第四話  『惑』-axis-

『こんな感じでどうだ?』
プルツーがなにか書いた紙をプルフォウが受取る。とても楽しそうだ。

『ちょっと見せてください。・・・・ここの表現はこう変えたほうが面白いですよ?』
そう言って指摘した個所をトントンと叩く。

『うーん・・、そうか?このままでも大意は掴めるとおもうけど・・・。』

『何言ってるんですか、ツー姉様!せっかく連邦に一泡吹かせたんだから、もっと卑下しないと。大義は私達にあ
るということを彼らに思い知らせる必要があるんですよ。』

『わ、わかった。じゃあ・・・・これでいいな。ちょっとフォウ読んでみてくれ。』

『9月3日 AM09時00分において我々ヌーベルエゥーゴ ネオジオン共同軍はシッガルト発電基地を完全に掌握
した。これより40時間以内に電力供給の再開がなければ月面各都市に深刻な被害を与える事になるであろう。
 旧世紀の悪法 連邦法をもって金科玉条の聖典とし、スペースノイドの血税をすすり、私腹を肥やし、強大な軍
備をもって人民をダモクレスの剣下に置く地球連邦に我々は当然の権利として策謀をもって望む。
 ここに我等は要求する。一つ、全ての政治思想犯の釈放。一つ、不当拘留及び軟禁されている旧ジオン系の
技術者の解放。そして---アクシズおよびネオジオン艦艇の返還である。一時間以内に全メディアを通して回答
そして20時間以内に履行されなければ我々は必要なオプションを全て使用する。履行の後は即時に電力の供給
再開と撤退を約束する。我々は殺人者にあらず。くり返す 我々は核燃料を含むシッガルト基地の全てを掌握して
いる。まあ・・・・とりあえずはこんなところですか♪』

『なにもツー様達が声明文を考えなくても・・・』
ハウエルは苦笑いしながらプルツーとプルフォウのやりとりを見ていた。

『今は待機中で暇なんだから、別にいいだろ。それより声明文できたからすぐに出してくれ。』
そう言ってプルツーは手書きの紙をハウエルに手渡した。

『承知しました。では連邦の出方を楽しみに・・・。そうそうメイファ様が何やらお話があるそうです。ブリーフィング
ルームでお待ちしております。』

『わかった、すぐ行く。』

『よろしくお願いしますぞ。』
ハウエルはそう言い残して部屋を後にした。

ハウエルが出ていったのを確認すると、プルツーはロックをしてからプルフォウに近寄った。
『・・・・で、ルチーナのことなんだけど・・・。』
突然プルツーの表情が険しくなる。

『はい・・・。既にセブンに情報を集めさせていますけど、今のところはまだ何も・・・。』
さっきまでの妙な明るさが嘘のように沈んだ口調だ。

『そう・・・。』
プルツーの表情が目に見えて曇る。

『心配なさらないで下さい、ツー姉様。絶対ルチーナ様はご無事でいらっしゃいますよ。』

『わかるのか!?フォウの感応力で!!』

『いえ・・・単なる勘です・・。』
プルフォウはばつが悪そうに下を向いた。

『・・・ありがとう。メイファのところに行くよ。』
プルツーは寂しげな微笑を見せると、ふり帰って部屋を出た。

『あ、私もいきます!』
プルフォウはプルツーの後を追いかけてブリーフィングルームへと足を運んだ。

『メイファ、プルツーだ。入るぞ。』
中に入ると、メイファが一人で座っている。

『プルツー・・・。そこに座って!!』
何やら怒ってるようだ。

『どうしたんだ、一体?』

『どーしたもこーしたもないでしょう!まだ制圧が済んでいないシッガルトに生身で潜入するなんて一体何を考えて
いるの!!?無事だから良かったけど、命の保証なんてなかったのよ!』

『え・・・、いやそれはその・・・』
(ちょっと待て。・・なんでメイファが知っているんだ?おかしい・・・・。)

隣を見るとプルフォウが先程とはうって変わって、たのしそ〜にニコニコしている。

(ま・・さ・・・か〜・・。フォウのヤツ・・・)
プルツーは頭が痛くなった。

『ちょっとプルツー、聞いてるの!!?』
そんな二人の思惑(?)はつゆ知らず、メイファはえらい剣幕だ。

『え・・?』

『え・・じゃないでしょう!!ただでさえ危険な任務なのに。プルツーはMSに乗らなければ普通の女の子なのよ!
警備兵に見つかったらどうするつもりだったの!?』

『心配ない、私はそういった戦闘訓練も充分に受けている。銃も携行していたし・・・。』

『プ・ル・ツー?』
メイファがプルツーに顔を近づける。

『い、いや命令違反をして悪かった。私は・・・、ただ私は自分のコトを知りたかっただけなんだ・・・。
そう言ってうつむいた。

『今、何て・・・?』
プルツーが急にしおらしくなったのでメイファは心配そうに聞いた。

『なんでもない・・・。もうしないから。』
顔を上げたプルツーはいつものりんとした表情に戻っていた。

『・・・あなたはネオジオンにとって無くてはならない存在なの。それだけは忘れないで。それに・・・私・・本当に打ち
解けられるのもツーだけなんだから・・・。』
メイファは、プルツーのこの危うさゆえに彼女がいつか離れていってしまうように思えて怖かった。

『うん・・・。じゃあ、部屋に・・戻る。』

ブリーフィングルームを出て、プルフォウと並んでプルツーは部屋までの通路を歩いていた。声明文への連邦の
返答が出るまでは待機中なので特にやることはない。量産型キュベレイの整備も既に終えていた。

『フォ〜ウ〜』

『どうしました、ツー姉様?』

『メイファに教えただろ』

『ええ、もちろん♪だから潜入は突撃隊に任せて下さいと言いましたのに♪』

『・・・・』
(これじゃあギラドーガ隊の兵士を脅して口止めしといた意味がまるでない・・』

『やっぱりそうでしたか。』
プルフォウは意地悪そうな微笑みを浮かべる。

(これだ・・・)
『・・・何か凄く疲れた。』

『ゆっくりお休み下さい。その間私達全員でルチーナ様の捜索を続けますから。』

『そうさせてもらう・・。』


プルツーが部屋に戻って間もなく、TVによるテロに対する連邦議会決定事項の表明がなされた。G8によりゴー
ルドマンの意見は潰され、全面的に要求を飲むというものであった。これにより実に6年ぶりにアクシズはネオジ
オンの手に戻ることとなったのである。それを受けてメイファ達は今まさにアクシズ宙域に向け発進しようとしてい
た。

『それにしてもこうもあっさり要求を受け入れるとはな。あのゴールドマンが』
ハウエルはまだ半信半疑にそう言った。罠という可能性も0ではなかったからだ。

『G8の奴等が動いたのでしょう。彼等は自分のことしか考えていない。』
サイディには連邦というものの本質がよく理解できた。

『月にはアナハイム本社のほか、重要人物が数多くいますからね。奴等なら手放す真似はしないでしょう。』
TVを見ながらウモンはそう言った。

『では首尾よくアクシズへ帰還致しましょう。ネオジオン艦艇の炉もいれなければなりませんし。いかに連邦といえ
ど、いつまでも手をこまねいているわけではありますまい。事は急を要します。』

『アクシズ・・・戻るのかあそこに・・・。』

『どうしたの、プルツー?』

『いや・・・私にとってアクシズは故郷なんだなって・・・、思い出してた。』
(だけど懐かしいとか・・、そういう感じじゃない。MSの操縦テスト、戦闘訓練・・・、そんなのばかりだったからな。)

『それは私も同じ。物心ついた時にはアクシズにいた・・。』
(シャアも、ハマーンも、あそこにはみんないたな・・・。みんな、みんな私から離れていった・・・・。)
しかし今の彼女にはウモンもサイディもハウエルも、そしてなによりプルツー達がいる。それがミネバを安心させ
ていた。

『でもアクシズはロンド=ベルの爆破工作で2つに分かれたんだろ?』

『接合は3年前に完了してるの。』

『そう・・・。』
(ならあの場所も・・・・)

『・・・・この調子だとアクシズまで1時間ちょっとというところですね。』
(ツー姉様・・・グレミー様のことを考えている。何故・・?)

『他の船はどうなってる?ヌーベルエゥーゴもちゃんとアクシズに向かっているんだろうな?』
プルツーは近くの兵に聞いた。

『確認とれました!先行してるものもいます。』

『ここまでは順調ね。でも気を引き締めて。アクシズと艦艇を取り返してからが本当の戦争になるから・・。』

その後アクシズに到着した一行は艦艇の稼動を急がせるとともに自分達はアクシズ内部に入港した。


アクシズ内

『帰ってきたんだな・・・11年振りに・・。』

『はい。私たちにとっては5年振りですけど・・・』

『メイファ達は?』

『アクシズ内部の最奥に向かいました。武器庫の他、様々な物資がありますから。』

『ふーん・・・。それじゃあ、まだ時間はあるのかな?』

『出撃命令はまだ何も出てません。しかしここで待機・・・』

『なら、行こう。』

『え?ツー姉様どちらに!?』

『グレミーの・・・いた所。』

プルツーは何かに惹かれるようにアクシズのさらに奥へと向かっていった。プルフォウはその行動に戸惑いなが
らも後についていった。かつての居住区域の中は当時のまま、クインマンサとガンダムチームの戦闘の傷痕をあ
りありと残していた。それはさながらグレミーという男の広大な墓標のように見えた。この区域は連邦に接収され
てからも放棄されていたため何の変化もなく今にいたっている。そして二人はその中を歩いていた。

『ここで私は・・・ジュドーに助けられて・・。そう・・グレミーの魂はあの時からずっとここに1人でいるんだ・・。』
ひときわ破壊の大きい地点でプルツーは立ち止まり、そう言った。

『あの方はどんな思いで滅んでいかれたのでしょうか・・・?』

『グレミーのいたクインマンサは爆発して・・私はその爆風で飛ばされた所をZZのマニピュレーターに受け止めら
れた・・。痛くはなかった。ただ、寒かった。悲しかった・・。グレミーのところに行くんだなって・・・。』

『でもこうしてツー姉様は生きてます。』

『一人じゃない気がしたんだ。だからまだ・・・』

『それはルチーナ様のことですか?』

『なっ!!(真っ赤) ・・・違う、そうじゃない!姉さんの意思が体を通して伝わって・・。』

『・・・・・』

『グレミー・・・、もう行くよ。また来るかはわからない。』

『全てはグレミー様のために・・。この作戦必ず成功させて見せます!』
プルフォウは瞳を閉じて、静かにそう言った。


同時刻・・・メイファはタウ=リンの突然の裏切りにあい、ウモンとサイディの決死の抵抗も虚しく、搭乗している貨
物船ごと重力に捕まり既に突入コースに入っていた。タウ=リンの強化による歪んだ心はネオジオンの思惑を大
きく超え、ハインライン計画という人類の存亡に関わる悪魔の作戦が現実のものになろうとしていた・・・。

『!!!!?』

『どうしました、ツー姉様!!?・・・・これは・・・。』

『メイファ・・・?波動が・・・消えた?』

『メイファ様の身になにかが!?急いで戻りましょう!!ハウエル達に知らせないと!!』

『待て、フォウ!!』

『ツー姉様?』

『今、メイファが行方不明になったなんて兵が知ったら艦隊の士気にかかわる。これから連邦と戦うんだぞ。
私たちで探すしかない。セブンに急いで連絡を取るんだ。もしメイファの事を察知している兵がいたらまずい。
そうなら情報を操作しないと・・』

『でもルチーナ様の捜索は・・・』

『・・・・今は仕方ない。』

『わかりました。とりあえずネオジオン艦隊の旗艦、レウルーラに向かいましょう。こっちです!』

意識がないミネバからは彼女達もプレッシャーを感じ取ることはできなかった。そのため流石のプルツー達もまさ
かミネバがタクナのZブロンプトによりベクトラに救助されているとは思いもよらなかったのである。その一方でネ
オジオンと連邦の艦隊戦は刻一刻と迫っている。

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