第六話 『邪』-marionette-
ネオジオンニュータイプ部隊と連邦軍月軌道上奪還作戦部隊の戦闘開始から数分が経過していた。当初の連邦艦隊の統制射撃はプルツー達の機体をかすることもなく一気に間合いを詰められ、艦隊の陣営内にその進入を許していた。ジェガンを主力とするMS部隊がなんとか戦艦への攻撃を防いでいる状況だった。
『9機目っ!!』
プルツーの宣言と同時にファンネルから放たれた光がジェガンを白光球に変える。もはやこのようなMSの混戦では戦艦の主砲では援護のしようが無かった。乱戦に突入してしまえば少数でも個々の戦闘能力が圧倒的に高いプルツー達に分がある。当然それはプルツー達の計算の内だった。
『意外と手応えがないものですね。』
プルフォウはビームサーベルでジェガンの攻撃を受け止めると、側面からファンネルをジェガンの頭部に照射し、戦闘不能にした。
『そっち!!』
シックスが仕掛けた攻撃をからくも避けたジェガンはエイトの真正面に出ていた。
『りょーかい!』
何故か別々の小隊のはずのシックスとエイトが連携して攻撃を行っている。これはプルツーのミスだ。この二人が連携をとったほうがいいことを忘れていたのだ。しかし当の二人はそんなことはおかまいなしに次々とジェガンを破壊している。
『旗艦はあのラーカイラムのようですね。あれを撃破すれば、敵の指揮系統はずたずたになり艦隊の戦闘能力が著しく低下するかと。攻撃するなら今です。・・・小姉さん?』
プルスリーは冷静に戦況を分析していた。
『わかってる!あれは・・・・・私がやる!』
そう言って進行方向のジェガンを続けざまに2機、ファンネルで撃破すると、ラーカイラムに急速接近した。
『・・・ブライト、悪いけど・・・堕とさせてもらうよッ!』
プルツーはラーカイラムを正面に見据えると、胸部のハイメガ粒子砲の発射体制に入った。
『敵MSが!!』
オペレーターの絶望の声がブリッジを包んだ。
『プルツー・・・君なのか?皮肉なものだな・・・。』
ブライトは目を閉じた。
胸部が輝きを増し、まさに発射しようとしたその瞬間
『プルツー様!大変です!』
突然通信でハウエルの声がコクピットに響き渡る。しかもミノフスキー粒子の影響で雑音もひどい。
『なんだハウエル!戦闘中だぞ!!』
プルツーは攻撃を止める人を待っていたかのようにクインマンサmkUを反転させ、ラーカイラムから急速に離れた。
『・・一大事です!!タウ=リンが裏切りました。ミネバ様がアウーラの中に・・・。我々はすぐにアウーラに向かいミネバ様救出に尽力します。プルツー様もどうかお力ぞえを!』
『なに・・・タウ=リンが?・・・わかった。私も今すぐ助けに行く!』
『お願いしますぞ!ヤツは・・・タウ=リンはシッガルトに向かっています。おそらく地下の核燃料が狙いかと・・。』
『シッガルトの宙域だな?わかった!』
(死んではいない・・・ミネバの気配・・・確かに感じる。でもそれはアウーラからじゃない。ハウエルのヤツはったりに騙されたな。)
プルツーはタウ=リンのプレッシャーとミネバのプレッシャーが明らかに違う場所から放たれているのを感じた。だが、何故かプルツーは行く必要のないはずのアウーラにどうしても行かなければならない感覚に襲われた。
(だけど・・・気になる!なんだこの感じ・・・。アウーラに何があるというんだ・・・?)
『ツー姉様、こっちはどうするんです?』
プルフォウ達が戦闘を中止してプルツーの周りに集まってきた。
『十分この艦隊の戦力は削いだ。この宙域から離脱する!』
プルツーは言い終わると、元来た方向に向かってクインマンサmkUのテールノズルを全開にした。プルフォウ達もそれに続く。
『撤退した・・・?どういうことだ?』
ブライトには目の前の事態がまるで理解できなかった。ただ、今のパイロットがプルツーであることは何故か確信としてあった。
ブライト達のいた宙域を離れ、しばらくして
『では私達はアウーラのいるシッガルト宙域に向かうのですね?』
『・・・いや、行くのは私だけでいい。』
『小姉さん!?何故です!!?』
プルスリーが割って入る。
『スリーは皆の指揮を取って、ルナツー艦隊を抑えて。ネオジオン本隊だけじゃ勝敗は見えてるから・・。私達全員がアウーラに向かうことはできない・・・。』
『でも!!あの男は危険です!小姉さんに何かあったら・・・』
『すぐにハウエル達と合流するから大丈夫。それにこのクインマンサ、いくら新型だからって1戦艦如きにやれると思うのか?』
『そう・・・ですね。わかりました。』
『ツー姉様の為に・・・ツー姉様の望む通りに・・・!』
プルファイブはプルツーへの応えとも独白ともいえない大きさの声を出した。
『・・・・ツー姉様。アウーラにはメイファ様は・・・』
プルフォウは当然メイファのプレッシャーを感じていた。
『わかってる。私も感じた。でも・・・何かがおかしいんだ。アウーラから感じるんだ。プレッシャーとか、そういうんじゃない。なんか漠然とした引力のような・・・・。』
『?・・・私には何も感じませんよ。』
『フォウが何も感じない?じゃあ誰かの波動とか、そういうんじゃないんだと思う。でも・・・行かなきゃ!!』
(ツー姉様は私にはわからない何かを感じとっている・・・?)
『・・・では、何かあったらすぐに駆けつけますよ、それはよろしいですね?』
『うん・・・。ありがとう、フォウ。』
そしてプルツーはプルフォウ達と別れ一人シッガルト宙域に向かった。
『では、ここからの指揮は私が取りますね♪』
『フォウ・・・。私が取ります。あなたは私の指揮下でシックスとエイトの指揮!小姉さんがさっき言ってたでしょ!』
『スリー姉様〜、シックスとエイトの面倒みてなんてツー姉様は言ってませんよ。』
『・・・!!! 待って!たった今ルナツー艦隊が動き出したみたいです。急ぎますよ!!』
プルスリーを先頭に一斉にスラスターを全開にして移動を開始する。
『はぐらかしましたね・・・』
プルフォウも渋々それについていく。
その後プルスリー達がルナツー艦隊と接触するよりも早く、プルツーはシッガルト宙域に入り、アウーラを捕捉していた。もうアウーラのレーダーにも探知されているのだろうが、そんなことは気にしなかった。プルツーはアウーラを攻撃射程内に捉え、ハイメガ粒子砲を発射した。
『タウ=リン、貴様に救いの道などない・・・消えろ、不愉快なヤツ!』
だがそのビームはアウーラに届くことなくかき消えた。
『なにっ!?戦艦にIフィールドだと?それも一部メガ粒子化してるほど強力な・・・・』
『クインマンサか・・・・。さずがに行動が早い。ハウエルとは違うというわけか?』
タウ=リンは不敵な笑みを浮かべた。
『遠距離ビーム攻撃は無意味だな・・・。ならッ!』
プルツーは迷うことなくクインマンサmkUをアウーラに向かって突っ込ませた。
『フン。この程度のバリア!』
クインマンサmkUの強力なIフィールドはアウーラのバリアをものともせず、強引に突破した。
プルツーはアウーラのブリッジの正面にクインマンサを移動させ、タウ=リンの姿を視認した。
『終わりだな、タウ=リン!!』
『ふん、プルツーか。ミネバ=ザビの命、どうなってもいいのかな?』
通信でタウ=リンの声がコクピットを包む。それでプルツーはますます不愉快になった。
『わたしにはったりは通用しないよ、タウ=リン。ミネバの気配はそこにはない。覚悟するんだな!』
そう言ってプルツーは無数のファンネルを射出した。
『所詮強化人間に練れる謀略なんかサルの浅知恵以下だと知りなっ!!』
『小娘が・・・知ったふうなことを言いやがる・・・! だが!!』
タウ=リンは再び通信を開く
『流石プルツー、と言いたいところだがお前にこのアウーラは手出し出来ない。』
『戯れ言を!!』
ファンネルの先端がメガ粒子の輝きに包まれた。プルツーが発射しようとしたその刹那
『ルチーナとかいう小娘の命が大事ならな・・・。くっくっく・・・』
タウ=リンの口から想像もしなかった単語を耳にしてプルツーは慄然とした。
『なに!!?ルチーナ!!?』
(確かにルチーナの気配を感じる。なんでいままで気づかなかったんだ!?)
動揺するプルツーを尻目にタウ=リンは言葉を続ける
『感じるんだろう・・・?オレが嘘を言っていないことがわかるんだろう・・?くくくく・・・・。』
『な・・・!』
(なぜだ?なぜヤツがルチーナを・・・。それになんで私とルチーナのことを知っている!?私はともかくルチーナはジオンでもパイロットでも何でもないのに・・!)
『不思議に思っているようだな・・・。なんでオレがそんな小娘を知っているのか。理由は簡単だ。ひとつ、面白い事を教えてやろうか?お前の乗っていた定期船の事故はヌーベルエゥーゴによるもの・・』
『・・・・!!』
(定期船・・・?事故・・・。ルチーナと一緒に私は乗っていた・・・・・・はず・・。思い出せなかったのは・・・。)
『お前が乗っていたのはわかっていたからな。ネオジオンとの交渉を有利にする道具としたわけだ。だがそれだけじゃあない。ミネバがいなくなればネオジオンの擁立する人間はお前だ。お前には俺の操り人形として動いてもらおうと思ってな。楽しいショーを邪魔されちゃあ、かなわんからな。』
『そんなこと・・・!!』
『状況が理解できたか?わかったらこのアウーラの護衛をその化け物MSで必死こいてやるんだな。連邦のうるさいクズ共をだまらせろ。』
『クッ!』
(ルチーナ・・・。どうすればルチーナを・・・。タウ=リン如きの奸計に・・・。私は・・・、私は・・・・・・・・・・・・・。)
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タクナ=S=アンダースンはベクトラからZブロンプトに搭乗して逃走したメイファを追っていた。メイファが救助を求めたネオジオン部隊との交戦中に彼女を見失ってしまったのだ。
『くそっ、彼女の機体は・・・?・・・!あれは・・・敵新型艦!』
(もしかしたらあそこに・・・)
タクナはアウーラを捕捉すると、ZプルトニウスをWR形態からMS形態に戻し、さらにアウーラに接近した。だが、その瞬間何か巨大な人型の物体が正面スクリーンに映し出された。
『な・・・、何だこいつは・・・!MS・・・なのか?』
『ここから先は・・・通さない!!』
プルツーの悲痛な声がその宙域を満たした。