

「でも1人でブツブツ言ってわよ」

「あっ、歌を唄ってたんです。 ♪ ババンバ バン バン バン いい湯だな〜 ♪って」

「うわっ、オヤジくさー。それより、さっきの地震怖かったね」

「本当、ビックリしちゃいました」

(そう言えばあの地震、フェアリーさんが現れた時に発生したような?
 それとあの時、とても良い香りが漂っていたわね・・・)


「みんなー、17時を過ぎたからもうそろそろ帰るよー」

「はーい」


優奈が運転する車に全員が乗車し、お喋りしながら帰る途中のこと、 
思いがけない出来事が起こった。


「せんぱーい。友情っていいですね。あはっ」

「アンタ、またガキくさいこと言って・・・」

「あれぇー、天気が良いのに、小雨が降り出してきたわよ」

「ねえ見て。ほら、あそこあそこ。小さな虹が出てる」

「わっ、本当だ。あの虹、普通のより色濃くない?」

「うん、そうだね。それにこの車に近づいてくるみたい」

「わっ、凄い。向こうからどんどん近づいてくるよ」

「うわっ、やったー。虹の下をくぐった」

「ちょっとした想い出が出来たわね」

「もしかして、あの虹、フェアリーさんかな?」

「えっ、冬美、何か言った? フェアリーさんとかって」

「あっ、いえ、何でもないです・・・はぁ」


自宅に帰った冬美は、今日起こった不思議な自然現象と、フェアリーとの関係を考えていた。
すると、以前は1色だった閃光が、今回は3色が同時に光り、目の前にフェアリーが現れた。


「はーい、冬美さん。どう、ワタシの光、綺麗になったでしょ」

「うん・・・。それよりフェアリーさんの姿、前より色が薄くなっている。だけど輝いていない?」

「そうなの。階級が上がってくると、ワタシの姿が見えなくなってくるの。今のうちに教えておくけど、
 階級がもっと高くなると、姿はまったく見えなくなり、冬美さんのインスピレーションとか、
 自然現象とか、感性とかでしかワタシとコンタクトをとる方法がなくなるの」

「あっ、そう。1つ聞こうと思ったことがあるの。今日追いかけてきた虹はフェアリーさん?」

「そうよ。綺麗でカッコいいでしょ。まだまだ、小さな虹だけどね。
 虹に変身する技をマスターしたから見せたかったのよ」

「優雅な香りも?」

「そう。それから地震もね」

「うっそー。そんなこと出来るの?」

「階級が上ったからね。ワタシの技が磨かれるには、アナタに頑張ってもらわなくちゃ」

「あのねっ、ワタシ、アンタのために何か絶対にイヤよ」

「まぁ、まぁ、そう言わないで。それより、これから3次元の旅に行くんだから、
 その前に少し予備知識を教えておくわ」

「行くんだからね、って勝手に決めないでよ」

「前にも説明したけど、2次元の幻想世界や妄想の世界のことは覚えてる?」

「あんな過酷な体験、忘れたくても忘れらないわ」

「そうよね。それで、面として存在している2次元に階層があってそれが3次元なの。覚えてる?」

「うーん。そう言えば出逢ってすぐの頃、そんな説明を聞いたような・・・」

「その3次元もね、見た目には現実の世界や2次元とほとんど変わらないの。
 だけど、これまで経験した世界とはまったく違った世界があるのよ」

「なんだか、全然解らないんですけど・・・」

「3次元を解りやすく説明すればね、まずあなたの住んでいる地球という星があるでしょ。
 でね、それとまったく同じ星があるとして、その星は地球とまったく同じ歴史や時間が
 進行している星があるようなものなの。

 アナタ達のお仕事で説明すれば、コピー機で印刷する資料の原本があって、それを印刷して
 コピーされた同じような資料がたくさんあるようなものなの。
 まったく同じ様な地球が、いくつもいくつもある様なものなの。

 この3次元はパラレルワールド 『並行世界』 と言って、このような世界があることは、
 量子力学で科学的に証明されているの。
 電子を使った実験では、この不思議な現象が起こることが証明されているのよ。
 だから、宇宙空間にだってパラレルワールドが存在する可能性が十分あるのよ」

「でも、それでは1次元の世界が沢山あるのと変わらないんじゃない?」

「それがね、1次元とはまったく違う世界なの。そこに住んでいる人達が違うの」

「えっ? 住んでいる人達が違う?」

「そう。アナタに仲の良い先輩がいるでしょ? その先輩も、見た目は全く一緒。
 だけどね、その先輩の肉体を動かしている魂が違うの」

「魂・・・・・・って?」

「一言でいえば、まったく違う人格が先輩の体を動かしている、と言うことなの」

「見た目は優奈先輩だけど、まったく違う人格の優奈先輩が暮らしている、ということ?」

「そう。まさしくそのとおり」

「はぁ? またワタシを変な世界に引き込むつもり?」

「そしてね、この世界では低い意識の人格が集まり形成され世界、高い意識の人格が集まり
 形成され世界、そんな人格の違いによって集まった世界がたくさんの階層に分かれて
 存在しているの」

「何だか、解ったような解らないような・・・」

「そうね、実際にこれから行ってみると、何となく解ると思うわ。
 そう言えば冬美さん、インターネットを始めたでしょ?
 ネットの世界はまさしくパラレルワールドの世界に似ているの。
 ネット世界には掲示板やチャットがあるでしょ。本人が姿を見せず、相手の姿も知らず、
 文字を打ち込んで言葉で心を表現して会話をしているわね。

 パラレルワールドはね、ネットの掲示板専門の巨大サイトみたいな感じなの。
 巨大掲示板サイトには、いくつも同じ様な掲示板が用意されていて、様々な話題ごとに
 運営されているでしょ。
 1つの掲示板を1つの世界と仮定して、アナタは意識的に書き込む掲示板を選らんでいるでしょ。
 当然、アナタと同じ様な趣味や趣向の人達が集まっているところに行くわよね。
 
 中傷合戦をしたり、ふざけ合ったりすることが好きな人達の集まる掲示板もあれば、
 誉め合ったり、心を慰め合ったり、会話を楽しんだり、暇つぶしだったり、色々な掲示板があるけど、
 いつの間にか同じ感性や感情を持つ人達が集まってるでしょ。
 当然、少しでも居心地が悪ければ、違うところに行くわよね。
 同じ意識の人達が集まる掲示板の世界は、階層ごとに分かれているパラレルワールドに
 とてもよく似ているの」

「そうか、確かに掲示板は同じ様な意識の人達が集まって形成されている世界だわ」

「そう、そういうことなの。
 3次元はそういう意識レベルの違いによって形成された世界が沢山あって、しかも物質が
 存在している世界なの。解った? とりあえず行ってみようか?」

「えっ、今から行くの?」

「そうよ、今から行くのよ」

「そんな、急に・・・」

「それでは、しゅっぱーつ」

「出発って、もう。相変わらず強引なんだから・・・」 



「第5章」 終わり / 〜 Reach for the Sky 〜  倉木麻衣


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