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「銀の舟」                              2002.3


遙か遠い北の町に、きれいな水が流れ、たくさんの花が咲き、光り輝く暖かいとても
すてきな街がありました。
その街の名前は「まぼろし街」と呼ばれています。

まぼろし街には、とってもやさしい白クマくんと、楽しいことが大好きなリスさんが
仲良く暮らしていました。
かくれんぼをしたり、おままごとごっこをしたり、一緒にご本を読んだり、それはそれは
毎日楽しいことばかり。
「大きくなったら、一緒に暮らそうね」って約束もしていました。

でも、二人は離ればなれになることになりました。
それは、リスお父さんのお仕事が変わり、明日には引っ越してしまからです。
とっても遠い街に行ってしまうのでもう会えません。

リスさんに会えなくなった白クマくんは、毎日泣いてばかりでした。
お風呂に入っているときも、ご飯のときも、リスさんと一緒にいた時のことを想い出しては
泣いていました。
1ヶ月が経っても、3ヶ月が経っても、いつまでも、いつまでも、めそめそ泣いてばかり
いました。

そんなとき、金色の服を着たキツネさんが声をかけてきました。
キツネさんには、お父さんもお母さんもいなくて、いつも一人で寂しかったので、みんなに
意地悪ばかりする困りものでした。

ある日、キツネさんが、いつまでも泣いている白クマくんのところに来て
「もう泣くのを止めて、僕と一緒に海を渡ってリスさんの街に行こうよ。
僕は新しく暮らす街を探しにいくところなんだ。」と誘ってきました。

白クマくんは「でも、お父さんとお母さんに怒られちゃうよ。だから僕は行かない。」
と言いましたが、キツネさんは、「大丈夫。キミのお母さんに、君の面倒を見てくれって
頼まれているんだよ。」ってウソをいいました。

それから、白クマくんとキツネさんは毎日少しずつ、2人で乗るお舟を作りました。
そして、お舟が出来た次の日の朝、いよいよ新しい冒険の出発です。
でも、お父さんとお母さんは、白クマくんが新しい冒険に旅立つことを知りません。
キツネさんから「2人だけの内緒だよ」って言われていたからです。
白クマくんはちょっと、心配だったけど、とてもわくわくしながらお舟に乗り込みました。
そして、いよいよ新しい冒険の始まりです。

旅立った海には、今まで見たことのないたくさんの鳥やお魚が住んでいました。
猫の真似が上手なウミネコくん、鳥のように自由に空を飛び回るトビウオくん。
ゆらゆらと流れに任せて泳いでいる差布団のようなマンボウさん。
そこでは、みんなみんな好きなように、飛んだり、跳ねたり、泳いだりしていました。

でも、どこまで行ってもリスさんの街は見えてきません。
とうとう夜になりました。あたりはどんどん暗くなり、どんどん寒くなってきました。

悲しい気持ちになった白クマくんは、キツネさんに尋ねました。
「ねえ、キツネさん。僕、生まれた街に帰りたよ」。
キツネさんは「僕だって帰り方知らないよ。自分で探しなよ。」と言いました。

お舟がさらに進むと、黒い雲が空をおおってきました。
先ほどまで回りにいた鳥やお魚はいつのまにかいなくなり、辺りは真っ暗に
なりました。どんどん、お腹も空いてきました。
そして、冷たい雨が降り出し、ついには雷も鳴り出しました。
寂しくて悲しい気持ちになった白クマくんは、涙をこらえながら
「お父さん、お母さん、助けて」って叫びました。
でも、キツネさんは
「ふん。僕には、お父さんもお母さんも最初からいないんだ。それくらいで泣くなよ。」
と言いました。

白クマくんは涙がこらえきれずに、涙の雫が1つ海に落ちました
その時、突然目の前に、銀色の舟に乗った白ウサギさんが現れました。
白ウサギさんは
「君たちの乗っている舟は、泥のお舟だよ。早くしないと沈んじゃうよ」って
教えてくれました。

白クマくんは素直な気持ちで考えてみたら、泥でお舟を作ったことを
思い出しました。
でも、キツネさんはこう言いました。
「僕たちの舟は泥じゃない。金のお舟なんだ。だから絶対沈まないよ」って。

白クマくんは、白ウサギさんに銀色のお舟に乗せてくれるようお願いして
みました。
白ウサギさんは「はい。どうぞ」と言って乗せてくれました。
キツネさんにも「一緒に帰りましょう」と言いましたが、キツネさんは、
「僕は、新しく暮らす街を探すんだ。僕は強い戦士だから大丈夫なんだ」と
言って、もっと遠いところに向かって旅を続けることにしました。
優しい白ウサギさんは、キツネさんにお舟に飾ってあった白色いメタルを
1つあげました。
「本当に困ったときは、このメタルを握りしめながらお願いしてね」とだけ、
言って渡しました。
そのメタルはとっても綺麗だったので、キツネさんはもらうことにしてお舟に
飾りました。

白クマくんを乗せた銀色のお舟は、たくさんの果物や飲み物でいっぱいでした。
お腹一杯食べてベットにもぐり込みました。
お部屋はとても暖かくて気持ちが良く、ふかふかのお布団の上でいつのまにか
眠ってしまいました。

気がつくと、白ウサギさんのお舟は、白クマくんの生まれた「まぼろし街」に
着いていました。
港に着くと、お父さんとお母さんが心配そうに待っていてくれました。
そして、白クマくんは、白ウサギさんに
「リスさんには会えなかったけど、お父さんやお母さんに会うことが出来たんだ。
白ウサギさん、ありがとう。本当にありがとう」と何度も何度もお礼を言いました。

白ウサギさんは、お舟に飾ってあった黄色と白色と銀色のメタルの中から
「銀のメタル」を1つくれました。
そして「今度お舟で旅をするときは、銀のメタルをたくさん集めてお舟を作ってね」
と言いました。

白クマくんは、また「ありがとう」とお礼をいいました。
メタルをのぞき込むと、そこには白クマくんと、お父さん、お母さんの3人の笑顔が
写っていました。

もう一度お礼を言おうと振り返ると、白ウサギさんのお舟はもうありませんでしたが、
遠い海に銀色に輝く光を見付けました。

その頃、独りぼっちで冒険を続けていたキツネさんは、冷たい雨に打たれ、お腹も
空いて、どんどん悲しい気持ちになっていました。
強い戦士だと思っていたのに、気持ちが弱くなって、いつの間にか弱い戦士になり
おびえていました。
そんな時、暗い海の向こうから、お舟が来るのが見えました。
そのお舟は、黒い色のお舟で、角が生えた赤クマと青クマが乗っていました。
青いクマは、「やあ、キツネさん。良く来たな。今日からお前も俺達の仲間になれ。
君さえ望めば、新しい街で、毎日ごちそうを食べて、好きなだけ遊んで楽しく暮らせるぞ」
と言いました。

でも、キツネさんは、そのことがウソだと、すぐに分かりました。
だって、こんなに暗い海の中に、こんなに寂しいところに、誰もいないところに、
そんなに夢みたいなことがある訳ないと思いました。
それに、キツネさんはいつもウソばかりついていたので、ウソを見破るのがとても
上手でした。
「僕は、僕の生まれた街に帰るんだ。君たちの仲間にはならないよ」と勇気を出して
言いました。

「そうか。それならお前を食べてしまうしかないな。」と赤いクマが言いながら、
キツネさんの服を捕まえました。
キツネさんは逃げようとしましたが、お舟は沈んでいき、逃げたくても前に進みません。
そして、着ていた金色の服をはぎ取られたその時、白ウサギさんからもらった白色いメタルの
ことを思い出しました。
「助けて、ウサギさん。助けて、白クマくん。」とメタルを強く握りしめながら
「もう、ウソなんかつかないから。みんなと仲良くするから。だから助けて。」
と大声で叫びました。
白色いメタルは眩しく光り、それと同時に目から涙があふれ、涙の雫が1つ海に落ちました。

すると、真っ暗だった空が青空に変わり、淡い光りが射し込みました。
今までそこにいた鬼のようなクマも突然いなくなり、目の前にあの銀色のお舟が
現れました。
白ウサギさんは言いました。
「もう、悪いウソはつかない? 意地悪しないでみんなと仲良く暮らせる?」
キツネさんは素直な気持ちになり、
「うん。もう僕こんな怖いところ嫌だ。だからお願い、僕を助けて。生まれた街に帰らせて。」
と頼んでみました。
白ウサギさんは「うん。そうだね。でもこれから、人を騙すようなウソをついてはいけないよ。」
キツネさんは「うん。今度からそうする。」と本気で思いました。
 
白ウサギさんは「それでは、はい。どうぞ。」と言ってくれました。
キツネさんも銀色のお舟の中で、たくさんの果物や飲み物を食べてお腹が一杯になり、
ふかふかのお布団の上でいつのまにか眠ってしまいました。

目が覚めると、銀色のお舟は、キツネさんの生まれた「まぼろし街」に着いていました。
港につくと、そこには白クマくんが心配そうに待っていてくれました。
「新しい街は見つからなかったけど、白クマくんが僕を待っていてくれたんだ。
白ウサギさん、ありがとう。本当にありがとう。」と何度も何度もお礼を言いました。
 
白ウサギさんは、お舟に飾ってあった黄色いメタル1つをキツネさんに渡しました。
そして「これから、白と黄色のメタルをたくさん集めて、お友達をたくさん作ってね」と言いました。
お迎えに来てくれた白クマくんにも、銀のメタルを1つあげました。

キツネさんと白クマくんは、また「ありがとう」とお礼をいいました。
メタルをのぞき込むと、そこにはキツネさんと、白クマくんと、白ウサギさんの3人の笑顔が
写っていました。

そして、キツネさんは白ウサギさんに、「これから、どこへ行くの?」と訪ねました。
白ウサギさんは「ほら、遠くの方に泥のお舟に乗ったイヌくんが見えるでしょ。
また、暗い海で迷っているお友達を探しに、新しい旅に出かけるんだよ」と言いました。

もう一度お礼を言おうと振り返ると、もう銀の舟はありませんでしたが、
遠い海に銀色に輝く光りを見付けることが出来ました。

それからの白クマさんは、まぼろし街で銀の舟を作る仕事を始め、もう泣くこともやめました。
そして、いつかは白ウサギさんみたいに、銀の舟でみんなを助けに行くことに決めています。
キツネさんは、楽しい歌や、やさしいお話を作るお仕事を始め、たくさんのお友達が出来て、
毎日楽しく暮らすことができました。
                                               おわり 
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