第七話 『檻』-abyss-
『君は・・・?女の子!?』
タクナは聞こえた声と目の前の圧倒的な威圧感をほこるMSを比べて明らかに違和感を覚えた。
(この感じ・・・あの時の?)
プルツーは暖かい感慨が起こったが意識的にそれを払拭した。
『それがどうした!?気安いぞっ!』
クインマンサmkUのメガ粒子砲が一斉に火をふき、Zプルトニウスに襲いかかる。・・・がタクナはそれを寸前でかわした。
『やめるんだ!自分が何をやってるか解ってるのか!?あの艦が何処に向かってて、その結果がどうなるか知ってて言ってるのか?』
タクナは必死にプルツーに訴えかけた。何故そうしたのかタクナ自身にもわからなかった。目の前にいるのは確かな敵。それは明らかに事実のはずだった。言葉で表現できない感覚。それがタクナを支配していた。
『・・・何の事だ?』
クインマンサmkUの動きが止まった。
『あの艦はジオンのハインラインプロジェクトを完遂させるためにシッガルトに向かってるんだ!!』
『!!』
(ハインライン・・・計画・・・。グレミーから聞いたことがある・・。確か・・・
「本来は月の巨大なクレパスを利用して月面上の連邦基地を攻撃するために発案された作戦だ。・・・が、月の構造上、破砕運動が起こる可能性があるため封印された計画だ。支配する世界そのものが消えてしまっては何の意味もないからな。」
「そんな無意味な情報を私に教えてどうするんだ?』
「プルツー、知識というものは何であれ価値があるものだ。それがジオンの作戦なら尚更のこと・・・。戦いがMSの競り合いだけで決まると思うな。」
「戦いに勝つための私達だろう?」
「その通りだ。だからこそ必要なことを学んでもらう。」
シッガルトの地下には核燃料があるとハウエルは言っていた・・・。タウ=リンのヤツ、基地の炉心をアウーラの主砲で撃ちぬく気か!?ハインライン計画を実行する・・・、正気の沙汰とは思えない・・な。)
しかしプルツーには選択の余地はなかった。例え世界がその天秤にかかったとしても・・・。
『・・・・それが何だ。』
プルツーは確かな拒絶をタクナに向けた。
『な・・・。みんな・・・皆死ぬんだぞ!連邦もネオジオンも関係ないはずだ!こんな所で戦ってる場合じゃない!それに僕は・・・ただ人を探してるだけなんだ!!君と戦う理由なんてない!』
『ここで私が戦ってみせないと、あの中にいるルチーナが殺される。だから戦う。今アウーラを落とさせるわけにはいかない!』
はっきりとした意思でプルツーはそう言った。
『君は・・・・。』
言葉にならない声。
『それが私の戦う理由。・・・おしゃべりは終わりだ。』
『そんな・・・何か方法があるはずだ何か・・・。』
『そんなものはない!わかったらここから離れろ!死にたくないなら・・・』
『だめだ!あの艦には彼女がいるかもしれないんだ。通してくれ!』
『それなら・・、悪いけど消えてもらう!・・・ファンネル!!』
クインマンサのファンネルポッドから数多のファンネルが放出され、周囲に展開される。続いてファンネルの先端が光輝き、一斉にビームがZプルトニウスに向かっていく。オールレンジ攻撃である。
『これがファンネルかっ!!だけどっ!』
タクナはとっさにZプルトニウスを変形させ、プルツーから見て上にスラスターを全開させると、ファンネルの展開されている空域から逃れた。
『手加減したとはいえ私のファンネルをかわす・・・?ならっ!』
プルツーはクインマンサmkUのビームサーベルで即座に斬りかかっていた。
タクナもビームサーベルを抜いてプルツーの攻撃を正面から受け止める。
『くっ!戦うしかないのか・・戦うしか・・。でも僕には・・・。』
タクナは目の前の空間に存在するであろう少女に自分と同じ思いを感じていた。
『戦う・・・?戦っている・・・、今・・。』
プルツーは誰に言うともなくそう呟いていた。頭の中を何かがよぎる。もやもやして気持ち悪かった。
プルツーの正面では二つのビームサーベルが接触し、スパークを起こしている。
『ビームサーベル・・・・・。』
目の前の光景を確かめるように言葉にしてみる。
−『格闘戦なら・・・ファンネルは有効的に使えないはずだ!』−
タクナの声がプルツーのコクピットで響く。
『格闘戦・・・・接近戦・・・・・接触・・・・・・!そうか!!』
プルツーはクインマンサmkUの巨大なマニピュレーターでプルトニウスの右肩部をわしづかみにした。
接触回線
『な・・・何を・・?』
タクナはプルツーの意図するところがわからなかった。一抹の恐怖を覚える。
『方法が・・・ある。お前が協力すれば、の話だが・・・。』
プルツーはゆっくりと・・・消え入りそうな声でそう言った。
『本当か!?どうすればいいんだ?』
『・・・この機体はサイコミュ制御で外部からの遠隔操作もできる。今から戦闘空域をアウーラに近づけてく。私は隙をみてアウーラに潜入するから、少しの間この機体と戦ってる振りをしてくれ。そうすれば奴は・・・、タウ=リンは安心する。その間にルチーナを奪回する。』
『そんなことが・・・?しかし僕も探してる人がいる・・・・、時間が惜しい!』
『心配しないでいい。お前の探しているメイファはあそこにはいない。今は・・・この艦と同じくシッガルト基地に向かっている。だから私もクインマンサmkUをその方向に移動させてくから戦いながらその宙域に向かっていけばいい。』
『なんで僕が探している人が・・・?』
『そんなこと説明しているヒマは私もお前もないはずだ。それより準備はいいか?始めるよ!』
『・・分かった!』
『・・・・ありがとう。』
プルツーとタクナはそのままビームサーベルでの接近戦を続けながら、じわじわとアウーラに近づいていった。そしてZプルトニウスがアウーラ側にまわると、プルツーは一旦離れ、牽制にメガ粒子砲を発射した。それをタクナが避けると、そのビームはアウーラのバリアでかき消えた。その発光と同時にプルツーはZプルトニウスに向かってクインマンサmkUを突っ込ませた。それもタクナは寸前でかわす。クインマンサmkUはそのままアウーラのバリアに衝突し、その強力なIフィールドで干渉してバリアの内部に入った。その瞬間プルツーはコクピットから飛び出した。クインマンサmkUは発光がおさまる前にバリアの外に戻っていた。そして何事もなかったかのようにZプルトニウスと戦闘を続行する。戦闘空域はアウーラから少しづつ離れていった。
『うまくいったみたいだな・・・。』
タクナはほっと胸を撫で下ろし、シッガルト基地の方角へ戦闘空域を誘導しはじめた。
(そう言えば名前も聞いてなかったな・・・)
タクナは姿を見ることもできなかった、今の今まで話していた少女の無事をただ祈った。
プルツーはアウーラの外壁にとりつくと、内部への入り口を探し始めた。
『外作業用に使うハッチがあるはずだ・・・・。どこにある・・・? ・・・・それにしてもでかいな。』
プルツーは潜入工作と平行してサイコミュコントローラーでクインマンサmkUをタクナのプレッシャーに常に向かわせて、適当にメガ粒子砲を発射しなければならないのを考えると気が滅入った。
『ある程度アウーラから離れたら機体を暗礁空域にでも待機させるか・・・。』
しばらくして、プルツーはハッチを発見し、アウーラ内部への潜入を果たした。アウーラ内部は広く、またタウ=リン以下ヌーベルエゥーゴの連中はそれぞれの持ち場での作業で手一杯だったのがプルツーには幸いだった。艦内を巡回している者はほとんどいなかったのである。
『ルチーナの気配・・・・・。あっちか!』
プルツーは銃を携えながら、ルチーナの気配のする方向に確実に進んでいった。
一方その頃プルスリー達はルナツー艦隊との接触を間近に控えていた。
『どうしたんですか、フォウ?もうすぐ戦闘に入りますよ。臨戦態勢を整えてください。』
プルスリーはプルフォウのゲーマルクが隊列から外れているのに気づいた。
『大丈夫でしょうか、ツー姉様・・・。さっき確かな心の乱れを感じたんですけど・・・。』
プルフォウはまだルチーナがアウーラに囚われていることは知らなかった。
『小姉さんの波動、はっきりと感じるでしょう?何かあったら伝えてきますよ。』
『だといいんですけどね。ツー姉様はときどき周りが見えなくなることがあるから・・・。』
プルフォウは苦笑しながらそう言うと、隊列に戻った。
−『スリー姉さん、スリー姉さん、大変よ!!』−
プルスリーのヤクトドーガのコクピット内を突然通信でセブンの慌てた声が響く。
『何ですか、セブン?もうルナツー艦隊が間近に来てるんです。通信は控えて下さい。』
−『それどころじゃないんだってば〜!アウーラが、アウーラが・・・!』−
『落ち着いてください、アウーラがどうしたって言うんです?』
−『・・・・スリー姉さん、知ってますかハインライン計画は?』−
『?・・ええ。封印されたジオンの作戦でしょう?グレミー様が言ってましたね。』
−『タウ=リンはアウーラでその作戦を実行するつもりです!』−
『!!!!』
プルスリーは一瞬言葉を失った。
『スリー姉様・・・。シッガルトの地下には核燃料がありましたね・・・。それに加えてアウーラの主砲・・。』
プルフォウは一瞬にしてそれが何を意味するのか理解した。
『月の破砕・・・、その条件なら確かに可能かもしれません。タウ=リン・・・あの男・・・・。』
(何を考えているの・・・? 危険なプレッシャーを感じていたとはいえ・・・。)
『ツー姉様・・、ツー姉様はアウーラに!!ツー姉様に急いでその事を伝えないと!!』
プルファイブが血相を変えてそう言った。
『どうやらそれは叶わないようですね・・・』
プルスリーはそう言って前方の宙域を見据えた。
正面のルナツー艦隊は既にMS部隊を展開し始めていた。交戦までもう時間はない。
『セブン、あなたは小姉さんのいるアウーラに急いで向かってください!私達はしばらくこの宙域を離れることはできないようです。』
−『わかりました。それともう一つ、ルチーナ様の所在がわかりました!・・・アウーラに囚われています。』−
『え!!?・・・そう。それでツー姉様は・・・・。』
(私にはルチーナ様の気配を感じることができなかった・・・。想いは空間を超える・・。ツー姉様が少しうらやましいですね・・。)
−『ツー姉さんはもうルチーナ様を探してアウーラ内部に潜入してるの!私は救援に行ってハインライン計画のことを伝えます!』−
『待って、セブン!』
プルフォウがそう言った時には既にプルセブンの通信は切れた後だった。
『フォウ、小姉さんとセブンに後は任・・・・ !・・・おしゃべりはここまでのようですよ・・・。』
正面モニターに移る連邦のMSにプルスリーは見覚えがあった。
『・・・・スリー姉様、あれは・・・・』
『Hi−νガンダム1機、νガンダム2機、量産型νガンダム7機・・・』
プルナインがMSの機種を確認する。
『連邦の最強MSのオンパレードですか・・・。ジェガンと違って、これはちょっと厄介ですね。』
『セブンの情報でその存在は知っていましたが・・・連邦のニュータイプコントロール計画がもう実戦段階に入っていたなんて・・・』
プルスリーはプルセブンから聞いていたことを思い出した。
『ニュータイプコントロール計画?』
『そうです。強化人間では精神的に不安定で安定した戦力とはなりえない。ニュータイプ研究では私達ネオジオンに比べて数年遅れている連邦が近年戦術部で召集、教育中の部隊・・・。』
『数の上ではこちらが不利ですよ。どうします、スリー姉様?』
『ネオジオン本隊はもう私達のすぐ後ろにいます。ここで退くことはネオジオンの敗北を意味します。・・・迎え撃ちます!』
『ふぅ、そう言うと思いました。しょうがないですね。』
プルフォウはプルツーのことが気になったが、今は戦うしかなかった。
アウーラ内部
『ここか・・・』
(ルチーナの気配、この中から・・・)
プルツーはブリッジに近い通路に並ぶうちの一つの扉を前にしていた。外からロックがかかっているだけなので、開けることは容易だ。プルツーは一呼吸おくと、胸の高まりを抑え、ロックを解除した。