第五話  『歪』-weltall-

レウルーラ艦内

『ハウエルはいるか!?』

『プルツー様!今までどちらに!?もうメイファ様たちはゼブラ基地に向かって降りられましたぞ。』
突然ブリッジに入って来たプルツーとプルフォウにハウエルは訝しげにたずねた。

『ちょっと・・・やることがあったんだ。それより状況はどうなってる?』

『現在艦隊の稼働率70%強です。地球連邦軍の方に動きは見られません。』
そう答えた者はブリッジのオペレーター要員にプルツーは見えた。

『シッガルトが私達ネオジオンに制圧されたままですからね。あっちから行動は起こせないでしょう。』
プルフォウが冷静にそう指摘した。・・がどこか楽しげに見える。

『メイファ様のアウーラの発進を確認次第、全軍状況を開始します。それまではゆっくりしていて下さい。』

『・・・わかった。』
(気づいてないようだな・・・)
プルツーはメイファの事をまだ兵達が知らないと理解して、とりあえず安心した。

『MSデッキの方には行かれましたか?』
不意にハウエルがプルツーに聞いてきた。

『いや。・・・何でだ?』

『もうツー様のMSの組み立ては終ったみたいですぞ。今は最終チェックに入ってるようです。一度覗きに行かれ
ては?』

『そう・・・。私のだろ?フォウ達のはどうなってるんだ?』

『詳しくは存じませんが・・・。大体出来上がってるようです。』

『じゃあ・・・見に行こう。』
そう言うが早いかプルツーはブリッジから出ていた。

『では失礼しますね。』
プルフォウは苦笑しながらハウエルに軽く頭を下げるとプルツーに続いた。

『・・・・己が人の命を断ち、その肉叢を食ひなぞする者はかくぞある、とはよくいったものだ・・・。』
プルフォウの後ろ姿を見送りながら、ハウエルは自嘲気味にそう言った。

通路に出て、二人はMSデッキに向かって並んで歩いている。
『メイファの事・・・』

『ハウエルは知らないようですね。おそらく兵達には伝わっていないものと・・。』
プルツーが言い終る前にプルフォウはそう答えた。

『いずれにしてもセブンに・・・』

『もう動いてもらってますよ。まだ確かなことはわかりませんが、タウ=リンの行動には不明な点が多々あるよう
です。』

『やはりな。ミネバの波動が消えたのに前後してあいつのプレッシャーを強く感じた。』

『やっぱりツー姉様も気づいてましたか。ですからセブンには引き続きあの男の情報を探らせます。』

『うん・・・。』

『心配なさらずとも、ルチーナ様の捜索も平行させますよ。』

『えっ!!?あ、うん・・・た、頼む・・。』
プルツーは考えてることをズバリ指摘されて赤くなった自分の顔を隠すようにうつむきながら、声を上ずらせて、
何とかそう言った。
『そ、それにしてもタウ=リン個人の策謀か、ヌーベルエゥーゴ全体が裏切ったと見るべきか・・。』
そう言いかけてから、動揺してわかりきったことをプルフォウに聞いてしまったのをプルツーは後悔した。

『あの組織の性質から考えてタウ=リンが動いたというなら後者ですよ。どうしたんです?ツー姉様だってわかっ
てるはずでしょう?ルチーナ様のことばかり気にしていても状況は進展しませんよ♪』

『わ、わかってる!!今は目の前の事態に集中しないといけないってことぐらい!』
プルツーは急に早足になった。

『はいはい。・・・あ、もうすぐMSデッキですよ。』
プルフォウはにこやかに言った。

 

レウルーラMSデッキ

『あッ、プルツー様!』

『もう調整は済んでいるのか?』

『はっ。ナイン様が手伝って下さったおかげで・・・』

プルツーは並んでいるMSの一番手前を見やって、
『これがクインマンサMkU・・・。前のと何が変わってるんだ?見た目は同じだけど・・・。』

『キュベレイMkUと同じくマイナーチェンジにとどまっていると言えばそうなりますが・・・出力、ファンネル搭載数
スラスター全てが向上しています。サイコフレームを採用していますし・・。』

『要するに強化型だろ?』

『ええ、まぁ・・・そうなりますけど・・。』

『私のMSは出来上がっていますの?』

『はい、もちろん。フォウ様達のニュータイプ専用MSは戦力の要ですから。寝る間も惜しんで最優先に仕上げま
した。フォウ様の機体はこちらのゲーマルクです。』

『・・・あまり良い思い出のないMSね・・。』
キャラとの戦闘がプルフォウの頭に浮かんだ。このMSのせいでプルフォウは他の姉妹ともども脱出ポッドで宇
宙漂流するはめになったのだ。新生ネオジオンに助けられたとはいえ、忘れられるわけがない。

『え!?・・も、申し訳ありません!』

『いえ、別に構いません。・・これもサイコフレームを採用しているのですね?』

『・・はい。あとはスリー様用にヤクト・ドーガ、それと量産型キュベレイが以前ツー様が御搭乗されたのを含めて6
機程・・・。』

『いつでも出撃できるということか?』

『はい。』

『まだ出撃まで時間がありそうですね。どうします、ツー姉様?』

『私はここでクインマンサのサイコミュの連動をチェックしてる。』

『わかりました。私はスリー姉様達の所に行ってきますね。』
プルフォウは最終調整をメカニックマンに任せて、その場を離れた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『アウーラの発進を確認しました!!』

『よし!オープンチャンネルで回線を開け!』
ベルム=ハウエルは一呼吸おくと、ゆっくりと口を開いた。
-『我が声を聞く全ての良識ある者に告げる。我等ネオジオンは人民のための正義を遂行する!過去において・・・』-

ハウエルの宣戦布告がクインマンサのコクピット内に広がっている。
『出撃か・・』
サイコミュの調整も終えて、プルツーはコクピット内で待機していた。

『どうなさいました?ツー姉様』
プルフォウも既にゲーマルクに搭乗している。

『戦力的には連邦の方が圧倒的に有利だ。それをひっくり返すためには・・・私達が先行して反撃の隙を与えず
一気に叩く!!そして隊形が乱れたところをネオジオン本隊で殲滅。スリーはファイブ、エイト、テンの指揮を。フ
ォウはシックス、ナインの指揮を頼む。私が総指揮をとるから。』

『承知しています、小姉さん。』
まじめにそう答えるのはさっきまで仮眠していたプルスリーである。

『寡兵よく敵を制すってわけですか。ではセブンは引き続きメイファ様、それにルチーナ様の捜索ですね。』

ハウエルの声はまだ聞こえていた。
-『・・・そして正義を解する者は立つのだ。今こそ連邦の愚劣な支配を切り崩す最大の時である!!』-

『MS隊発進願います!』
射出管制所からの声が響く。

『クインマンサMkU、プルツー機行くよッ!!』

『ヤクト・ドーガ、プルスリー、出ます!!ファイブ、エイト、テン続いて発進!』

『・・ゲーマルク、プルフォウ、行きます。同所属小隊はついて来てくださいね。』

プルツー達ニュータイプ部隊がネオジオン軍の先陣をきって、連邦軍に迫る。

『前方のMS隊はそれほど大規模ではないようです。機種確認・・・。ほとんどがジェガンタイプですね。』
プルスリーは冷静に分析した。

『了解。準備は・・・いいな?』

『はッ!』

クインマンサMkUは敵陣に向かいテールノズルを全開にして突っ込んでいき、その速度を衰えさせることないま
ま、ファンネルを射出。スリー達もそれに続く。

『何だこいつら!?全部ニュータイプ専用機じゃないか!!』

『ひるむな!!数の上では・・・』ド・・・ン
言い終える間もなく撃墜される。

『くそっ、情報と全然違うじゃねえか!!どうするんだよ!!?』

『ままよッ!』
そういった連邦軍兵士は無我夢中にビームライフルを乱射した。

ジェガン数機のビームライフルから放たれたビームはクインマンサに届くことなくかき消えた。両肩のバインダー
に搭載されているIフィールドジェネレーターから発生するビーム偏向フィールドの影響である。間髪入れず、全方
位から無数のファンネルによるビームの嵐が襲う。次々と閃光と化していくジェガンは残った者の戦意を喪失さ
せるに充分だった。その空気にとどめを刺すかのようにネオジオン本隊が遅れて進行してきた。

連邦軍の通信に怒声が舞う。
『何が小規模な戦力だ!大隊並みじゃないか!!』

『これだけの数、情報局が知らなかったのか!!』

『そんな筈があるまい』

『じゃあ何故!!』

『俺達は金で売られたんだよ!!』

驚愕と絶望の声で包まれる中、次々と連邦のMSが宇宙の塵となっていった。

『交戦中の敵MS隊はもうボロボロだ。あとは後続の本隊に任せて私達は別部隊を叩きに行く!』
言うが早いかプルツーのクインマンサMkUは戦闘空域から離れていた。

『意外と脆いものですね?』

『UC100年を期に大軍縮しようっていうくらいだ。力なんてあるものか。』
プルツーは自分で言って、本当にそれが真実だと感じた。

『なるほど・・・そうかもしれませんね。・・・・・・このまま行くと月軌道上に出ますよ。ルナUの連邦軍の艦隊はまだ
出てないようですが、どうするんですツー姉様?』

『ああ・・・。そうだな・・・環月方面艦隊でも叩くか。じゃあ・・・進路修正!』

『待って下さい・・・。最大望遠・・・・、確認しました!正面に敵艦隊!!どうします、小姉さん?』

『あれは・・・ラーカイラム・・。ブライト=ノア・・・?』


ラーカイラム・ブリッジ

『敵MS隊、左舷から急速接近中!!』

『何だと!!?索敵班、何をやっていた!!』

『暗礁空域に隠れてました!ミノフスキー粒子の濃度も濃く・・・』

『言い訳はいい!!敵MSの機種は?』

『機種確認!キュベレイタイプ6機、ゲーマルク、ヤクトドーガ、クインマンサ各一機!』

『クインマンサだと!!まさか・・・?』
(いるのか?・・・彼女が・・。)

『艦長?』

『・・・いや。MS隊発進!敵は全てニュータイプ専用MSだ。絶対に単独での戦闘行為はするな!!各機互いに
援護行動をとれ!ビットに気を付けろよ!!艦隊はMS隊を射出後、統制射撃を行う。十秒に一連射だ。MS隊
は砲撃の火線を迂回させろ!』

 

『何だろう・・。ラーカイラム・・・。なんでこんなに懐かしい感じがするんだ?初めて見たハズなのに、まるで・・・い
や、内部の構造まで手に取るように分かる・・・。一体・・?』

『小姉さん!!?』

『・・・え?』

『どうしたんです?攻撃の命令を。』

『あ、ああ・・・。!・・MS隊が出てきたみたいだ。』

(ツー姉様の記憶・・・戻りつつある・・?)
プルフォウにはそう思えた。

『考えてる暇はないな。・・・攻撃開始。』

ラーカイラムを旗艦におく連邦軍月軌道上奪還作戦部隊とネオジオンニュータイプ部隊の戦闘が今始まる・・?

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