第三話   『侵』-sitgalt-

『ふーん、降りてきてまたすぐ宇宙に上がるのか。』
北極基地「ゼブラ」の寒さにも慣れないまま、プルツー達は宇宙に上がる準備を始めていた。

『ええ、そろそろMSの組み立ても終わってるだろうし、計画を実行する日が近いわ。』
メイファはノーマルスーツを着ながらそう答えた。ここはシャトルの中である。

『そういえばその作戦計画の内容、聞いてなかった。』
プルツーは今のネオジオンの戦力で連邦をどうにか出来るとは思えなかった。その認識に間違いはない。実際問題と
して、現在の時点ではろくな艦艇もなく、MSも連邦の一個大隊程度の戦力しかなかったのである。

『ツー姉様、それは私が説明しますね。』
プルフォウがツーの後ろから突然話に割って入る。どうも楽しそうだ。
『現在の私達ネオジオンの戦力で連邦を覆すことは物理的に不可能です。そこで係留されているネオジオン艦艇とア
クシズそのものを奪回します。』

『?・・・アクシズと艦艇の奪回?なんでそんなものがまだ存在してるんだ?第二次ネオジオン抗争って今から6年も前
なんだろ?』

『それが連邦のやることです。アクシズの戦闘、生産システムも拿捕された艦艇も解体されないでそのまま外軌道に係
留されているんです。』

『正気とは思えないな。』
プルツーは地球連邦が11年たっても、何一つ変わってない事を知って呆れた。今現在の自分の立場に間違いはない
・・・そう感じた。
(だが・・・、それでも連邦に勝てる見込みは薄いな・・・。)
プルツーは相変わらずリアリストだった。

『ええ。でも係留されてるのに変わりはありませんから、強引に奪回するのは難しいんです。そこで、これからが作戦概
要なんですが、まず月面上の各発電所のマイクロウェーブ発進機をミサイル攻撃で破壊します。その上で月の最大の
発電基地シッガルトを制圧します。さらに各都市のゲート、宇宙港を爆破。これにより・・・』

『大体のことはわかった。それを使って連邦に脅しをかけるんだな。』
プルフォウが言い終る前にそれを遮ってプルツーはそう言った。

『はい。さらにシッガルト基地には核燃料も存在します。』
プルフォウはこころなしか多少ムッとしているように見えた。どうも説明を中断されたのがイヤだったらしい。

『・・・・・・そう。で私は何をすればいいんだ?任務は?』
プルツーはフォウの様子にまるで気づいていない。

『ツー姉様はシッガルト基地制圧の任についてもらいます。MSによる基地のセキリュティMSの撃破がその作戦任務
内容です。危険ですからシッガルト基地内部への突入は別働隊に任せて下さいね。』

『わかった。久々のMS戦の感覚に慣れるにはちょうどいい。』

『ごめんなさい、プルツー・・。本当はあなたにこんな危険な任務をやらせたくはないんだけど・・・・。』
メイファはプルツーを戦力として使うのに抵抗があった。共にネオジオンを掲げる者であってほしい。だが、かといって
プルツーのパイロットとしての力量は何物にも代え難いものがあるのも事実だった。

『戦力が足りないんだろ?わかっている。私は構わない。』

『プルツー・・・・ありがとう。』
メイファは心からそう思った。

(それに・・確かめたい事もあるしな・・・。)

『?何か言った、プルツー?』

『い、いや何でもない』

『・・・・・?』
メイファは少し気になったが、もうすぐシャトルが出発するので自分の座席に移っていった。

(ツー姉様・・・。)
フォウはプルツーの企み(?)に気づいたようだった。

-『間もなくシャトルの出発時間です。』

『あっ、プルツーはハウエルとともに月面上の貨物船「ランブリン」に合流してね。私とウモン、サイデイはサイド2の工
業コロニー、アムリツァール自治領区に向かいます。このシャトルで月に向かうから、私達は普通にサイド間の定期船
でサイド2に向かうわ。』

『そんな所になんの用があるんだ?』

『組み立てられたMSを受取りに・・・ね♪』

その後宇宙に上がると、予定通りミネバ達と別れたプルツーは月面上貨物船「ランブリン」に無事乗船していた。言う
までもないがこの貨物船は偽装されていて、実際はネオジオンの作戦用の物である。無論大勢のネオジオン兵がそこ
で待機していた。

 

月面上貨物船「ランブリン」内

『私のMSは?』

『すいません、クインマンサmkUはまだ組み立て段階でして。ツー様のMSはあの量産型キュベレイです。』
MSデッキにいたメカニック・マンが流れてきて、来た方向を指差して言った。

『11年前のMSが実戦で通用するのか?』

『この6年の間、戦争が無かったのでMSの性能はさほど向上してません。セキュリティのMSは大半はジェガンですし
この量産型キュベレイは外見は同じですが、ジェネレーターは最新のもので、サイコミュもサイコフレームを採用してま
すので、機体の反応性は明らかに違いますよ。』

『ツー姉様、それに量産型キュベレイは0088当時、量産機としてはトップクラスの性能を誇ってました。本来なら当時
のものでも十分通用しますよ。』

『ふーん、そういうものなんだ・・・。ところでフォウはMSで出撃しないのか?』

『組み立てが終了したNT専用MSはそのキュベレイ一機だけなんです。私達の分も頑張ってくださいね♪』

『私だけ!?・・まぁそんな大変そうな任務でもないし・・・。私一人で大丈夫か。』

『念のため言っときますけど、無茶は駄目ですよ?突入隊はちゃんといるんですからね♪』
プルフォウは微笑しながら意味深に言った。

『え・・・?わ・・・わかってる!』
(もしかしてばれてるのかな・・・。フォウのヤツ鋭いからな・・、厄介だ。)
プルツーがやや動揺しながら言ったのを聞くと、プルフォウはおかしそうにプルツーの顔をながめてから、持ち場に戻
っていった。

(絶対・・・ばれてる・・。たぶん邪魔はしないだろうけど・・な。・・・不安だ。)
プルツーは頭が痛くなった。

『プルツー様、これが最新の連邦軍の機体データです。』
メカニック・マンはタウ=リンが買い取ったデータをプルツーに渡した。

『ありがと。』
(たいした性能の向上がないっていうのは本当みたいだな。汎用性は高そうだけど、これなら問題ない。このキュベレ
イで十分だ。・・・時間もあまりないし、とりあえずは機体のチェックでもしとくか。)
プルツーは量産型キュベレイ(赤)に乗り込むと、炉を入れ、計器のチェックを始めた。
(うん、問題ない。・・・これがサイコフレーム・・。確かに反応はいいけど、ちょっと過敏かもしれないな。)

『そろそろ作戦の開始時間になります。プルツー様も急いでご用意を・・・パイロットスーツはこちらでございます。』

『わかった。・・・?これ、前着てたヤツ・・・?』
手渡されたパイロットスーツは以前のネオジオン抗争で着てたものと同じに見えた。

『サイズは変わってますけど、デザインは同じですよ。メイファ様が作らせたんです。』

『・・暇だな、あいつも。』
そう言ってプルツーは嬉しい気持ちをごまかしたが、表情は緩んでいた。

 

作戦開始時間

ハウエルの船内放送が流れている。

-『もはや地球中心の世界は終った!!人類は新しい段階に入った事を地球連邦に思いしらせよう!新しい魂は古い
法では決して縛れないのだ!!我々はなおも戦いを続行する!英霊の護りあれジークジオン!!』-

「ジークジオン!!」
兵士達の士気は最高潮に達していた。

(もう後戻りはできないな・・・・。)
プルツーはどこかでこの現状が夢のような気がしてならなかった。目覚めてからというもの、どうも頭がはっきりしない
せいもあったが、自分をとりまく世界がこうも変わっていては無理もない。
『プルツー機、キュベレイ量産型、出るっ!』
プルツーのキュベレイを先頭にして6機、ランブリンのMS隊がシッガルト発電基地に向け、発進した。

(速いな・・・。スラスターも増強されてるのか・・。それに・・久し振りだ、この感覚。)
プルツーは久々のMSの感触というものを確かめながら、基地を目指した。

 

シッガルト発電基地

『!何だ・・・・・・MS!?・・・・・・』

『私が先行する。おまえたちは援護をしてくれ。』

『了解!』
ドライセンの砲撃と同時にプルツーのキュベレイとギラドーガ隊は基地にとりついた。

『どうした!!テロか??戦争か!?』

『わかりませんがジオン系のMSを使ってます。』

-『セキュリティの全MSを起動!時間をかせげ!』
MS数機が動き出して、基地の周囲に展開を始めた。全てジェガンタイプに見える。

『のこのこと出てきたな、連邦のMS。・・・ファンネルッ!!』
ファンネルポッドから無数のファンネルを放出させると、即座にジェガン2体に対してオールレンジ攻撃を仕掛けた。こ
のような事態を想定してない上に、訓練も十分でない者に避けられる攻撃ではなかった。二機ともファンネルのビーム
の直撃を受け、一瞬にして大破した。久々のMS戦とはいえ、そこはプルツー、容赦はない。

『あっけないな・・・。まあ軍隊じゃないただのセキュリティ用だし、こんなものか。後はおまえたちに任せる!!』

『はっ?プルツー様どちらに!?』

『すぐ戻る!!遠隔操作は出来るけど念のためキュベレイを見張ってるんだ!』

『しかし・・・』

『聞こえているな!?』

『りょ、了解!』

(月最大の発電基地・・・ここならあるはずだ。)
プルツーはキュベレイを基地上に着地させると、コクピットハッチを開け、突撃隊が入った所から基地内部に進んでい
った。プルツーはこの基地のコンピューターを探していた。連邦の施設であるここならあの事故の情報について何か得
られるはずである。基地内部は時々遠くから銃声が聞こえたが、プルツーは気にせず奥へと進んでいった。近くに人
の気配はない。(@
『・・・ここか。』
それらしき一室を見つけたので、プルツーは銃を構えた。扉を開き、中に人の姿を確認すると素早く銃を突きつけた。
『動くな!!』

『ひっ!!?』
ここで働いてる職員のようである。当然武装もしていない。

(この男だけのようだな・・・)
『逆らわなければ、殺しはしない。そこのコンピューターを・・・?今使ってるのか。なら話は早い。出るんだ!!』

『は、はは、はいっ!!』
言うが早いかその男は脱兎の如く逃げていった。

『さてと、私の身体・・・どこをどう見ても16歳以下だから・・7年前から5年前の定期船の事故記録は・・・・と、』
プルツーは戸籍(?)上は21歳なのだが、身体はどこをどう見ても15歳くらいなので個人の成長の違いも考慮して
例の事故は7年から5年前だとプルツーは考えた。その考えに間違えはなかった。
『意外と少ないな・・良かった、これなら調べられそうだ。乗客の名前・・・これは違う。次は・・・』

『・・・U.C.0094年2月10日サイド6出航便MK-23918、地球標準時AM13:23の交信を最後にミノフスキー残留濃
度の高い宙域において行方不明。搭乗者記録・・・、乗客は・・・。・・!?

      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
  プルツー=レビン
  ルチーナ=レビン
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・

!!!!?どういうことだ!!?私はプルツーだ!私はプルツーだ!!レビン!?一体・・・。・・・る・・ちー・・な・・・?
るちー・・・な・・?るちーな!?・・・ルチーナ!!!そうだ私はルチーナと!!!』

(思い出した!!私はジュドーを助けた後、病院で目覚めたんだ!それでジュドーは木星に旅立つことになって私は・・
ルチーナの所に行ったんだ!!そこで、サイド6でルチーナと義父さんと一緒に暮らしてたんだ!!・・・・それで・・・?
あれ・・・?何故だ、何故なんだ!?思い出せないなんて・・・。0094までずっと普通に生活していた・・・?いや何かあっ
たはずだ何か・・・。)

だがプルツーにはそんな事よりはるかに重要な問題があった。
『ルチーナは!!?私と一緒に乗っていたルチーナはどうなったんだ!?くっ、この情報からじゃ何もわからないじゃ
ないか!!ルチーナ・・・私どうすれば・・・。』

-『プルツー様、応答願います!』-
突然ギラドーガ隊の兵士から通信が入った。

『・・・なんだ?』

-『シッガルト発電基地の制圧は成功しました。作戦は完了です。お戻り下さい。』-

『・・わかった。すぐ戻る。』
(このままネオジオンにいて・・いいのか? ルチーナ・・何処にいるかわからない、気配を感じない・・・けど、すぐに探
さなきゃ!!・・でもどうやって?)
事故に関わっているヌーベルエゥーゴとつながりのある、ネオジオンという組織の中で情報を待つしか方法がないこと
を知って、プルツーは愕然とした。

 

ルシオラ存続計画へ

HOMEへ

QUIN・PLETWOへ