「フェアリー」  〜 幻想世界の物語 〜             第1章へ   Home   


序章 〜 出逢い 〜                         2003.5.11


そう。それは冬に差し掛かろうとする薄寒い朝のこと。
あの娘と始めて会ったのはベットから起き上がろうとしたその時だった。
4つの透明の羽を持つ、小さくてとても可愛い妖精が目の前に現れた。


「アナタは誰?」


「初めまして冬美さん。ワタシは妖精と呼ばれている存在です。
フェアリーって呼んでね」

「えっ、どうして私の名前を?」

「だって、いつもそばにいて見守っていました。
 でも、今までアナタが気付かなかっただけなの」


「気付かない? それじゃ、どうして今はフェアリーさんが見えるの?」

「冬美さんはね、たった今、幻想の世界にまぎれ込んだのよ」

「幻想の世界?」


「そう。幻想の世界。
 冬美さんが今まで知らなかっただけで、アナタが今まで暮らしてきた
 現実世界の他に、本当はもっと色々な別の世界があるのよ」

「色々な世界?
 落ち込んで気持ちが沈んだりとか、気分が高揚している時のような
 自分の気持ちの浮き沈みや感情の問題でしょ」


「それとは、まったく違うことなのよ。
 精神状態は今のアナタのようにとても冷静で安定しているけど、
 アナタを取り巻くまわりの状況が今までと違う状態なの。

 これからアナタは不思議な世界を旅することになるの。
 ワタシが、アナタを水先案内するのよ」

「不思議な世界への旅? なにそれ?」

「今まで暮らしていた世界が現実の世界でしょ。
 冬美さんは現実の世界で自分がヒーローになったり、お金持ちになったり
 色々と頭の中で想い描いていたわね。
 でも、それは現実ではないと、ちゃんと理解していた。その世界は空想の世界」

「うん、うん。空想って大好きだった。いつも夢見る乙女でいたかった」

「その空想していた世界を真実であると思いこんでしまった世界。それが、妄想の世界」

「妄想・・・の世界?」

「そう。
 妄想の世界に入り込んでしまうと、空想の世界と現実世界の区別がつかなくなるの。 
 空想に呑まれると、現実世界で生きている人達とはコミュニケーションが
 とれなくなってしまうの」

「ふーん。 何となく解ったような、解らないような・・・」

「今、冬美さんがいる幻想の世界はその中間地点で、いわゆるボーダーライン。
 現実の世界を解っていて、今いる不思議な世界も受け入れている。
 だけど、現実なのか真実なのか分からないけど、アナタが理性的に常識的に物ごとや
 現象を冷静に判断している世界。
 今のこの不思議な感覚が幻想の世界なのよ」

「この不思議な感覚が幻想の世界・・・ねぇ」

「妖精なんてこの世にはいない、と思っていたでしょ」

「うん。確かに、常識的には考えられないわね」

「でも、冬美さんは今、実際にワタシと出逢って、会話して、冷静に判断し
 理解しようとしている。
 だけど、妖精に出逢ったことを現実世界の人達に話したらアナタは病気かな?
 って思われてしまうでしょ」

「うん。確かにそんなこと言う人がいたら、私だってこの人少しおかしいのかな?
 って疑ってしまうわね」


「でも、実際に冬美さんはワタシを見ていて、それはアナタにとって
 今まさに現実に起きていること」

「フェアリーさん。これってどういうことなの?」

「そうね。一言でいえば、冬美さんは今、次元を超えている、ということ」

「次元を超えている・・・の?」

「これから、たくさんの次元を超える不思議な世界を旅するのよ」

「不思議な世界の旅か。
 つまらない日常生活の繰り返しに飽き飽きしていたから、ちょっと楽しみかも」


「でもね。この世界はとても危険な世界なの。本当は、人が来てはいけない世界。
 この世界に呑み込まれると現実世界には戻れなくなることもあるのよ」

「えっ、危険なの・・・」

「いい、良く聞いていてね。
 この幻想の世界が現実にあるということを認識して、理解して、常に常識的に判断すること。
 幻想の世界は、現実の世界とは違うということ、幻想の世界が実際にあるということを
 理解しておかないと、この不思議な幻想の世界こそがアナタの現実になってしまうから」

「現実の世界以外に、幻想の世界がある、ということを理解すればいいのね」

「うん、そう。それから、次元を超える旅と、時空を超える旅があるから混同しないでね」

「時空を超える旅?」

「そう。時間と空間を超える旅。つまり、未来を見てくる旅よ」

「うっそー。そんなこと出来るの?」

「うん、実際にあるのよ。でも、その異次元的な時空間を理解するには、
 これからもっと精神を強化させる必要があるの」

「精神の強化ねぇー・・・?」

「まず最初は、幻想の世界をマスターするために過酷な洗礼を受ける必要があるの」

「過酷な洗礼って?」

「この不思議な精神世界で欲望を捨ててくる試練なの。
 そうしないと、この世界のことや異次元の時空間の存在を感じる能力、鋭い直感、感性、
 感受性などの特殊な能力を身につけることが出来ないの」

「えっ。そんなのどうでもいいよ。今までのワタシでいいよ。それに、かなり危険なんでしょ?
 ワタシもとの現実世界に戻りたいな・・・」


「そうね。その方が安全だし、今までどおりのんびりと楽しく暮らせるわね。
 でも、それはもう無理なの。
 もう、こちらに来てしまったし、アナタがこちらの世界に来る時期とか
 最初から決まっていたことだから。
 アナタには使命が授けられる運命が、生まれたときから決まっていたのよ」

「使命が授けられる運命、って言われてもねぇ。一体、誰から?」

「この世界はね、ほんの一握りの人しか来られない神聖な世界なの。
 神様が創り出した神の真意に近づくための特別な場所。
 古い書物には神様が住む場所として書かれている世界、というか場所なのよ。
 そして、ワタシ達の様な妖精も神様からの特別な使命を受けた現実的な存在なの」

「ねぇ、もう現実世界には戻れないの?」

「そうね。アナタ次第ね。
 間違ってまぎれ込んでしまった人はわりと簡単に戻れるけど、アナタの場合は
 運命として呼ばれてきているから多分無理ね。

 でも、これから試される試練に打ち勝ったらすぐに戻れるし、この世界を自由に
 行ったり来たりも出来るようになるわよ。特殊な能力が授けられるのだから頑張ってね」

「頑張ってね、って言われても・・・」

「それじゃいいかな? そろそろ、しゅっぱーつ」

「ねぇ、ちょっと待ってよ。そんな勝手に決めないでよ。ねぇってばー。
 もう、一体どんなことになるのかな・・・」



「序章」 終わり /  Fairy late 〜 my last teenage wish 〜  倉木麻衣

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